初めてもらった告白手紙
月曜日
昨夜徹夜明けでくたくただった俺は、あくびを噛み殺しながら、のろのろと部屋から這い出してきた。
「おはよう、瞬」
今日の雫はまたあのダサい眼鏡をかけ、前髪を少し下ろして顔を隠してる。
「なんでいつもそんな格好してるんだよ?」
「面倒なことが減るから。
こんな感じでも告白されちゃうし、モテすぎると勉強に集中できないでしょ?」
……絶対、内心ちょっと自慢してるだろ。
そんな気配がした。
でも正直、雫は性格もいいし、料理も完璧だし、素のままでも可愛いし……完璧な美少女だ。
本気でおしゃれして素を出せば、白瀬さんに負けないくらいモテるはずなのに。
「告白されて断っても、相手が厄介なタイプだったら、学校生活に響いちゃうでしょ。だから……」
「だから?」
「瞬、この1年は他の女の子と付き合わないでくれる?
じゃないと私、行き場がなくなっちゃうよ……べそべそ」
雫は哀れんげな顔をするけど、声は完全に甘えモード。
「それとこれ、関係あるのかよ」
適当に洗顔して、食卓に座る。
「もちろんあるよ~。瞬に彼女ができたら、一緒に住んでる私が邪魔でしょ?
そしたら家に帰らなきゃだし、美味しいポテチもチョコも、面白いドラマも全部お別れ~」
「元々、ご飯と遊びが目的だったのかよ」
俺はわざと傷ついたふりをする。
「じゃあ、瞬のためにヤキモチ焼いてもいいよ?
瞬のこと大好きだから、他の子には目もくれないでね~」
雫は声を潰して甘ったるく言ってきて、俺、鳥肌が立った。
「やめろやめろ、わかった。約束するから、その声はやめてくれ……
まあ、元々俺なんかに好きな子なんていないし」
「じゃあ放課後、一緒に帰ろう?
私、全然気にしないよ。
むしろ付き合ってると思われた方が、勉強に集中できるし」
「俺みたいな陰キャと付き合ってると思われたら、雫の評判が落ちるだろ?
クラスで小グループと揉めたこともある俺だし」
「大丈夫だよ。
むしろ瞬と付き合ってるって思われた方が、誰も寄ってこなくて最高かも」
その「付き合ってる」という言葉だけで、俺の顔が酒でも飲んだみたいに熱くなった。
「もう、時間がないから早く行こう」
「照れてる~」
「全然照れてない。先に行く、バイバイ」
「気をつけてね。お弁当持ってすぐ行くから」
……正直、これって告白なのか?
道中ずっと考えてた。
きっと違う。ただの冗談だろ。
本当に可愛い子からラブレターをもらって、桜舞う夕方に真剣に告白されたら……なんて夢見た。
所詮、恋愛経験が皆無なだけあって、女の子と接する機会が少なすぎて、明らかな冗談にもつい期待しちゃう。
俺の春、いつになったら来るんだよ。
校庭の桜、もうずっと咲いてるのに。
やっぱり高校入っても陰キャはモテない。
靴箱開けて、手紙一枚もないの見て、ため息ついた。
朝、美少女とイチャイチャしたせいで、完全に枯れてた心にまた火が灯っちゃった。
そういえば、ラノベでなんでみんな靴箱に手紙入れるんだ?
臭くないのかよ……と思いながら、妙に期待してしまった。
席について、机の中の漫画出そうとしたら、突然、手紙みたいなのに触れた。
こっそり取り出したら、心臓が止まりそうになった。
絶対、女の子が書いた手紙だ。
綺麗な字、ピンクの封筒。
内容は、部活終わりに校庭の桜の木の下で待ち合わせ。
恋人がいないなら来てほしい、気持ちを伝えたいって。
告白だ。絶対告白だ。
俺の春、来るのか……?
神様、ありがとう。
朝に願っただけなのに、本当に恋が降ってきた。
相手どんな子だろう。
やっぱりこっちから告白した方が男らしいかな……
まだ顔も見てないのに、もう彼女できた後の学校生活を勝手に想像してた。
そのとき、雫が教室に入ってきて、俺の席の前を通り過ぎた。
思わず目を逸らした。
朝、「1年は他の子と付き合わない」って約束したばっかりだから。
……これ、浮気気分?
俺、クズ男か?
でも……もしこの手紙が本気で、悪戯じゃなかったら?
うわぁ……彼女、欲しい。
しかも好いてくれた子を裏切るのも、最低だよな。
……やっぱ、雫に話そうか。
いや、ダメだ。
話したら絶対「いいよ、行ってきな」って許してくれる。
前からそういう子だって分かってるし、雫の優しさは隠せない。
いつも冗談っぽくしてるけど、俺が本気で彼女欲しいって言ったら、絶対自分を犠牲にして許す。
あの日、家に来て「自由に1年過ごそう」って言ってくれたときの、あの嬉しそうな目……隠せなかった。
雫は優しい子だ。
優しい子を泣かせたくない。
しかも、雫は俺の友達だ。
女の子できたからって、友達を裏切るようなヤツにはなりたくない。
でも、告白してくれる子を無視するのも悪い。
ちゃんと感謝して、断ろう。
さようなら、始まる前に終わった初恋。
心の中で、泣きそうだった。




