他力本願!
勇二はかなり重度な面倒臭がりだ。
小さいときからめんどくさいと言っては何でも人任せだった。
というか、俺任せというか。
元々、俺は頼られるのが好きで、なんでも引き受けてしまうタチで。とくに勇二の頼み(周りの奴らにはアレは頼んでるんじゃなくて命令だと言われたが)は拒めない。
面倒臭いからあれやっといて、これやっといてと言われる度、俺は喜んでしてきた。
周りは俺が勇二のパシリで可哀想という同情的な目を向けるが、当の本人俺はまんざらでもなくて。もちろん自分がパシリとは思っていないし、これは自己満足でもある。
惚れた弱みというやつだ。好きなやつにはなんでもしてあげたくなる、それが普通だろ?
そして今日も今日とて俺は甲斐甲斐しく世話を焼いている。
「勇二、そろそろご飯食べる?」
「あー、うん。出掛けんのもめんどいからなんか適当にウチにあるもんで作ってくんね?」
「りょーかい。」
すくっと立ち上がり、勝手知ったる勇二の家のキッチンで昼食の準備をする。
勇二はというと、ソファで寝転がって犬雑誌(勇二の愛読書、ワンダフルライフという犬の専門誌だ)を真剣に読んでいる。
「学校はどう?楽しい?」
「…ぼちぼち。」
楽しいんだか楽しくないんだかわからない返事を返してきた勇二はいつのまにかこっちにきていて俺の包丁さばきをじーっとみていた。
「やっぱさぁ…」
「なに?あ、やっぱピーマンだめ?」
「ちげーよ。ピーマンはもう嫌いじゃないって言ったじゃん。」
「え?じゃあ、やっぱクロの散歩行きたかった?お前まだ寝てたから俺がいってきちゃったよ。」
「そうじゃなくて、お前がいねーとつまんないってこと。」
学校のことを言っているのだろう。
俺たちは今まで同じ学校だったが、今年から別々の学校に通っていた。
俺がいないと、俺がいないと学校もつまんないのか…そうか、そうか。
嬉しい、かなり嬉しい。
俺と一緒がいいってことであってるよね?
俺が惚けてるのを不振に思った勇二が「どした?変な顔してるぞ?」と言って顔を覗き込んでくる。
抱きしめたくなったが、必死で理性をおさえる。いや、でも少しくらいなら…少しってなんだ、少しって。
「ワンッ!」
ブンブンと尻尾を振って俺たちの間に入ってきたクロくんはタイミングがいいのか悪いのか。とりあえず、理性を取り戻せたのはクロのおかげか。
「お前もメシだな。待ってろ、持ってくるから。」
そう言うと勇二はクロのお皿をもってドックフードを入れに行った。
勇二は面倒臭がりだが愛犬クロの世話だけはちゃんとやっている。
俺が作った焼きそばを2人で食べながら今朝気付いた事を言う。
「お前、昨日風呂入ってないだろ?メシ食ったら入れよ?」
「めんど。」
「入れよ?」
「…ごちそーさま。」
「皿、流しにもってけよ?」
「…最近お前俺に指図するな。」
「皿くらい面倒臭くないだろ?…ユリさんに、甘やかしすぎだからお前になるべくやらせるようにって言われてんだよ。」
「ちっ…、余計な事を。めんどくせー。」
そうブツブツ文句を言いながらも素直に従う。
この前、勇二の母親ユリさんは「勇二このままだと貴方なしじゃ生きてけなくなるから、なるべくやらせてね。教育は君に任せた。」なんて言って軽く育児を放棄した。そもそもユリさんも面倒臭がりだから、前から基本放任主義だった。
「昔は風呂めんどいって言ったら一緒に入って髪とか洗ってくれたのに。髪洗うの上手いよな、お前。久々に一緒に入るか?」
「遠慮しときます。」
一緒に入ったらかなりヤバイことになる気がするので、丁寧にお断りした。
◆◆◆
「好きなやつがいるんだ。」
俺は一瞬息が止まった。
息ってどうやって吸ってたっけと思ってしまうほど息が止まった時間が長いような気がした。
久々に家の前でばったり勇二にあったので家にこないかと誘った。最近はお互いテストがあったりと忙しくなかなか会えなかったから勇二の顔が見れて嬉しかった。
だが、勇二は少し元気がないように見えた。
俺がテストのこととか、近況とかを聞いても上の空で「あぁ。」とか適当な返事を返してきた。
何か悩みでもあるのかと思ってきいてみたら、これだ。好きなやつができたと。
「告白するのが面倒くさい。相手が俺を好きかわからないし、振られたら嫌だし。なんかもう、そうやってうだうだ考えるのがめんどくさい。でも好きなんだ。で、結局考えてしまう。ほんと、やだ。」
そう一気に言うとはぁと溜息をつく。
勇二は色々と考えていたみたいだ。考えるのすらめんどくさいといつも言う勇二が、だ。きっと相手のことがかなり好きなのだろう。いや、あまり恋愛とかに興味がなかったから戸惑って考えこんでしまうのかもしれない。
甲斐甲斐しく世話を焼き、側にいて、ずっとこのままなんだと思ってしまっていた俺はバカだと思う。
いや、ちゃんとわかってはいた。こんな日がくるっていうことぐらい。一生勇二の隣りにいられるわけがないとは頭ではわかっていたはずだ。
でも、いざそうなるとかなり混乱してしまう。
俺は今どんな顔をしているのだろうか。
「…そう、か。」
変に答えてしまい、妙な間が空く。俺は勇二の顔をチラッと見たが、勇二がいつになく真剣な目で俺を見ていたからまた俺は俯いてしまった。
「…お前が告白しろ。」
「は、はぁ?!」
びっくりして俯いていた顔をあげ、変な声を出してしまった。
なんで、いつものように「めんどくさいから、やって?」みたいなかんじで話すんだ。おかしいだろ、それは。つまり、俺が勇二のかわりにその好きな人に告白しろということか。一体何を考えているんだ。そう思って勇二の顔をジッと見たが彼の顔からは何を考えているのかわからなかった。
「な、なに訳わからないこと…」
「今、ここで、俺に。」
カチカチと壁に掛かっている時計の音がやけに耳につく。今頭が真っ白な俺にはうるさいくらいにその音が響いている。
え、どういうことだ?勇二は告白しろと俺に頼んだ。で、それは俺が勇二に告白しろということで…?
もしかして、勇二が好きな相手って…
「悪い、なんでもない。忘れろ、今のことは。」
そう言って玄関の方へ行く勇二の後ろ姿をみて俺はハッと我にかえる。
「ま、まって、勇二!」
俺は咄嗟に勇二の腕を掴んだ。掴んだ腕は前より細くなっている気がした。
「な、んて顔、してるんだよ…」
振り返った勇二はいつもみたいにポーカーフェースではなく、今にも泣きそうな、不安そうな顔をしていた。不覚にもドキッとする。
「離せよ。俺帰る。」
「は、離さない。ちょっと待てって…。…なあ、勇二。さっきの話って…」
「なんでもねーって言ってんだろ?!」
珍しく声を荒げた勇二にびっくりする。俺はぐっと勇二の腕を掴んだ手に力を入れる。
「めんどくさい、めんどくさい、めんどくさい。くるんじゃなかった。もうやだ。帰る。離せよ!」
「落ち着けって、勇二!…俺は、お前が好きだよ…。だから…」
俺、今、唐突に告白してしまった。今までずっと言うのを我慢してきたのに。
でも、勇二のさっきの話が俺の思っている通りなら、これは望みがあるんじゃないのかと思った。
俺がそのまま話しを続けようとしたとき、勇二が急に俺の方へ倒れこんできた。
「え?!ちょっ、勇二?!大丈夫?!」
「なんで、なんも食べてないんだよ…」
勇二は今俺の目の前でオムライスを頬張っている。
さっき、急に倒れこんできた勇二は俺の腕に支えられてお腹空いたと呟いたのだった。
「最近、食欲、なくて…」
考えすぎて食べ物が喉を通らなくなったらしい。俺はとりあえず家にあった食材で急いでオムライスを作った。
「さ、さっきの話なんだけど…」
「ちゃんと、聞いてた。」
オムライスをたいらげ、お茶をゴクゴクと飲む勇二を黙って見つめる。
俺は確信に迫る。
「じゃあ、俺のこと…」
「うん、好き。俺も。」
その言葉でもう俺は嬉しくて嬉しくて顔がにやけてしまった。
「なぁ、恋人ってなにすんの?」
「え?!そ、そこから?…えーっと、一緒に出掛けたり…」
「今とあんまかわんねーな。」
「そうだけど…。あとは、手繋いだり、き、キスしたり…?」
ふーんと言うと勇二は何考えてるかわからない顔で次にこう言った。
「じゃ、キスして?」
自分からすればいいものの、と思いつつも俺は勇二の頼みは拒めないのだ。
好きなやつには何でもしてあげたくなる、それが普通なのだ。
◆おわり◆
他力本願になっていないような…
読んでくださったかた、どうもありがとうございました。
◆つばめ◆