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青春の季節

作者: 山口甘利
掲載日:2026/09/24

 夏休みが始まる。ということは高校受験が近づいているということだ。

「なーにぼーっとしてんの?夏休み一日目くらい楽しもうよ〜」

 隣を歩く葵がそう言った。

 僕と葵は幼馴染で、葵の家は隣だ。

 僕たちは気づいた頃から友達で、いつの間にかずっと一緒にいた。今はもう中三だけど、変わらず一緒にいる。

 僕たちにはもちろん違う友達もいるが、一番遊ぶのは葵とだ。付き合ってるか、とよく聞かれるけど仲が良いだけだ。ただの友達。

 でも僕には本当の気持ちがあった。それは…葵が好きということだ。

 意識し始めたのは最近だ。だけど葵がどんな気持ちかなんて分からないし、この関係が崩れるのは嫌だ。だから今はこのままでいい。これからもずっと近くにいるのだから。

 そう思っていたけれど、葵が他県の私立高校に受験することになった。

 僕たちの住む団地のほとんどが行く、近くの県立の高校に一緒に行くと思っていた。それなのに、葵は賢いからそこに行くらしい。しかも遠いから寮暮らしだという。どうすればいいのか分からない。

「あ、このぬいぐるみ可愛い〜。私百円で取れると思うー?」

 僕は今ショッピングモールに来ていて、その中のゲームセンターにいた。

「いつも通り取れないって。取れたことないだろ?」

「もーうるさいなぁー。そこは取れる!頑張れ!って言うとこでしょ?」

「取れるって言ってもらいたいだけだろ?…てかこれ毎回同じくだりなんだけど」

 知ってる、と葵は笑う。そして僕も笑う。不思議だ、彼女の顔ばかり見てしまう。

「じゃあもういい。私新しいハンディファンでも買おっかな」

 彼女は来たばかりのゲームセンターを出て、隣の有名な雑貨屋さんに入った。と思いきや、彼女は立ち止まって、振り返った。

「あ、ごめん。涼もゲーセン見たかったよね?」

 うわ、ごめーん、と言いながら、葵はゲームセンターにまた戻ろうとした。

「いいよいいよ。僕今日ゲーセンに使うお金そんなにないし」

「ほんとに?」

「うん。ほんと」

「じゃあ快くハンディファン買えるね」

 葵はすぐに店の中に入って、たくさんのカラーがあるハンディファンの前に立った。

「前はシンプルな白だったから、今回はピンクにしよっかなーでも新作の白も気になるなー」

 女子は買い物が長い、とどこかで聞いたけど、本当にその通りだと毎度感じている。

 今年はいつも通りの地球だと思う。梅雨もあるし、春もあったから秋もあるだろう。気温もそれほど高くならないし、良い年だ。

「涼はどう思う?こっちかこっち」

 どうやら悩んでいるのはピンク色か、ウェーブがある白色で迷っているらしい。

「僕だったらこっちかなー」

 僕はウェーブがある白色を指差した。

「やっぱそっちか。…よし、これにしよう」

 葵は僕が選んだ方を手に取り、レジに行った。本当に葵はそっちで良いのか。

 数分経って、葵は戻って来て、はい、と何かラッピングされた物を僕に渡した。

「もうすぐ誕生日でしょ?私も遠くに行くから形見?として持っといて」

「形見ってそんな死ぬわけじゃないんだし」

「そうだけど、まあ何も言わずに持ってて」

 はい、と言って葵は僕にハンディファンを渡した。

「じゃあもらいます。ありがとう」

 こんな風に感謝を伝えるのはなんだか気恥ずかしい。でもそれはありがとうを言われる相手も同じなのだろうか。葵も少し照れた表情をしている。ずっと一緒にいればそれぐらいすぐわかる。

「どういたしまして」

 僕たちは会社員の真似をして、小さくお辞儀した。そして二人で笑い合う。

「じゃあ後はつむちゃんを待つのみだね」

 つむちゃんとは、葵と仲が良い子で、本名の紬から“ぎ”を取ってつむちゃんと呼ばれている。

「うん。宮城からの電車が遅れてるんだよね」

 紬は今朝までおばあちゃんの家に居て、今日朝一の電車に乗ってもう着いているはずだったのに、遅れていてまだ着いていなかったのだ。

 夏休み前にある三者懇談の期間に行っていたから、夏休みは行かなくなったらしい。

 ちなみに僕たちはこれから話題の映画を観る予定だ。

「映画チケットまだ取ってなくて良かった。観る予定の映画もし取ってたら絶対最初から観れてなかったし」

「ほんとだよ。あ、LINEきたかも」

 ポケットに入れていたスマホから振動がきたのか、スマホを取り出してLINEを確認した。

「もう着くって!」

「おー良かった良かった」

 なんで電車が遅れたのか、色々二人で妄想を膨らませていると、聞き慣れた少し高めの声が聞こえた。

「ごめーーん」

 ほぼ全速力で走って紬が来た。

「全然大丈夫。しかも、つむちゃんがどうしようもないことだし」

「えーありがとう葵」

「宮城楽しかった?」

「うーん、まあいつも同じ場所行ってるだけだし特に何も思わないかな」

 そんな宮城の話をやめて早く映画行こ、と紬は映画館の方へ歩き始めた。


 映画は想像よりも面白かった。内容はミステリーで、トリックがすごすぎた。

「主人公は最後結局殺されたのかな?」

「だよね。絶対そう」

「犯人はもう頭おかしいレベル超えてたもんね」

「うん。あれはもう誰も捕まえられないよね」

「続きとかあるなら、絶対見たい」

「確かに。実は犯人生きてたみたいな?」

 紬がそう言って二人は笑う。

「なにー?なんか今日静かじゃない?」

 葵が後ろを振り返り、僕の方を見た。

「なんかこの空間良いなーって」

「え?急に?」

「だって次集まれるのは少し先になりそうだし?」

 僕は葵が遠くに行くことばかり考えている。

 葵は都合が悪くなったように、あー、とどこかを向いた。葵の癖だ。

「葵ちゃん、向こうで付き合ったりして?」

「その場合は応援だな」

 今言った言葉を取り消したい。本当は応援なんてしたくないし、彼氏なんかできてほしくない。

「まあそんなこと一旦忘れて今日は今日だから!」

 少し気まずくしてしまった空気を、紬が溶かしてくれる。

「だね!よしラーメン食べよっと」

 僕も二人の隣に並んで、お昼ご飯の話を始めた。いつも通り、僕がラーメン、葵はオムライス、紬はたこ焼きだ。


 映画から数日が経った日、僕たちはいつもの三人で海に来ていた。

 女子二人に男子一人。君は男子友達がいないのか、他人から見ればそう思われる。

 そんなことはない。ただ今年の夏はいつもより、葵と遊ぶことの方が多いだけだ。

「海ー!」

 はしゃいだ声が隣から聞こえた。葵だ。

 葵は荷物も持たないで、砂浜をひたすら走り始めた。僕と紬はあなたの分も持ってるんですけど?

「ちょっと葵ー荷物ちゃんと持ってー」

 紬が声を上げて、波を避ける葵に言った。

「あー!ごめん忘れてたー」

 葵はまたさっきの速度で僕たちの所まで戻ってきた。これはやっぱり天然...?


 とりあえず砂浜に持ってきたテントを建てて、荷物を置いて、海にみんなで入った。

「うわーこれはもうたまらんねー冷たすぎる!」

「それなぁーーーって涼なんか浮き輪使ってなんか楽しそうじゃん」

 浮き輪に乗った僕を見つけた葵は、次貸して〜とやってくる。そのぷーっと膨らませた顔が好きだ。

 夏の暑い太陽がジリジリと僕らを照らし、青い海はたくさんの波を作る。お客様もゾロゾロと増えていく。そりゃ夏といえば海だからな。

「はい、あげますよ〜」

 僕は葵に浮き輪を譲った。どこからか強い視線を感じる。…紬だ。

 紬には葵のことが好きとバレていて、色々と相談を聞いてくれている。だから良い感じじゃん、とか頑張れってエールを贈ってくれてるんだと思う。

 でもこれは良い感じでもなく、葵にとってはただの幼馴染とのやりとりなんだと思う。…そう思うと胸が少しズキズキする。

「ありがとう」

 葵は頬を緩めて感謝を僕に伝える。

「よしっ!遊びますか!」

 そのまま水掛け合いが始まり、隣の人に迷惑をかけ、浮き輪の取り合いになり、ビーチボールが遠くに飛んでいき、砂浜でジュースをこぼしてしまい。たくさんの出来事が起きた。

 気がつけば夕方になっていて、お客様もまた最初のように減っていた。

「ねえ葵。明日学校忍び込もう」

 紬がお花摘みに出かけている間に、僕は次の予定を入れてみることにした。これ、葵は受け入れてくれるだろうか。

 不安そうな表情を少し見せた後、ニヤリと笑った。

「いいね、それ、めっちゃ楽しそう」

 これで共犯者ってことで。

 紬には迷惑をかけないことにしよう。


 次の日。約束通り僕らは学校にいた。運動場は野球部が使っていて、体育館もバレー部かバスケ部が使っているから校門も校舎も開いていた。

「なんかつまんないね」

「うん。校門飛び越えて、校舎のどこかの鍵空いてる所探してみたかったな」

 誘われた側にしては、結構色々考えてくれていたんだ。なんだか嬉しい。

「あ、やばい」

 廊下を二人で歩いてると、葵は僕の手を引いて、どこかに僕を連れ込み、僕の口を手で塞いだ。

 葵は廊下をチラチラ確認した後、口を塞いでいた手を取った。

「危なかった。先生いた」

 少し小さめの声でそう言った。それと同時に繋いでいた手を離した。

「ごめん」

 お互いに少し顔を赤らめる。僕はどうしてこんなに胸が熱いのか。本当はずっと繋いでいたかった。

「てかこれ女子トイレ?」

 周りを見ればそこは女子トイレの中だった。通りで見たことのない景色だと思った。

 女子トイレにいたと考えると恥ずかしくて、顔が赤くなるのを感じる。

「ごめんごめん、仕方なかったから」

 ゲラゲラと葵は笑っている。これは黒歴史か。

「よし、目的地もうすぐだし早く行こっ」

 葵は焦る僕をほって、階段の方に歩き始めた。それについていく僕。


 そのまま教室まで誰にも見つからずに着き、鍵がかかっているか確認すると、ドアがすんなり開いた。鍵担当の人が忘れてくれていて助かった。担任もちゃんとしてくれとも少し思う。まあこんなことするの僕らだけだろうし大丈夫か。

 いつもはガヤガヤとして、暑苦しい教室。今は誰もいないから、静かで落ち着いていた。

「なんか不思議だ」と僕は小さく呟いた。

「だね」

 ねえ葵、僕は誰かの机をそっとなぞる彼女に声をかけた。彼女は髪を靡かせて、振り向いた。

「ずっと好きでした。遠距離になるけど、付き合ってください」

 少し困った顔をした後、言葉を続けた。

「はい。私で良ければ」

 葵はいつもの優しい笑顔でこっちを見た。

「じゃあよろしく」

「うん、よろしく」

 僕らはお互いに照れくさい言葉を並べた。そして手を繋いだ。さっきとは違う。


 そのままカーテンの裏でキスをしたのは、きっと誰にも言わない二人だけの秘密だ。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

誤字脱字があれば、ぜひ教えてください!

他にも夏の作品など、たくさんあります!

ぜひ読んでみてください!

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