#3 まだ心の準備が…
読んでくれている方は少ないですが、導入編が終わるまで駆け抜けます
『音声ガイダンス開始……』
ディスプレイ全体に荒野が映し出されて数秒、ディスプレイ真ん中と音声によって
ガイダンスつまりチュートリアル開始を告げられる。
『操作説明…HMD⇒視点動作、右操縦桿⇒右腕の操作(上体動作)、左操縦桿⇒左腕の操作(上体動作)、五指トリガー⇒各種動作、キーボード⇒設定、右ペダル⇒アクセル、中央ペダル⇒ブレーキ、左ペダル⇒スラスタ』
「ふんふん、なる程ね。ある程度はオートマ化している訳か…。
五指トリガーは、MMOでいうショートカットだな」
簡単な操作説明であるが、ゲーム慣れしている彼にとって分り易かった。
特にMMOの操作説明に近く理解するのに時間が掛からなかった。
HMDは、マウスによる視点動作の代替だ。
操縦桿の前後動作が、腕の振りや上体の捻りに関わり、五指トリガーがマウスの各種ボタンとファンクションキーになる。
で、HMDや操縦桿とペダルの組み合わせで機動が成されると思われる。
『1、操縦桿の説明…
操縦桿の前後スライドで腕の振りとなります。操縦桿の傾倒で肩および手首が動作します。
フィンガーケージの開閉で握り動作となります。各種指トリガーは、実践にて覚えてください。それでは、ます右操縦桿を前後にスライドさせて下さい』
彼は、ガイダンスに沿って右にある操縦桿を前後にスライドさせる。
すると、ディスプレイ右脇に見えた腕が前後に動作するのが見えた。
特に意味もない腕の前後運動は滑稽に見えた。
『それでは左操縦桿も動かしてみましょう』
◆◆◆
一通り操縦桿の操作方法を理解した彼は次のガイダンスに移る。
『2、HMDによる視点操作
HMDは、装甲騎士の視点および照準と連動しています。首による大雑把な視点動作と目による微細な視点動作が出来ます』
簡単に言えば、大まかな照準を首で行い細かい調整を目で行うって事だな。
近接攻撃には照準というのはあまり関係がないが、射撃武器…弓などでは重要になってくるだろう。
『それでは、これから仮想エネミーを出現させます。動きに合わせて照準を移動させて下さい。尚、音声入力でズームやロックオンなど様々な事が行えます』
すると、ディスプレイ右端から高速で手抜きとも言える簡素なエネミーが高速で縦横無尽に飛びまわる。
そこそこ反射神経に自信があった彼だったが流石に一度も照準内にエネミーを入れる事は出来なかった。
自動補正が多少あったとして、完全に遅れていたのですぐに解除されていた、
「これは難しいな」
『慣れるまで少し時間が掛かると思われます。ズームやロックオンなどを駆使すれば少しは楽になります。それでは次の項目に移ります』
「ああ、そっちはガイダンスないのな。自分で勝手にしろって事か…」
『3.ペダル動作の機動説明
右ペダルは、前方移動および歩行スピードの調整です。中央メダルは、後退移動および制動の調整です。左ペダルは、スラスタの強弱となります。それでは、右ペダルと中央ペダルで前後3セット行って見て下さい』
彼はまず、右ペダルを一気に踏み込む。
一気に踏み込めば、バイクや自動車なら急加速になるだろうが、
彼のエディトした機体は全然そんな事もなく、ゆったりと歩き出した。
分っていた事とはいえ、余りにも鈍重っぷりに彼は少し驚く。
「はは、まるで亀だな。
こんなんじゃ、敵攻撃を避けるなんて事は出来ないだろうな」
2、3歩動かした後、右ペダルから足を放し中央ペダルを一気に踏む。
鈍重故の慣性の無さで簡単に止まり、後退動作に移る。
前方移動に比べてさらに遅い後退移動で止まっているかのような錯覚に陥った
「……」
たった2、3歩前後あわせて4セットしかしていないにも関わらず終わるのに1分ほど掛かった。
『簡単でしたでしょう?それでは、次に左ペダルを踏んでください』
素直に左ペダルを踏むと、スラスタを噴出しながら真上に跳ぶ。
歩行とは打って変わって非常に速い真上移動になった。
鈍重な機体を押し上げる凄まじい推力だという事が窺える。
そして、少しずつペダルから足を放していくと、巨体が地面に着地する。
彼は、繊細な足捌きで静かに下ろしたつもりであったが、巨体故の超重量はそれでも凄まじい音を立てる。
しかし、良い感じに人工筋肉が働いたのか、着地の振動はほとんどなかった。
『それでは、右ペダルを踏みながら左ペダルを、中央ペダルを踏みながら左ペダルを踏んで下さい。』
右ペダルを踏みながら左ペダルを踏む…すると、轟音と共に前方で凄まじい速度で加速する。
次に中央ペダルを踏みながら左ペダルを踏む、これもまた轟音と共に前方には劣るが凄まじい速度で後方に移動する。
彼は、内部機構の設計段階で背中に4基両脚それぞれに2基ずつスラスタを付けていた。
普段の歩行速度が鈍重極まりないのに対してスラスタによるブースト移動は体に似合わないスピードを誇るようになった。
が、巨体故にブースト移動には大量のエネルギー(この世界ではエーテルと呼ぶらしい)が必要で長時間吹かす事が出来ない。
云わば燃費が非常に悪いという事で、相手との間合いを詰める為だけに効果を発揮すると言える。
『緊急回避などには、これが一番有効な手段です。尚、スラスタが搭載されていない機体は当然ながら使用できません。以上で基本操作は終了します。それ以外の応用操作は別途用意されているヘルプをご参照下さい最後には、魔法および神器の使用方法、技の登録方法と使用方法についてご説明します』
彼の装甲騎士は、近接特化型にしてある為このガイダンスを飛ばしても良かったのだが、
もしかしたら今後魔法型を使わないとも限らない…いや、装甲騎士の操縦なんてこれが最後だとは思うが
取り合えず聞いてみる事にした。
『4.魔法の使用と神器の使用
魔法を使用するには、騎士(搭乗者)のエーテルが必要です。騎士のエーテルを装甲騎士もしくは武器に内臓されたジュエルコア(触媒)で増幅する事で初めて魔法として起動します。また、使用するには詠唱も当然必要ですが、短縮詠唱なども可能です。それでは、魔法のガイダンスの準備を行いますので、少しお待ち下さい。
準備中…………触媒が検出されませんでした……ガイダンスを飛ばしますか?』
「”はい”」
今度、機会があるならばその時に使い方を学ぼうと彼は次へ進ませる。
『それでは、神器の使用方法についてご説明します。
神器の使用にはまず、音声入力で”召喚”と言った後、”神器名”を入力し召喚て下さい。
使用方法としては2種類あります。召喚の際と同じように”神器名”を言う方法と、直接使用する方法です。この2種類使用方法を同時には出来ませんので、神器についてよく調べてから使って下さい。では、神器の検出を行いますので、しばらくお待ち下さい。
検出中…………”魔剣グリム”を検出……準備中………
それでは、”召喚・魔剣グリム”と音声入力して下さい』
「召喚・魔剣グリム」
このコクピット内にいるのが自分だけとは言え少し恥ずかしかったのでボソボソと入力した。
『…検出不可…もう一度入力して下さい』
「ちぃ…スー…ハー。よしっ!召喚!!魔剣グリム!!!!」
すると、俺…装甲騎士の上空にそれほど大きくない雷雲が発生し、その中央から漆黒の雷が俺の左前方に落ちる。
落ちた際、凄まじい光量が俺の視界を遮る。
装甲騎士の左前方には、機体の全長を勇に超える巨大な赤黒い大剣が地面に突き刺さっていた。
そして、その巨大な大剣は自重に耐え切れず横に倒れていき、装甲騎士が手に取りやすい位置で止まる。
彼は、装甲騎士の右腕を動かし剣の柄を握った。
すると、ディスプレイの両端に表示されていた機体データが軒なむに上昇する。
その量は約1.5倍に到達し、特に機体出力であるエネルギーゲインが凄まじく上がる。
そして、彼は最も心配していた行動に出る。
それはこの巨大な武器を持つ事が出来るか…だ。
元々大剣などの巨大武器を扱うように設計していたので、人工筋肉を通常量の1.5倍、
補助骨格と彼が勝手に名付けた内部装甲で重い武器を装備しても軽々扱うように出来るようにしていた。
と言っても、データ上だけの話で実際に持てるかは別だった。
彼は、右操縦桿を手前に引き右腕を持ち上げる。
すると、彼が思っていた以上にスムーズに軽々と武器を持ち上げた。
そして、適当に振ってみて何も支障がない事を確認する。
『召喚出来ましたね。神器を持った機体は、色々な意味を兼ねて特別視されており名称も少し変わります。魔具を持った装甲騎士は、一般的に魔甲騎士。そして、聖具を持った装甲騎士は、聖甲騎士と呼んでいます。それでは一通りの説明が終わりましたので、技の登録方法と使用方法に移ります。登録方法には、2通りあり手動で登録する方法と、すでに用意されている技をデータベースから参照する方法です。今回は、データベースから参照する方法を説明いたします。まずは、”ウェポンスキル”と”武器タイプ”と”参照”を入力して下さい』
「”ウェポンスキル、大剣、参照”」
『検索中………………検索中止……参照できません。
参照するデータベースが見付かりません』
「はい?」
『参照出来ましたね。それでは適当にスキルを選択して下さい。
ディスプレイに技の確認が出来ますので、3つ程選択して下さい』
「いやいや、ちょっと待ってくれ。まだ参照出来てないっての」
『選択後、”登録”と入力しますと、各トリガーに割り当てる画面に移ります』
「嗚呼…どうすれば良いんだ?」
彼は途方に暮れて早十分、次のガイダンスに移る気配がない。
どうも、割り当て画面にならないと次へ進まないようだった。
「だぁあああ!もう!”ヘルプ”」
ヘルプ画面がディスプレイに表示される。
「”ウェポンスキル””手動登録””方法”」
次々と下層のヘルプ項目へ移っていく。
そして、手動登録方法が書かれたヘルプに行き着く。
『手動登録方法…”ウェポンスキル””武器タイプ””登録”と入力して下さい。
入力しますと、ウェポンスキル登録画面へと移行します。”登録開始”と入力後に実際に武器を使い動きを登録していきます。基本、装甲騎士は人の動きを再現するように出来ていますので、人が不可能な動きは登録出来ませんのでご注意下さい。全ての動作が終了した後、”登録完了”と入力して下さい。技名の登録、各トリガーへの割り振りに移るには”全工程終了”と入力して下さい。全割り振りが完了する事で技が使用できるようになります』
「”終了”……これって無茶苦茶面倒じゃね?」
しかし、手動登録しなければ技が皆無となる。
それだけは避けなければならなかった。
登録が終わった後、実践があるだろうから…しかも、決闘という実践だ。
あの選択画面に嘘偽りがないとしたら、模擬戦は調整中で使えない筈だからだ。
「まずは、武器の性能をもう一度確認した後に技を考えるか…」
◆◆◆
技登録開始からすでに6時間ほどシミュレータに乗り込んだ時間から計算すれば優に半日経っていた。
空腹という事を頭の隅に追いやり忘れようとしていたのだが、流石に限界のようで2時間ほど前から鳴りっ放しだった。
「あ~腹減ったぁぁぁぁ」
取り合えず、ネイリングを使用した技を1つ、グリムを使用した技を1つ、2つの武器を使用した複合技を1つの登録が完了した。
が、ネイリングの特性上、ネイリングの技と複合技は同時に使用出来ずどちらかの一方一回しか使用出来ない。
その代わりと言って良いのか、その威力は数値だけ見ればグリムを上回る。
技の登録作業中にも武器について色々調べる事で、グリムもネイリングも同じ目的で作られた武器だという事が分った。
それは、グリムの奇跡と重複するがネイリングも龍殺しの武器だった。
と言っても少し赴きが違い、グリムが龍特効とするならばネイリングは龍の対物対魔をも突破する威力と捉えるのが妥当だ。
それとネイリングには劣るものの、グリムは奇跡がなくてもとんでもない性能がある事が分った。
数値上では、少なくとも通常の装甲騎士程度なら一撃で葬る事も不可能ではない。
ベオウルフの機体性能を除外してもその性能なのだから、ベオウルフの性能を完全に引き出せば神器持ちだろうと敵ではない。
簡単に言えば技などなくても大体の敵には勝てるという事だ。
「”全工程終了”」
『それでは各トリガーの割り当て方を説明します。
技は全部で12個割り当てが出来ますが、今回は3つ技を登録しますので説明を省きます。
それでは、まず最初にF1トリガーへの登録方法を説明します。
F1トリガーは、右中指のトリガーの事を指します。
尚、親指はトリガー切り替えで人差し指は起動トリガーとなります。
F1に登録した技を起動させる場合は、F1トリガーを押し音声にて”技名”で発動させ起動トリガーで起動させます。
最初は少し面倒でしょうが、慣れれば簡単に出来ます。
では、F1トリガーと書かれた項目をクリックして下さい』
ディスプレイ中央付近に表示されている登録画面のF1トリガー部分をクリックする。
するとリストがプルダウンし登録した技名が羅列される。
『技名がリストアップした筈です。
そこから技名を選択し”完了”と入力すれば登録が完了します』
F1トリガーに【奥義・龍頸殺】という技を登録する。
これは、魔剣グリムを用いたフルブーストアタック…簡単に言えば居合のような技……になる筈で、彼自身が実践で試していないのでどういう結果になるかは分らない。
『簡単だったでしょう?
それでは他の技も登録して下さい。
全ての登録を終了した後、”終了”と入力する事でガイダンスは終了します』
そして、彼はF2トリガーに【硝砕剣ネイリング(しょうさいけんねいりんぐ)】、
F3トリガーには【最終奥義・硝砕龍頸殺】を登録する。
「な、長かった……。”終了”」
『お疲れ様でした。それでは”模擬戦”に移行します。
処理中………………模擬戦に移行出来ません。
処理中……………決闘へ移行します』
「だろうと思った…」
そして、数秒後画面が暗転し、音声ガイダンスが始まる。
『決闘へ移行……時間軸検索…………時間軸固定………
世界軸”ルビナンス”へ固定……リンク先検索中………
レイツ=エルウイッシュへリンク完了…………同期中………』
「何かどえらい事してない?」
ただ単にディスプレイ中央付近に対戦相手が表示されて「戦闘開始」っていう流れだと彼は思っていた。
『……七龍闘技場【闇龍門】、魔甲機ベオウルフ、騎士名レイツ=エルウイッシュ…同期完了』
彼の意識が一瞬途切れるが、前方から溢れんばかりの大歓声が聞こえ意識が戻る。
「こ、ここはどこだ?」
彼は、自然と暗がりから光の向こう大歓声が聞こえる方へと装甲機を移動させた。
そこは、中世ヨーロッパを思わせる闘技場で装甲機サイズに拡大したような大きさだった。
そして、視線の先には、ベオウルフと同じような装甲機が闘技場中央付近に佇んでいた。
歓声と目の前の装甲機に吸い込まれるように自然と彼も中央まで装甲機を歩ませる。
「紳士淑女の皆様、お待たせしました!
これより、ベルグラシア王国所属、騎士ヴェイグ=ルシ=ベルグラシア、魔甲機クーフーリン!!
そして、聖アルゼルフ王国所属、騎士レイツ=エルウイッシュ、魔甲機ベオウルフの決闘を開始します!!」
「え?ちょ…ま、待って…まだ心の準備が……」
「レディーーーーー!ファイッッッ!!」
余りにも急展開な目の前の出来事に戸惑うばかりで相手装甲騎士の速攻が迫ってきている事に気付かなかった。
どうだったでしょうか?
三人称難しいですね。頑張ります。