第十話:探検隣の遺跡さん
レキがいたのはマニコの領域から少しだけ外れた場所だった。
幾分明るい緑色の蔦と草がひときわ欝蒼と茂っている一角。そこに隠れるように明らか人工物と思われる二本の柱がのぞき、その間にまさに草の洞窟とも言えるような洞穴が開いている。奥には少し広い空間が広がっているようだ。
しかしマニコの領域の近くにこんなものがあったなんて気がつかなかったな。
「調べてみたらAGI型のレベリングって、最初期はただ走り回るのが一番効率がいいってなってたのよ。だから、とりあえずでマニコの領域一周してたら、見つけたのよね」
とは、レキの談。
そういえば、自分の成長ばっかりに目が行っていて、周りの探索とかしてこなかった。それじゃあ、近くの洞穴を見逃すのも無理はないか。
「それじゃ中に入ろうと思うけど、誰か斥候スキル持っている人~」
ダンジョン探索は一に警戒、二に警戒だ。まずは偵察を兼ねたパーティーの先頭を決めようと思ったのだが・・・・・・。
し~ん
・・・・・・誰も・・・手を上げない。
「あれ?だーさんあたり戦闘スタイルから持ってそうだなって思ったんですけど?」
「えっ? いやぁ僕は・・・・・・」
「無駄ですよ~ゼットさん。だーさんはこう見えて戦闘面では前衛馬鹿ですから~。目の前の敵を倒すこと以外何もしてくれません~」
だーさんが照れくさそうに目をそらすところをみると図星らしい。何だか意外な一面だ。そういえば最初に助けてもらった時も、奇声を上げながら突撃してきていたっけ?
「というわけで~、一番体力と耐性が高いと思う私が、漢女探知しますね~」
「いや、そのネーミングはどうなのよ?」
あふれる体力と防御力を背景に罠にかかってみて探知する。通称「漢探知」それの女版といったところか・・・・・・。
「たのもしーですねぇ! るーさん行っちゃってください!」
「はい~っ! いっちゃいますよ~!」
マニコの掛け声とともに入口向かって突撃するるーさん。
ずむっ!
「は・・・・・・」
「「「「は?」」」」
「はさまっちゃいました~」
「「「「ベッタベタだなぁっ! おいっ!」」」」
ノリの良い仲間たちで実にうれしい。
るーさんの種族はオーク。縦にもでかいが横にもでかい。入れるかどうかギリギリだと思っていたら普通に詰まってしまった。
ともかくこのままでは後続の俺たちも入ることができない俺はグリスを取り出すとだーさんに渡した。
「だーさん、これ詰まっている部分に塗ってあげてください少しは、抜けやすくなるともいます」
「あぁ、すまないね。助かるよ」
そう言ってグリスを受け取っただーさんは柱とるーさんの間に塗りこみ始める。
え? なんで自分でやらないかって? いくらヴァーチャルとはいえ他人の奥さんをヌルテカ状態にして撫でまわすのはいかんでしょ? たとえそれがまったく劣情を催さないオークの姿であったとしても。
「どうですか? 抜けそうですか?」
どうやら大方塗り終わったらしくだーさんがるーさんに声をかける。
「はいなんとかいけそうです~。よっ! んしょっ! とぉぉぉぉおおおおお!」
ずっぽん! ガラガラドッシャーン!
妙な掛け声とともに宣言通り、るーさんの体は抜けた。
・・・・・・外ではなく、中に。
「ああっ、大丈夫ですかるーさん」
るーさんが入った直後響い大きな音に驚いて、あわてて中へ飛び込んでいくだーさん。
もう警戒も何もあったもんじゃない。俺たち残りの三人も後を追った。
「けほっけほっ、あぁもうっ! 埃っぽいわね!」
「仕方ないよ、廃墟ってそんなもんだよ」
るーさんが転がり込んだ影響か、中に入ると大量のほこりが舞っていた。
中は薄暗いが、天井から少しだけ光が漏れているため、視界の確保が可能なくらいには明るい。意外に整った作りをしていて、天井は吹き抜けとなっており、目の前にカウンターらしきU字の机、その両横には二階へあがる階段それを登るとロフトっぽくなっている通路から二階の部屋に入れるという仕組みらしい。
つまり総合すると。RPGなんかでよくみる宿屋やギルドの受付の様な作りである。ただ、そこかしこに蔦が這っているのが少し不気味に見える。
「なんか、ダンジョンって雰囲気ではないわね?」
「だな、なんで植物に埋まったのかは分からないが、結構新しいように見える」
「年代測定は見た目だけじゃわかんないでしょ? 運営がどういう歴史設定しているかもまだ明かされていないんだし。とりあえずるーさんとだーさんと合流して探索しよ」
「マニコの言うとおりね。うだうだ言うには、まだ情報が足りなさすぎるわ」
二人の意見はもっともだ早くだーさんとるーさんを見つけよう。といっても転がり込んだだけなのですぐに見つかるだろうが・・・・・・。
「るーさ~ん! 大丈夫ですかーっ?」
案の定二人はすぐ近くにいた。
どうやらカウンターを避けた拍子に積んであった椅子の塔に突っ込んで埋まっていたらしい。
「あ~う~、ひどい目に逢いました~。まったく恐ろしいトラップですよ~」
椅子の山から出てきたるーさんはほとんど負傷していなかった。さすが漢女探知を立候補するだけある丈夫さだ。
「いや、まったくもってトラップではなかったと思うんだが・・・・・・。さて、これからどうしようか? 一応本格的なダンジョンではないみたいなので分散して探索するのもありだと思うが・・・・・・」
「いえ、一応固まって行動しましょう。まだ完全な安全が確保されたわけではないですし」
「賛成一票。少なくともあたしは始めたばっかのステータスだし、一人にしないでほしい」
「そうですね~。それに、折角一緒に遊んでるんですから個別行動というのも味気ないきがします~」
「私も一緒がいい。ということで決まりでいいかな?」
「俺も構わない、じゃあまずカウンターのあたりから調べるか」
カウンターの中も植物に侵されていたが、奇跡的にこの場所が現役で動いていたであろう当時の帳簿や台帳が一部残されていた。
「どうやら、ここは元ギルドホールだったようですね。そして何らかの原因で廃れてしまった」
ギルド名「北の蒼騎士団」。所属人数100人越えのゲームのギルドと比較すれば大規模ギルドだ。記録をみると最盛期ともいえる時点でいきなり途絶えている。つまりは何か事件が起きていきなりこんな状態になったというわけだ。
「一気にきな臭くなったわね。団体行動で正解だったわ」
「台帳の年月日をみると、おおよそ200年前の出来事みたいだね。それまではこの建物だけじゃなくて、周りに街もあったのかな? ギルドに関係ない人も結構出入りしている」
「そのとおりでごさいます。あの頃、このあたりはボボンガという街でそれは栄えていたのでございますよ」
「それにしても100人規模のギルドを壊滅させて、街一つ植物で飲み込む奴が相手となると少し・・・いやかなり部が悪いか・・・・・・」
「いえいえ、ギルドが無くなったのは植物に飲み込まれた街への違約金を払えなくて夜逃げしたからで、100人全員がやられたわけではございません。わたくしの様にたまたま近くにいたものは巻き込まれてしまいましたが、それだけでございます。暴走による力の使い過ぎで残っているのは絞りカスでございますので皆様でも十分対処できるかと存じます」
「これって~、ユニーククエストなんですかね~? 失敗すると再挑戦できない感じの」
「ユニーククエストというのは存じ上げませんが、仮に皆様があいつに挑んで全滅した場合、このギルドホールは再び起きる植物の暴走によって倒壊する可能性は否定できかねますね」
「ふーん、そうなの・・・・・・ってさっきから誰よっ! きゃっ!」
振り返ったレキのかわいらしい悲鳴を合図に俺たちも振り返る。
そこには執事服姿で長い髪を後ろでひとまとめにし前髪をひと房だけ垂らした壮年の女性が立っていた。ただし垂らした前髪からのぞく右目のあたりは完全に崩れており生きている様子はない。何より彼女は半透明だった。
「このような姿で失礼いたします。わたくしはこのギルドホールの管理を仰せつかっておりましたエヴァネィラでございます。今はこの通り皆様がたと同じモンスター。不死族のゴーストとなっております」
そう自己紹介をして、彼女はたおやかにに一礼する。
これが、俺たちとNPCとの初めての邂逅だった。
男装BBAとか誰得? 俺得だからいいんですw
なんか真面目っぽい締めになっちゃいましたがシリアスにはなりませんのでご安心ください。
たくさんのブックマークと評価ありがとうございます。これからもがんばりますね。




