第十四話:レキと狩りと新スキル
「ひょぉぉぉぉっ! ほわちゃっ! あたたたたた!! はいぃぃぃっ!!」
今日もいつものように薄暗い森に、俺の声が響き渡る。そんな様子をレキが呆れたように眺めていた。
「何やってんのよ?」
「見てわかんないか?」
「わかんないから聞いてんだけど? 奇声上げながら変な踊り踊っている理由とかあんまり知りたくないけど、一応ね」
「変な踊りとは失礼なこれは演武だ。関節の可動域を確かめてたんだよ」
「演武ねぇ。絶対、後ろにてきとーって付くでしょ? 何かを習ってた人の動きには見えなかったわよ?」
「そうともいう」
というわけで、足パーツが完成したので、作動確認中だったわけだ。
多脚や、逆関節にすることも考えたのだが、昨日ふだん使い慣れない器官は扱いにくいということを学んだし、今回は時間制限付きのクエスト中なので先送りにして普通の二脚タイプを選択した。
リアルではできない180°開脚ができるので、ハイキックを余裕で撃てるのに感動したが、次の瞬間ちょっと空しくなった。リアルでも柔軟頑張ろうかな?
あと、肝心のコアパーツだが、頭から外して腰パーツに埋め込むことにした。いや、別に股間が急所とか言うおやじ的発想じゃなくて、体の中心だから守りやすく被弾率が低いとどこかで聞いたことがあったからだ。
さて、これでようやく五体そろって人間っぽい感じになったことだし、ステータスも確認するか。
名前:ゼット 大種族:機械族 小種族:ウッディーギア改
HP43 SP3158
STR:31
VIT:29
AGI:36
TEC:71
INT:12
MEN:78
ATK:37~334 DEF:46 MATK:1 MDEF:6
スキル:機工士Lv65 木工:Lv51 錬金術:Lv10 陶芸:Lv27 大声:Lv1 調剤:Lv11 隠伏:Lv13 精密動作:Lv20
装備
倒木のマニピュレーター×4[耐久値451]
倒木の胸パーツ[耐久値623]
倒木の腰パーツ[耐久値334]
倒木の足パーツ×2[耐久値488]
セラミックチェーンソー[耐久値711]
スチームシールドランス[耐久値1124]
ディスクグラインダー[耐久値211]
ディスクボウガン[耐久値161]
小種族名が○○ギアシリーズに戻ってきたな四肢がそろっているとこのシリーズなんだろうか? いきなり改なのはところどころにセラミックパーツを使っているせい?
SPの伸びは言わずもかな、っていうかさっきから動かして見ていて気付いたんだが、これRPGのSPとしてみるから違和感があるんだよな。豊富なSPとSP回復で使っては回復していくゲージを見ていて思いついたのはロボゲーのブーストゲージだ。何だこれ俺だけ別げーかよ? と思ったがマニコとかも別げーやってるっぽいし、そういうのがごっちゃになったゲームということなんだろう。まさにカオス(混沌)とアルモニア(調和)ということか。
木工が50を超えたあたりから伸びが悪くなってきた。スキルレベルは普通に三ケタ行くゲームらしいので、機工士の様に新しい素材を加工すればブレイクスルーがあるだろう。
それにしても流石チェーンソーというべきか攻撃最大値が一気に7倍近く上がりましたよ奥さん。スチーム洗浄機については先を細くしたせいかシステムにランスとして認識されてしまったようだ。この際るーさんの鍛冶が本格的に始動したらアタッチメントで穂先を作ってもらうのもいいかもしれない。敵をぶっさしてその中を蒸気で焼く。なかなかにえぐい武器になりそうだ。しかし、複数の武器を装備している場合攻撃最低値と最高値が一括で表記されるのは不便だな。いちいち一個ずつ装備を外してステータスを見ないと各武器の攻撃値が分からない。
「もういいかしら?」
「OK、それじゃあ行こうか。何を狩りに行く予定なんだ?」
「クエストに必要な能力を上げようと思ったら、私に求められるのは魔法火力なのよね。だからあんたが前衛で私が後ろで延々ブレス吐き続けるってのが理想なんだけど。とりあえずビッグマウスでも狩りに行く?」
「おおう、あいつかぁ」
かつて、苦い敗北を味わったにくいあんちくしょう。復讐の時がこんなに早くでやってくるとは思わなかった。
「? なにか問題?」
「いや、自分の成長を確かめるにはちょうど良い相手だ。リベンジマッチと行こうじゃないか」
「リベンジってあれに負けてたわけ? あたしでもソロで逃げ撃ちしてたら効率は悪いけど狩れる相手よ? あのちびっちゃい姿の時はどんだけ弱かったのよ?」
「色々あってな、相性が悪かったんだよ。それに負けたっつってもぎりぎりだったし、助けてくれただーさんにはあのままいってたら勝ててたって言われたし」
「はいはい、言い訳乙。まぁでも、そんだけ弱かったなら、成長の実感はすごいでしょうね」
「聞けよっ! ヴァージョンアップしてから初戦闘だからまだ実感はないな。これからだ」
と、目の前にプヨンスライムが現れたので戯れにスチームランスを差し込んで蒸気を吹き込んでみる。
ショッパン!
一撃だった。っていうかはじけ飛んでしまった。
「何やってんの? こっちにまでかかったんだけど?」
「それはすまなかった。あんな勢いよくはじけ飛ぶとは思わなくてな」
「まあ、すぐに消えるからいいけど。で、なんでいきなりプヨンスライムなんか攻撃してんのよ?」
「いや、さっき言ってた実感がほしくて・・・・・・。そういえば、最初はこいつ倒すのも苦労したなと思ったらつい・・・・・・」
「なんていうか、ほんっとうに苦労したのねあんた」
「その分楽しんだともいえるけどな」
というのは強がりだ。実際結構つらかった。とくに最初の木工を得るまでが・・・・・・。
「そういうことにしといてあげるわ、っと・・・・・・いたわね」
レキの視線の先にはさっそく最初のビッグマウスがいた。
「じゃ、作戦通り俺が引き寄せるから、火力支援頼む」
俺はまずディスクシューターで注意をひきつけてから、
「シャダオラァァァ!」
大声を発動する。いや、やっぱ手に入れたからには使わないともったいないしね。
「キシュァァァァ!」
怒り狂った様子で突撃してくるビッグマウス。シールドスチームランスを前にだし蒸気で牽制する。まともに受け止めるにはまだ体のパーツが心もとないと思う。
よし、ひるんだ。今のうちにこちらから距離を詰めて、チェーンソーの刃と、ディスクグラインダを首と頭に当ててスイッチを入れる。
「そのマヌケ面ぁ、削り取ってやるけぇ、覚悟しいやぁ!」
キュィィィィィィィ! ブジュジュジュジュジュジュ!
甲高い音ともに二つの機械がビッグマウスの体にめり込んでいく。そして・・・・・・。
「ギュアァァァァ!」
ビッグマウスは光の粒子になって消えてしまった。
「え? あれ?」
「あんた一人で倒しちゃってどうすんのよ・・・・・・」
「いや、まさか一撃だとは思わなくて・・・・・・前に戦ったときに苦労したからって最大火力ぶっ込んだら死んじゃった。テヘペロ」
「うざいからそれやめてくれない?」
ホント、前回の苦労はなんだったんだと言いたいが、リソースを節約しつつ戦えるとなるならそれはそれでありがたいか。
「どうする? ちょっと狩り場のレベル上げてみる?」
「いや、俺は予備パーツがないから、安全マージンを取っておきたいんだよ。しばらくはここで狩ろう」
「わかったわ、今度はちゃんと私に撃たせてよね?」
ついでに各パーツの耐久性能がどのくらいなのか見ておくか。
次の標的を見つけ引き寄せてから組み合ってみる。各関節が軋んでいやな悲鳴を上げている。耐久値をみるとみるみる減っていくのが分かった。やっぱり、木製だと限界があるか?
「どいてっ!」
「OK!」
レキの合図で俺はスチームランスの蒸気でビッグマウスをひるませ離れると同時に青白い閃光が襲う。つか、タイミングギリすぎだろ?
ビッグマウスは二、三度痙攣してから地に倒れ伏した。どうやらマヒの状態異常らしい。毒耐性は高かったが魔法体制はそれほど高くないのか・・・。
レキはそこに追撃でサンダーブレスをたたきこんでいく。丁度5発目で光の粒子に変わった。
「やっぱブレス系は一撃の威力が足んないわね。その分詠唱なしで連射が効いて状態異常付与率が高いんだけど」
そんだけメリットがあれば十分だろう? 威力的にも5発で狩れるなら十分だと思う。俺なんて20発以上叩き込んでも倒せなかったんだぜ。
「そういえば、こんな状況で新しい魔法系スキルってとれるのか?」
「魔法系スキルっていうかアーツスキルは系統ごとにポイント制なのよ。たとえば火魔法Lv2でファイヤーボールLV1を覚えてるとするなら、それをLV2に上げるか、他スキルを覚えるかを選択できるわけ。私は「属性ブレス」を取ってるからレベルが上がればその系統に属するアーツスキルを覚えれるわ。後、戦闘で覚えたスキルがいくつかってのが今のスキル構成ね」
おれの、大声はそういう仕様じゃないんだが、これは特殊スキルってことかね?
「でも別系統の魔法を覚える方法は不明と、レキもたいがいいばらの道を進んでるよな?」
「でも、ブレスはなんだかんだ優秀だから、ゼットよりはましよ。今はサンダー一本伸ばしだけど、いずれは他属性も全部取るつもりだし」
「汎用型か? ふつうは一極か、サブ取って二極かだろ?」
「普通はね。でもどうせなら、いろんなとこに行けるようになりたいじゃない?」
「まぁ、それは分かる」
効率プレイで上を目指すのもいいが、折角のVRゲームなんだ、いろんなところに言っていろんな体験をするのもいいじゃないか。
そういう意味では、俺とレキのプレイスタイルは似通っていると言えるのかもしれない。
「いつかいろんなとこを一緒に回れるといいな」
「まぁ、いずれね。今は目の前の狩りに集中しないと」
次の獲物を探す。
まともに組み合えないとわかったので今度はスチームランスで牽制しつつヘイトを稼いで攻撃はできるだけ交わし、とどめはレキに任せるといった方法をとる。
蒸気攻撃がなかなかヘイトを稼いでくれるのか、攻撃力が高いはずのレキの方へはほとんど敵は向かわなかった。これはうれしい誤算だ。
「あっちょっと待って新しいスキルが生えてきた」
狩りを続けて一時間ほど経った頃、レキがそう言ってヴァーチャルパネルを操作し始めた。
「OK、じゃあこいつは倒しちまうな」
俺はそんなレキを見て、目の前のビッグマウスにチェーンソーでとどめをさす。
「ありがと。ん~補助ブレスか~あんまり目指すプレイスタイルとは関係ないわね」
「補助? どんなのがあるんだ?」
「主にデバフ系。今覚えられるのは、スロー、フォッグ、カースの3種類ね」
「スローは分かりやすいけど他二つは何だ?」
「フォッグが視力低下、カースは魔法攻撃力低下みたい。これなら取るのはスローかしらね?」
「そのこころは?」
「ソロの時も使えて、逃げだす時にも有利。そもそも攻撃が当てやすくなるのは大きな利点でしょ」
「なるほど理にかなっている。個人的にはクエストボスが魔術師だから、メタ張りしてカースもありだと思うが、他人のスキル構成に口を出してもろくなことにならないしな」
「そうね全部自己責任。さて、今日はこれくらいにしましょうか。あたしはもう落ちなきゃいけない時間だわ」
「そうか、俺はちょっと装備の改造案を思いついたからその図面引いとくわ。ということで今日はこれで解散だな」
「そうね、じゃあお休み。また明日時間があったら遊びましょ?」
「OK,また明日な」
俺はレキを見送ってからヴァーチャルパネルに向かう。あぁそういえば火鼠の毛皮、色々ありすぎてすっかり忘れていたけどこれも加工してしまわなきゃいけないんだったな。ちょっと遅くなるかもしれないけど、頑張ってみるか。




