【一幕】疾風の斬撃
扉を抜けると壮大な騒音と共に、日の光が飛び込んできた。
今まで二人とも室内に居たので、少々眼が痛く感じられる。
外の光に目が慣れてくると同時に、軽快なノリのアナウンスが会場に響き渡る。
「さぁ、注目の一戦です! ジークフリート選手&クロス・クリムゾン選手 Vs 砂漠の獅子団!! ここまで両組とも無敗です!」
紹介と共に観客がより一層騒ぐ。
かなり注目されているのだろう。
そうジークが自己陶酔に陥っていると、闘技場に設置されている大きなモニターに、それぞれへ賭けられた金額が出る。
……『砂漠の獅子団』の方が多く賭けられていた。
しかも、かなりの差だ。
それは『砂漠の獅子団』の方が観客受けが良いか、期待されていると言うことであろう。
その両方だったら立ち直れない……。
少々イライラしながらクローの方を見ると、クローもその結果に満足していないらしく、不機嫌な顔でジークを見返してきた。
その灰色の瞳は全く笑ってなく、背中に寒気が走った。
しかも静かに刀の柄に手を置きやがった!
俺がクローに殺される前に、試合よ、始まってくれ……。
天にジークが祈りを捧げたそのとき、試合開始を意味する花火が闘技場の上空へと打ち出された。
* * * *
すぐにその場を離れるようにして、ジークは走り出した。
その後を静かにクローが追う。
クローから逃げながらも、素早く敵の姿を確認する。
敵も素早く移動しているためか、地上に2名、空中に1名しか確認できなかった。
まずい……敵も相当のやり手だ……。
そうなると迷ってなど居られない。
足を止め、息を整える。
そして、左手に持っていた大剣を右手に持ち替え、ジークは戦闘体勢に入った。
剣は普通、斬ったり突いたりするのに長けている。
身の丈の二倍ほどの大剣なら尚更である。
しかし、ジークの構えは一風変わっていた。
大剣の剣先を天に向け、天を突くような構えをしていた。
大剣の黒い刃が光を反射し、煌めく。
そして、目をつぶり剣身に気を集中する。
すると、ジークから凄まじい威圧感が出始めた。
それと同時に、黒い刃の中心部ほどに、赤い字のようなものが浮き出てきた。
しかし、敵さんもわざわざ待ってくれるほど優しくはない。
ジークが大剣に意識を集中しているのを好機と思ったのか、音もなく地を蹴り、一気にジークとの距離を詰めた。
地を走っていた体格の良い男が、まずジークへと攻撃を試みる。
しかし、その直前にクローが二人の間に入り込み、とっさに男の攻撃を弾く。
男の手には大きなかぎ爪がつけてあるのを、確認しながらクローは追撃しようと一歩踏み込む。
いつの間に抜刀したのか、クローの手には刀身の紅い刀が握られていた。
その刀で、男の胸部めがけ一気に突く。
しかし、瞬時に身をひるがえされ、そのかぎ爪で刀を飛ばされそうになる。
クローも負けてはおらず、かぎ爪の力をそのまま利用し、後方に跳躍した。
着地と同時に勢いよく地を蹴り、残像が残るほどの高速で一気に斬る。
とっさに男はかぎ爪でガードしようとするが、クローの圧倒的な斬撃に爪ごと割かれてしまった。
斬られた勢いを殺すことができず、男は短い断末魔と共に吹っ飛んだ。
静かに血降りをし、納刀する。
しかし、その隙を狙い、第二弾がやってきた。
割と若い眼鏡の青年と、スキンヘッド野郎だ。
「次から次と…一体何体居やがる…」
ため息をつきながら再び抜刀の構えを取る。
しかし、油断はせず、素早く敵の様子を観察した。
しかし、眼鏡青年の手には何も握られてはおらず、一方、スキンヘッド野郎の手には大きな大斧が握られていた。
眼鏡の方は何も持っていないがどうやって戦うのだろうか。全く読めない。
スキンヘッドの方は大した力ではないな。
そう判断し、先にスキンヘッドの方へと走り、一気に抜刀した。
驚異的なスピードで刀が斬りつけ、更に刃を返し切り返す。
スキンヘッドは斧で対抗するまもなく、あっけなく絶命してしまった。
血降りをしつつ、クローは振り返る。
しかし、眼鏡は既に突破し、ジークの元へと駆けて行っていた!