13話
次の日の朝。
りこはまた、少しだけタイミングを逃す。
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(今日こそは普通に話す)
そう思っていたのに、
いざ隣に立つと、言葉が出てこない。
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悠星はいつも通り前に立つ。
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でも今日は違う。
りこが静かすぎる。
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(……なんか変だな)
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電車が揺れる。
少し押される。
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いつもなら何か言うのに、今日は何もない。
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(体調悪いのか?)
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少しだけ振り返る。
「……鈴木」
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急に名前を呼ばれて、りこがびくっとする。
「え、なに?」
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「今日、静かじゃないか」
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りこは一瞬詰まる。
(やばい)
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「そう?」
とりあえず返すけど、声が少し上ずる。
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悠星は少しだけ様子を見る。
「なんかあったか」
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まっすぐじゃない聞き方。
でも、気にしてるのは分かる。
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りこは一瞬迷う。
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でも――
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「……なんかさ」
小さく声を出す。
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「ちょっと……変で」
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言葉を探す。
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「桧山くんといると」
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一瞬止まる。
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「……うまく話せなくなった」
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言ってから固まる。
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(なに言ってんの私)
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ゆうせいも一瞬止まる。
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沈黙。
電車の音だけが流れる。
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(……それって)
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りこは顔を上げられない。
「ごめん、忘れて」
小さく付け足す。
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そのとき、電車が揺れる。
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ゆうせいは反射的に手を出す。
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りこを支える位置。
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ほんの少しだけ距離が近づく。
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そのまま、離さない。
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(……これ、もう)
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小さく息を吐く。
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「……俺も」
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りこが顔を上げる。
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悠星は視線を逸らしたまま。
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「前から、意識してる」
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それだけ。
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りこの心臓が一気に跳ねる。
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電車が駅に近づく。
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ドアが開く。
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人の流れが動く。
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でも二人は、少しだけ動けない。
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悠星が先に動く。
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「……降りるか」
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「……うん」
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ホームに出る。
並んで少し歩く。
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無言のまま。
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悠星が足を止める。
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振り向く。
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「鈴木」
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まっすぐ見る。
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一瞬の間。
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「ちゃんと言う」
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息を一つ。
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「好きだ」




