先輩の背中
足手まとい・・・
先鋒が早々にやられれば・・
「岸ぃ~!がんばれ!」
「潰せ潰せ~」
俺のせいで、必死に食らいついて行く岸が見える。
岸がこの相手の先鋒を倒さないと、正宗が残り三人!?
くやしい・・
少し殴り合っただけ・・
何発か、パンチをもらい、何発目かに、両手でガードし、顔を背けた・・
ここが敗北のスイッチ。
これで、パチンと、一気に切り替わり、後は倒れるまで殴られるだけ。
喧嘩なんて、最初ちょっと殴り合えば、勝てる勝てないは、もうお互い分かるもの・・
「きっ!岸ぃ~」正宗
そして・・・
それなりに、相手先鋒と殴り合ってた岸だが、
「うっ・・うう・・」岸
戦意喪失・・
無様に・・誠のように、ただガードして殴られ続ける。
「もう、止めろやっ!次は俺だ」正宗
「くく・・よえぇな・・クロキタがぁ~」相手先鋒
待っているのは、
ヤキ・・
その前に、こいつらに負ければ、こいつらからも・・
俺はあいつらに、こんな事させただ、やらせただ・・
売名行為が始まる。
どうせ、服脱がされて、正座させられて・・・
「・・大丈夫か・・岸ぃ・・」誠
「バッ!」
「さわんなや!」岸
精一杯の強がり・・
こんな奴じゃないって分かってる。
(正宗ぇ・・正宗ぇ・・正宗ぇ・・)誠
状況は最悪。
正宗一人であと三人を倒さないと・・
(ちっ・・ダメージもらっちまった、カス二人に・・
痛ぇ・・喧嘩なんて、普通、よくて、何ヶ月に一回だろ?
もう、これで、三戦目・・んで・・クロヅキの、正宗か・・)相手先鋒
クロヅキ一年では、ナンバー4でも、同じ世代では、それなりに名前が売れている正宗
まあ、ボンタン穿いてるだけで、
あいつは、絶対やべえ奴だとか、
少し名前が分かっただけで、
クロヅキに正宗ってのが居るらしいぜとか・・
「こいやっ!俺がクロヅキの正宗だあ」正宗
「ちっ!ぶち殺してやるよ!」相手先鋒
(・・・強い・・冷静に見てみると・・こりゃあ・・)誠
「・・大将か?」岸
「あっ・・岸もそう思うか?」誠
向こうは、まず一番強い奴出して来たんじゃねえかと・・
攻防は、やや正宗有利。
もしこれを勝てば、三連勝が見えてくる・・
いやっ、正宗なら。
「・・何やってんだ、お前ら!」
「うっ!」
「おっ・・押忍っ。お疲れさまですっ」
「お疲れ様です。」
「なっ!」
誰が見ても強力・・
ハンパじゃないボンタンに、気合の入った髪形
そう、ここは、白月地区なのだ。
「押忍っ。黒月と、三対三のタイマンです」
「向こうは、残り一人です。ウチのともやが、もう二人倒してます」
(ともや!?くそっ!白月一年のナンバー2だ。聞いたことある)正宗
(ちっ・・こいつが・・)岸
一旦殴り合いが止まっている、正宗と、ともや
「ああ?なにやってんだ?喧嘩か?」
「うぐっ!」
「なっ」
「お疲れ様です」
「お疲れさまですっ」
状況は悪くなる一方。
「なんだ?おめえも居るのか?」
「ああ?うるせえボケ!」
明らかに、上級生。二年か三年の二人が登場。
(なっ!こっちの人も、なんちゅう悪そうな・・)正宗
「うおっ!!」岸
「えっ?うおっ!」正宗
二人が何かを見て驚く
「くくく・・そうだよ、お前ら・・」ともや
二人の上級生の学生服の背中に刺繍。
学生服の背中に刺繍入れてる奴なんて、ハンパな不良じゃない・・
白月で上位級なのは間違いない
赤色の龍と、青色の龍
「し・・白月三鬼龍」正宗
「ぐっ・・」岸
(なっ!超有名人じゃないかよ・・三鬼龍の二人だ・・
パッキンと石田・・)誠
だが・・・
「おめえ、パクるんじゃねえよ刺繍」パッキン
「おまえが、止めろやタコ」石田
(そう、知ってる・・三人仲が悪いんだ・・だが強力・・)正宗
(くっ・・振るえが止まらねえ・・だって、あの・・)岸
(この地元やくざ組織の親分の息子だ・・赤龍って人)誠
しかも、悪党。
そして、僅か二年のこの三人がほぼ、白月中学をシメる。
有名な白月三鬼龍
わずか二年で白月中を制覇
制覇というよりは、もうあとこの二年三人の戦い。
上級生や、同級生は、すでにこの三人に粉砕。
(一匹狼の青龍・・石田と、鬼・・
そして、すべての不良を束ねる、この赤龍・・パッキン)正宗
喧嘩の強さとネームバリューで、ヤラれた者達は、みな赤龍の下へ
白月最大勢力・・いや、白月に一つしかない不良グループといっても過言ではない
ともやも、この赤龍のグループの一員に過ぎない
「んで・・タイマン?」パッキン
「はいっ!絶対勝ちます!」ともや
「ドッ!!」「うっ!」ともや
(なっ!ヤキっ!まだタイマン途中だぞ!)正宗
白月一年のともやが、いきなりパッキンにヤキ入れられる。
「・・・誰が、タイマンしろって言った・・」パッキン
「くくく・・そりゃそうだ・・・」石田
不穏な流れ・・
「・・・はいっ!」ともやは、何やら分かった模様
「くっ・・マジか・・汚ねえ・・」正宗
「なっ!ちょっと待てよ!タイマンだろ!」誠が声を荒らげ
「・・・・制裁だ・・」パッキン
「クロキタが、生きて白月から出られると思うなよ・・やれっお前ら!」石田
「はいっ!!」「はいっ」「おお」
ともやと、残りの二人も正宗に襲い掛かる。
「なっ!正宗っ!」誠
「ガッ!」
「・・あっ・・あ・・・」誠
正宗の方に向かおうとした誠だが、パッキンに服を引っ張られ・・
「・・・座ってろ・・ぶち殺すぞ・・」パッキン
「うっ・・うう・・」震えの止まらない誠
だが、正宗が三人にやられるのを、黙って見てる訳には・・
「きっ・・岸っ・・うっ・・」誠
自分では判断出来ない。いやっ、したくない。
本当は、突っ込みたくない・・
だが、岸が・・・そうなら・・
「おりこうさんだな・・くく」石田
「早く、おめえも、座れや!」パッキン
誠が岸の方を振り返れば、
すでに、岸ともう一人も正座。
だが誠の顔は見れない。当然正宗の方も。うつむいたまま・・
(岸っ・・岸ぃ~)誠
まだそれでも、友を見捨てる訳には・・
いつから、こんな事に・・
「・・・・座れ・・・」パッキン
(正宗ぇ・・)誠
続く乱戦の音。
まだ正宗が、奮闘してる・・カス二人は、もう倒した
後は、ともやだけ・・
(すまん・・正宗・・でも、お前が勝てば・・・)岸
(がんばれ・・がんばれ正宗)誠
「ドッ!」
「うっ」蹴られる、誠
「・・誰が、頭上げろって言った・・」パッキン
「もっと、地面に頭こすりつけろや」石田
「くっ・・」誠
ぶざま・・・
友が戦っているのに、見ることも、応援する事も・・
この正座してこすりつけた頭。自分の弱さ、根性の無さ・・
だが、もう望みもない・・聞こえてくる声
「押忍っ喧嘩っすか」
「お疲れ様です。喧嘩見かけたんで応援に」
「クロキタ~?ぶち殺すぞ」
増えて来ている人数。
もう、喧嘩じゃない、ただ正宗が、後ろから羽交い絞めされ殴られているだけ・・
アピール合戦・・
パッキンと、石田が居るのだ・・
俺はこんな無茶するぞ・・
俺はこんなにひどい事するぞ・・
「ははは、次俺に殴らせろや」
「なんだぁ?くくく、クロキタも大したことねえなあ」
「くそっ、まだ、攻撃してきやがる」
まだ正宗が、意地を見せてる
地面しか見えないが、音と会話で分かる・・
そして俺は何だ?・・・・
ちょっと小突かれて、この様・・何が不良だ・・
「・・・どうせなら・・・」誠
「ああ!?何か言ったかぁ!?」パッキン
誠がこすりつけた頭のまま・・
「・・ぶざまでも・・・戦って負けた方がマシだっ!」誠
「バッ!」と立ち上がる誠
(バカっ・・えっ!?)正宗、誠の方をチラっと、見て。
「ドッ!!!!」
「がはっ!」パッキン
「何やってんだ!お前ら!立て!」
突然現れて、パッキンを殴打する男
「ほうっ・・・」石田
「アンっ、てめえぇ~」パッキン
クロキタ二年のアンが登場。遠くで見かけて駆けつけたのだ。
同じクロキタの生徒がヤラれていると・・
よく見れば、自分がヤキ入れた一年の連中・・
「あっ・・アン先輩っ!」誠
「うおっ、くっ、すんませんっ」起き上がる岸ともう一人の友人
(先輩っ・・先輩っ・・先輩っ・・)正宗
「突っ込め!クロキタに敗北は許されねえんだよ!」安
「はいっ」誠
「おお!正宗~」岸
「うおおお」
先輩の後ろ姿に涙が出そうになる。
先頭で突っ込んで行ってくれる勇姿。
俺達のために・・
しばらく続く乱戦・・・
と、言っても、アン先輩が殴られる音だけ響く・・・
「・・俺の兵隊潰しやがって・・・」パッキン
「まあまあかな・・まあさすがクロキタのアン」石田
「くっ・・うおおおお」アン
それでも、まだがんばるアン先輩。
後輩も見てるから・・せめて根性で・・・
もう日も落ちだす夕方
これが男・不良の勲章?
誰よりも腫れた顔のアン先輩。
そして、正宗も。
俺なんて、まだ、この後に及んで、
ちょっと切れた口の中の血を拭かずにアピールするくらい・・・
ぶざま・・・
最後は、アン先輩も土下座させられていた・・
帰りだすアンと、正宗達
「・・お前ら、帰ったら・・ヤキだ・・」先頭で歩くアン
「押忍っ!」正宗
「はいっ!」誠
「すんませんでしたっ俺達のせいでっ」岸
「ありがとうございました!」
くそ蹴られて、アン先輩の背中に付いた無数の靴の跡・・
汚れきった、その先輩の背中さえ・・
憧れに思えた。
「うおおおおおお」
「・・おおおお」
「うおおおお」
「おおおおおお」
訳もなく・・
叫ぶ。
ただ・・
自分達の不甲斐なさに。