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催眠眼の女  作者: 豚野朗
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始まり

hello.hello、こんにちは。

中村文子はスーパーで買い物をしています。


 私は今、スーパーで買い物をしています。


 今日は火曜日で、あんまり人はいない。週末とかになると、人がドドッと増えるから、出来るだけ行かないようにしてる。


 私の親は共働きで、典型的な核家族です。あと、荒くれ者の弟がいます。

 弟は最近反抗期で、チャラチャラした服を着て、横暴に振る舞うようになったので、困ってます。


 今日の夕飯はどうしよう…。

 一応、家で印を付けてきた特売品は一通り買ったけど、やっぱりもう少し買った方が良いかな…。

 これだと普通のご飯になっちゃうよね…。


 カゴの中には、秋刀魚四尾とニンジン、大根、油揚げ、お惣菜が入っている。

 冷蔵庫の中身を思い出す。

 そして何が出来るのか、考えてみた。


 さっきネギが安かったよね…。うーん、どうしよう…、チャーハンにする?でも、弟はネギ、嫌いだし…。また、暴れられちゃうかもしれない。でも健康の為には…。チャーハンには、ネギは必須だし…。


 そんな考え事をしていると、足はひとりでにレジに向かっていた。

 レジのある方を見る。


 うん、このまま帰ろう。


 レジは混んではいない。そのレジには、退屈そうにお客さんを見ている太めのおばさんが立っている。

 他のレジにも全然並んでない。若いお姉さんか何処にでもいそうなおばさんがレジに立っているかの違いだけだ。

 ちょっと得した気分になる。


 お財布を出すためにバックを開けようとしたその時、ドンと横にはね飛ばされる。強い力で私に何かがぶつかってきたのだ。

 あれって、思った時には、床に受け身も取らずに転んでいた。


 ガシャとカゴが床に落ちて、倒れてしまう。中の物が、床に散らばった。

 頭を強く打ったみたいで、ゴンと大きな音が転んだ時に頭に響く。


 そしてグラッと床が揺れた。

 まるで上下左右に私が回されているように感じる。上に浮いて、下に行ったり、左に揺らされて、右に戻ったり…。水の中で浮かんでいるみたいな…。


 気持ち悪い…。

 目が回りそう…、ううん、そうじゃないけど、そうとしか言えない。

 車酔いを強くした感じ…。

 もう、ダメ…。


 私は気を失った。


 *


 ザワザワと私の周りで音がする。

 それと身体を探られているような感じが…。


「あっ…」

 目を開けると、そこはさっきいたスーパーの中だった。

 私は通路の真ん中で倒れている。

 そして周りをグルリと野次馬根性の見物客が並んでいた。好奇の視線が私に向けられている。

 人見知りの私は、そんな視線に一分も耐えられはしない。視線を下に落とす。


「大丈夫ですか」と言ったのは、私の身体を探っていた人。爽やかな男性、多分店員さんだと思う。店員さんの制服もきてるし。怪我がないか、診てくれていたんだろう。

「あっ…、はい、大丈夫です…。今、何時ですか」

 私はお礼を言うために視線をあげた。そしてその人と目が合う。


「痛っ!」

 突然、頭痛が始まった。

 思わず頭を押さえて、頭痛に耐える。

 酷い頭痛…。金槌で何度も頭を殴られているような痛み。今まで感じたこと無い強いものだ。


 グラグラとまた地面が、揺れているように感じる。

 目が回る。

 また倒れちゃう…。


 そう覚悟したその時、突然、治った。

 そして「今は、午後六時四十一分です」と淡々とした声がする。今の店員さんの声だったと思う。

 見上げると、店員さんが怖い顔をして私を見ていた。

 何かしたんだろうか…。


 私は思わず立ちあがって、散らばっている物をかき集めた。

 全部無事だった。幸い、卵とか壊れやすい物はいれていない。

 誰か親切に拾ってくれるとかしてくれないのだろうかと、ちょっとだけ不快な気持ちになった。店員さんも手伝ってくれないし…、本当に私、失礼なことをしちゃったのかな?


 全部カゴの中に入れて、一安心。

 もう見物客も全員いなくなっていたんだけど、店員さんだけ残って、私の事をジッと見てくる。


「あの、私は大丈夫ですから…。戻って下さい…」と目を伏せて言っても、店員さんは動かず、そこに立っているままだ。


 どうしたんだろう…。


 私は思い切って、店員さんの顔を見た。

 するとまた頭が割れるように痛んだ。カゴを倒さないように床に置くのが精一杯だった。


 すると店員さんが無言で去っていく足音が聞こえた。

 頭痛はすぐに止んだ。


 なんとなく、嫌な感じがした。


「あっ、とにかく、家に帰らなきゃ」

 私はレジに走った。


 *


「ただいま」

 家の中は暗い。まだ誰も帰って来ていないろうだ。

 パチっとスイッチを入れる。電気がすぐについた。

 明るくなると、家の中の様子が分かる。


 私の家は一軒家です。4LDKです。

玄関のすぐ横には、リビング、そしてキッチン。玄関から真っ直ぐ廊下を歩くと、洗面台とお風呂、そしてトイレ。


二階には、私たち一人ずつに部屋が割り振られている。階段のすぐ左が弟の部屋、その隣が私の。そして右側にお父さんとお母さんの部屋。


 部屋に荷物を置いて、手洗いとうがいをする。

 洗面台の鏡には、髪の長い地味な可愛げのない女の子が映っていた。

これが、私だ。

 横に置いておいた眼鏡をかける。さらに地味さが、増した。


 冴えない姿の私に嫌気がさす。


 その時、バンと玄関の閉まる音がした。音だけで誰が帰って来たのか分かった。

「健二、おかえりなさい」とすぐに出るけど、もう自分の部屋に上がってしまっている。


何の音楽か知らないけど、音楽をかけていた。隣の部屋だから、いつも聞こえてしまう。

勉強に集中出来なくて困っている。


髪も茶色にして、服は外ではだらしなくしてて、家の中では、黒地にギラギラした黄色の柄が入った服とか、変な趣味の物ばかり着ている。

髑髏とか、英字とか…。


 私は溜め息をついた。

 昔は、「お姉ちゃん、お姉ちゃん」って、可愛かったのに…。

 時間とは、残酷なもの…ね…。


 キッチンに立って、夕飯を作る。今日の夕飯は、焼き魚とお味噌汁、買ってきたお惣菜だ。

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