これって告白? 違うだろ!
雫、ちゃんと俺に感謝しろよ。俺って、本当に仲間思いの、頼りになる友達だろう?
誰もいない空き教室で雫と弁当を食べながら、俺は唐突に呟いた。
「うん、ありがとう、瞬。瞬が友達でいてくれて、本当に嬉しいな」
弁当を食べていた雫が顔を上げ、ふんわりとした優しい笑顔でこちらを見つめる。
「え、お前……何も知らないくせに。俺が適当なことを言ってるだけだったら、どうするんだよ」
「でも、瞬と友達になれたこと自体が、私にとって、もうすごく幸せなことだもん」
「ふん」
「瞬くんってツンデレなの? 残念だけど、もう古いよ~。素直な子の方が、断然人気だよ」
「違うって!」
正直、昼食を終えてからずっと心がざわついて落ち着かなかった。
午後の授業中も、ずっとあのことばかり考えていた。
もし、相手が本気で告白してきたら……俺は、すごく傷つけてしまう。
俺は少し、自責の念にかられていた。
授業が終わり、考え事に夢中になりすぎて、白瀬さんを待つのも忘れ、ひとりぼんやりと部室へ向かった。
「どうしたの? 元気がないよ」
教室を出てすぐ、後ろから優しい声と、懐かしい花の香りが漂ってきた。
「ごめん、白瀬さん……待つのを忘れてた」
「大丈夫だよ、大丈夫。私も悩み事があると、周りが見えなくなっちゃうこと、よくあるもん」
白瀬さんは小走りで俺の隣まで駆け寄ってきた。
「ねえ、影山くん。何か心配事があるの?」
「それは……ちょっと言いにくい」
こんな話を、女の子にできるわけがない。
「うん、わかった。
どんなに辛い決断でも、不安なことでも、瞬くんが心から正しいと思う道を選べばいいの。
自分を信じて。私も、心から瞬くんを信じてるから」
「ありがとう……なんだか、安心したよ」
「えへへ、役に立ててよかった~。さあ、行こう行こう! 部活の練習だよ」
白瀬さんが手を差し伸べてくる。俺は照れくさそうに、そっと握り返した。
やっぱり白瀬さんは可愛い……と、思った。
「いくよーっ!」
白瀬さんに手を引かれて小走りになる。
春風が頬をなびかせて、やっと心のざわつきが鎮まっていった。
そうだ。もう決めたんだ。後悔することなんて、ない。
部室に着くと、千鶴先輩だけが一人でいた。
「みんな~、こんにちは」
俺が休んでいる間に、白瀬さんと千鶴先輩はすっかり仲良くなったらしい。
先輩はすっかり警戒心を解き、堂々とBL漫画を読んでいる。
この腐女子、試合が近いのに、全然危機感がないのか。
「先輩、BL漫画はちょっと置いてくれません?
サポート役とはいえ、先輩のポジションはすごく重要なので、一緒にゲームの練習しませんか」
「瞬くん、今はエネルギー補給中なの。
スマホだって充電しなきゃ動かないでしょ? BL漫画は私の精神食糧! エネルギーそのものなの!」
「その理論……あれ? 夜空さんは来てないの?」
「うん、夜空ちゃんも今日は午後用事があるって休み。
瞬くんも休んだし、私一人ぼっちだよ~」
「大丈夫だよ、先輩! 結愛がずっと一緒にいるから~」
「結愛ちゃん~、やっぱり私の味方は結愛ちゃんだけだね~」
千鶴先輩が白瀬さんにべったりとくっつく。
さすが、一年で一番付き合いたい女子ランキング一位の白瀬さん。
この社交力、ヤバい。
スーパー美少女二人がくっついている光景は目の保養になるけれど、じっと見詰めるのも悪いなと思って、思わず目を逸らした。
「ねえ、瞬くん。私を見てたの? それとも結愛ちゃんを見てたの?」
やばい。ちらっと盗み見ただけなのに、千鶴先輩の鋭い勘にすぐバレた。
助けて……までからかわれる。しかも白瀬さんの前で。
「見……見てないって」
「えー、私も結愛ちゃんも魅力がないの? 傷つく~。
昔は瞬くん、私に夢中だったのに~」
「誤解されるようなこと、言わないでください……!」
「ははははは!」
俺の慌てた様子を見て、白瀬さんと千鶴先輩が一緒に笑いあった。
今日の部活も、笑い声とゲームの練習に包まれて過ぎていった。
特に白瀬さんの上達は、目覚ましかった。
活動が終わった後、俺はゆっくりと校庭へ歩いていった。
桜並木の方を目をやると……やはり、桜の木の下にひとり、すらりとした綺麗な背中があった。
春の柔らかな光が彼女の髪に落ち、風が吹けば淡いピンクの花びらが舞い落ち、そっと肩や背中をなでていく。
周りには彼女以外誰もいない。
俺は勇気を振り絞って、心に決めた言葉を口にした。
「すみません! 告白は受けられません!」
「すみません! 告白は受けられません!」
二人の声が、まったく同時に重なった。
「え……!?」
前の少女が振り返る。
俺とまったく同じように腰を曲げて頭を下げ、まったく同じ言葉を口にしている。
正直、何これ。頭が真っ白になった。
そして――目の前にいたのは、生徒会長・神城楓さんだった。




