第十三話:楽しい実験教室「虹色の砂と魔石・後篇」
この話は後篇です。前篇を読んでない方はそちらからお読みください。
爆発を食らって死んでから数分。目覚めた俺はまず体の確認を行った。
幸い窯に突っ込んでいた右腕を一本失っただけで済んだようだ。窯をを覗き込んでいた為コアパーツがほかのパーツより先にダメージを受けたのが功を奏したのだろう。
「マニコは・・・・・・無事か・・・・・・」
「あう~。くらくらするよ~」
大きな音で目を回しているようだが爆発に巻き込まれてはいないらしい。適当に作った割には丈夫な窯で助かったというところか。
「なになになにっ!? 何か大きな音したけど大丈夫なの!?」
と、レキが俺の実験場(といっても道具が置いてあるだけの場所だが)へと飛び込んできた。
「実験失敗でちょっと爆発が起こっただけだ。俺が一回死んだがマニコは問題ない」
「問題なくないよ~。あ~、まだ耳がちょっとおかしい」
マニコがふらふらと近づいてきた。それを見てレキがほっとしたような表情になる。顔が犬なので非常に分かりづらかったが気のせいではないだろう。VR空間でも大きすぎる刺激を受けるとリアルの体に支障が出るから心配したのだと思う。たいてい強制的にカットされるので問題になることはほぼ無いのだが。
「何やってるのよ。実験失敗で爆発なんて前世紀のコントじゃあるまいし」
「すまなかった。だが、あれを予測しろというのはちょっと無茶だろ?」
「そうだね、いきなり爆発するなんて思わなかったね。音から言って四つとも連鎖的に爆発したようだけど、どっちのディスク?」
あぁ、そうか、マニコは窯から離れたところにいたからわからないのか。
「樹脂ディスクの方。化学反応で爆発したというよりはきっと熱膨張でいっぱいいっぱいになってたところに外から刺激が加えられて破裂したってとこじゃないかな?」
「それにしては音が大きくなかった? それなら今度は同じ状況で触らずに冷ましてから刺激を与えてみる実験をしないと証明にはならないよね?」
「あぁ、一回それでやってみっか」
「うあ、ゼットってマニコと同じ人種だったんだ」
「え? どういう意味?」
「思考遊戯が何よりも優先されて、それを確かめるためには他のことの順位が下がりがちになる人種。平たく言えば実験馬鹿ね」
「否定はしない。さてと、じゃあ、窯の中を片付けないとな」
俺は窯の中を再び覗き込む。爆発の勢いで火は消えてしまっており、粘土ディスクの破片がそこら中に散らばって・・・・・・いなかった。
「オイオイ、マジかよ・・・・・・」
「なに? どうしたの?」
「残ってやがるんだ。それも傷一つない状態で」
そう、粘土で成形したディスクは傷一つない状態で残っていた。しかも虹色に輝く物体へと変化して。真中に穴のあいた円盤状のそれはさながら何も印刷のしていないCD-ROMの様だ。
「虹色セラミックのディスク。なるほど、虹色の砂は粘土と混ぜて焼くとこんな変化を起こすのか。」
結構目の粗い粘土だったのだがそれを感じさせないほど表面が滑らかなのはゲーム的変化ということで納得しておこう。それにしても注目すべきはその頑丈さである。コアはともかく、自分の腕一つ吹っ飛ばした爆発に無傷で耐えるというのは魅力的だ。いかんせん装甲に使えるほど量が無いというのが残念だが、それでもこの硬さがあれば今一番ほしい道具が作れるかもしれない。
俺はスロット製作で長方形の両端を丸くしたパーツを一つと二連に連なった小型の刃パーツを多数作って爆発検証実験用の樹脂玉と一緒に窯の中へ入れた。ついでと言っては何だけど弄れる部分を作りなおした魔石粘土も入れておく。うまく固まれば使い道があるのだ。
「なるほど、あれができないか確かめるんだね? でもいいの? 貴重な虹色の砂をそんなに使っちゃって」
「昨日の狩りで少しは出たし、まだ余裕はあるさ。忘れないように他のパーツも作っとかないとな」
俺は木材を製作スロットに入れて歯車やジョイント部分を作成する。マニコはマニコで出来上がるまでちょっと領域の様子を見てくると言って行ってしまったが、レキはその作成の様子をぼーっと眺めていた。
「こんなん眺めていてもつまんないだろ? お前も自分のレベリングに戻っていいんだぞ?」
「いやよ。さっきみたいにいきなり大きな音で驚かされたりするのは心臓に悪いわ。これからあんたたちが実験する時は出来るだけ私も一緒にいるから」
「そうか、そっちがいいのなら俺は別に気にしないけどな」
そう言いながら俺は昨日手に入れた石亀の甲羅の中からできるだけ大きさの同じものを選別する。
「何やってるの?」
「魔石粘土がうまく固まったら作る道具の材料を選別してるの、スロット製作なら多少の大きさの違いは合わせてくれるけど、できるだけピッタリのものを選別しておいた方ができが良くなる気がしてな。それに取り回しの関係で小さいものを選びたい。」
「二枚貝みたいに合わせるわけね。そこから何ができるのか見当もつかないけれど。そういえばあの魔石粘土は何ができるわけ?」
「あぁ、そういえば知らないのか。まぁそれはできてからのお楽しみってことで」
レキは「そう」とだけ呟くと再び無言に戻った。話しかければ答えるが本来はこういう無口な少女なのかもしれない。
「さすがに暇ね。私もここでできるレベリングするわ。何か壊していい的とかない?」
無口ではあるがおとなしいわけではないらしい。俺は使い道のないクズ木材ををいくつか渡した。
「アーツスキルの練習か? 俺にはないからアドバイスはしてやれないな」
アーツスキル。所謂、必殺技的な物のことである。俺たち機械族や人間種族でも機工士は扱う機械がそれに当たるとされるので覚えることは少ない。あ、っていうか自分も一つ覚えてたか。「大声」まったく使ってないから忘れてたわ。
「いらないわよ、さてと『サンダーブレス』」
レキの口から青白い閃光が放たれクズ木材が砕け散る。
「おぉ、結構威力があるじゃないか。やばいな本格手にパーティー内戦闘量ランキングで俺がワーストになったかもしれん」
「? 製造職なんだから当たり前なんじゃないの?」
「失敬な。ちょっと遠回りになっているだけで、俺はもともと前衛志望ですよ?」
「そうだったんだ、もの作ってるとこしか見てないから分からなかったわ」
「そういえばそうか、じゃあ明日は一緒に狩りにでも行ってみるか?」
「それもいいかもね、前衛がいると私も楽だし」
「おお、ツンデレた」
「人のことツンデレとか型にはめる大人は嫌われるわよ?」
「なるほど、気をつけてみることを検討しよう。ところでツンデレって積んでレって書くと新しい音楽用語っぽいよな」
「積んでソとか積んでファとかあるわけ? ツンデミって言うとヴァンパイアハンターのデミトリっぽいわね?」
「っぽいな、あれは傲慢でデレがないしな、まさにツンの権化って感じだ。そうかツンデレのツンは傲慢って意味だったのか」
「ツンデレは傲慢の罪…と、道理で各方面でルシファーはツンデレに描かれるわけだわ」
「いやでも冷静になって考えるとツンと傲慢はやっぱ似て非なるものだよな。じゃあ、傲慢デレはゴマデレ?」
「あたしは鍋を食べる時は断然ゴマダレ派だわ。でも傲慢でデレられるって、つまりそれは、単なるはた迷惑なストーカーよね? 気をつけなさいよ?」
「何を?」
「そうやって結構遠慮なしに踏み込んでくるあたり。傲慢の罪が芽吹いているのじゃないかしら?」
「はい、気をつけます・・・・・・(笑)」
そんな楽しくもくだらない会話の間に作業は進み、そのうちマニコが帰ってきた。
「おおっ? 何か二人ともいい雰囲気じゃない何かあった?」
マニコのからかうような視線にレキは目をそらす。
「そういうのいいから。で、領域の方はどうだったの?」
「んー、今のとこは順調問題なし。屋敷の植物の支配権に入ってないから当たり前だけどね。明日には何かしら変化があると思う」
「そうか、じゃあ爆発実験の前にパーツを取り出しておこう」
焼きあがったパーツは想定通りの大きさになっているのでさっそく組み合わせる。本格的に冷ます時間が要らないスロット製作って便利ね。
作成にちょっと時間がかかるので、その間に魔石粘土の方も取り出してみる。こちらもしっかり固まってくれている。試しに魔力を通して見ると勢いは変わらず、蒸気を噴き出してくれた。
「なんで、湯気が出るだけの装置作ってんの? スチームパンクでもするつもり?」
「おお、それもいいがいかんせん出力が足りないと思うので今は却下だな。まあ見てろって」
成形しなおして取っ手の様な形になった蒸気発生装置を石亀の甲羅、そして木製の口が細くなっているノズルとを合わせると・・・・・・
「簡易式高圧スチーム洗浄機~」
「掃除してどうすんのよっ!」
「いい突っ込みをありがとう。でもほら必要だろ? 長年放置されてきたギルドホールを掃除するのには超便利だぜ?」
「そうかもしれないけど今作る必要はないわよね? とらぬ狸の皮算用って知ってる?」
「いやちゃんとその前にも使えるって、取り説にはちゃんと「人に向けて使用しないでください」って書いてあるんだ。しっかり武器にもなる」
「いや、無理でしょ? はあ、もういいわ。もう一つは何なの?」
「おっ、ちょうどそっちもできたみたいだな」
スロットから取り出すとこれは見た目ですくに分かったみたいだ。
「なるほどチェーンソーね」
「これからギルドホールを補修するのに倒木だけじゃ心もとないからな。というわけで領域の木を切っていいかマニコ?」
「試し切りしたいなら一本くらいはいいよ。ただ私の領域の木ってまがまがしい雰囲気出したくて歪んで育つように調整しているからあまり建材には向かないと思うけど」
「そこは何とでもなるさ。っと、これでいいかな?」
俺は一本の木に目を付けセラミックチェーンソーの歯を入れた。うん、問題なく切れるな。そのまままず三角の切れ目を入れ、その逆方向から切っていく。テレビの見よう見まねだが何とかなるだろ。
やがて、めりめりと木が倒れ始めた。
「たーおれーるぞー」
別に倒れる方向に誰もいないがお約束だ。そのまま木は思った方向よりちょっと右よりではあるが問題なく倒れてくれた。
「問題なく使えるみたいだな。さてもうそろそろ冷めただろう。次はお待ちかねの爆発実験だ!」
「おおう、えぃくすぷろーじょーん」
「なんでそんなに楽しそうなのよ、あんたたち・・・・・・」
「いやだって爆発だぞ? 普通こころ踊るだろ? 現実では危ないし迷惑だからできないが、ヴァーチャルならやりたい放題だ!」
「そうだよレキ。爆発でテンションあがらないなんて人間としておかいしいと思うよ?」
「それが人間なら、あたしは人間じゃなくていいわ」
「なんかかっこいいなそれ。それじゃあ皆様、十秒後に発射いたしますので、耳をふさいで口を半開きにしていてお待ちくださぁい」
会場アナウンスのまねをしながら俺はディスクシューターで狙いを定める。窯の入り口の正面に立つと、さっきの二の舞なのでやや斜めから跳弾を利用して狙い撃つ。
・・・・・・7,6,5,4,3,2,1…発射
ドッバボン!
ややまぬけな音がして窯の中から虹色の煙が立ち上った。
「期待さした割にしょぼい音だったわね?」
「あ、やっぱり期待してたんだ?」
「あぁ、もうそういうことでいいから。今回も4個入れてたわよね?音が一回しか鳴らなかったけれど?」
「爆発力は弱くなっているということか」
窯に地被くとプラスチックが燃える時のようなひどいにおいがした。どうやらこの煙の臭いの様だ。そういえば機械の体なのに結構感覚鋭いよなぁ。嗅覚まであるなんて・・・・・・まあ口がないから味覚は無理なんだけどね。
窯の中には破裂していない玉が3つ。アイテム名をみると「新規アイテムです名前を設定してください」と出ている。
とりあえず名前は後回しにして樹脂玉(仮)を窯から取り出す。
「こんなんでました~」
「「???」」
「おおう、ジェネレーションギャップ。まぁ、普通に触っても大丈夫になったみたいだ」
「衝撃が加わるとさっきみたいに煙を吐き出して破裂するのかな?」
「ちょっとやってみるか」
近くの岩に一つぶつけてみると、さっきと同じようにドッバボンとまぬけな音を立てて虹色のいやなにおいの煙が周囲に立ち込めた。
「なるほどこれは煙玉として使えるということだな。ということはアイテム名は「レインボー煙玉」だな」
さっそく名前を入力する。登録完了しましたのメッセージとともにアイテム名が切り替わった。
「なんか一気に胡散臭くなったわね? NINJAが使ってそう、忍者じゃなくてNINJA」
「いいじゃんNINJA。下水道に住んでるピザ好きの亀みたいで」
「もしくはネオ・サイタマか? さてこれで一通り実験をし終わったし、俺は無くなった腕と腰、足パーツを作って落ちるがお前らはどうする?」
「私も落ちるかな~。今日はもうやることないんだよね」
「あたしはもうちょいレベル上げしてるわ。じゃあこれで解散ね」
「無理すんなよ」
「しないわよ。・・・・・・また明日」
「おう明日の狩り楽しみにしているぞ」
「え~二人ともそんな約束してたの? ずるい~ってもこっちも明日は手が離せなくなりそうなんだよね。というわけで、明日はわたくし引き込もります」
そんなこんなで、この日は解散となった。
明日は新しいパーツの試運転を兼ねた狩りタイムだな。
長くなりそうだったので、前後篇に分けてみました。
でも合わせて8000字程度なので分けなくてもよかったかもしれませんね?
それでは、また次回。ここまで読んでいただきありがとうございました。




