買い物
影山家。
外をずいぶん歩き回ったせいで、帰宅した瞬間、俺はもう自分の部屋に縮こまりたくてたまらなかった。
女の子ってなんであんなに長く買い物できるんだろう……雫は商品を何度も何度も比較して、栄養成分表まで真剣に見てるし。
お菓子を買ったと思ったら、今度は新しく服を買おうって引っ張っていかれた。
あのときの状況は大体こんな感じだった。
「俺、もう服いっぱいあるって。完全に十分だよ、十分」
「それが瞬のせいじゃない。
こんなにかっこいいのに、衣装センスゼロで全然活きてないんだもん」
そう言って、ショッピングモールの服屋に連れ込まれた。
問題は、気に入った一着を買うんじゃなくて、俺に何着も試着させること。
同じ死宅の友達なら絶対分かるはず——
店員さんがにこにこしながら「ママ(彼女)」と喋ってる横で、
俺はサーカスの見世物猿みたいに、滑稽な服を次々着せ替え人形にされてた。
「もういい、もういい。この一着で買おうよ」
「だーめ、まだあと二着あるの。
いい子だから試着してね~。終わったら今夜、ご褒美あげるから」
隣の店員さんが言う。
「このお二人、ほんと仲良しですね~」
もう一人の店員さんが続ける。
「なんかママ系彼女って感じですね」
「そんなことないんです。ただ両親が、私にもっと彼の面倒を見てほしいって……」
「わぁ、めっちゃ甘々~!
高校生カップルで両親公認なんて珍しいですよ」
「ありがとうございます~。
でもうちの彼氏、ちょっとツンデレなんですよね。でもそれがまた可愛くて」
「羨ましい……私も高校時代にあんな甘い恋愛したかった~」
試着室の中から、三人の女の子の会話が丸聞こえ。
助けて……頭皮がゾワゾワして、着替え終わっても出る勇気が出なかった。
雫……お前、実は現充と変わらないんだな。
めちゃくちゃ喋り上手いじゃん。
俺と同じタイプだと思ってたのに。
それに、ただの同居人って話じゃなかったっけ?
なんで急に俺がツンデレ彼氏扱いなんだよ。ママ系彼女って何だよ……。
恥ずかしい、恥ずかしすぎる……今すぐ穴掘って家まで帰りたい。
結局、ほぼ一時間。
靴三足、服五着試着して、やっと帰宅できた。
ふと気づいた。
小説の主人公が女の子と買い物するシーンって、
可愛い女の子がいろんな可愛い服着て、男が鑑賞するやつじゃん。
なんで現実だと俺がいろんな服着せられて、女の子に鑑賞されてるんだ……?
家に着くなり、温かいベッドに直行したかった。
手を振ってスリッパ履いて、さっさと部屋に逃げ込んだ。
「ごちそうさま~。
夜ご飯、何が食べたい? あとで作ってあげるね」
「酸っぱくて甘くて、食欲そそるやつ」
適当に答えて、ドリンク持って部屋に戻った。
雫はもう部屋着に着替えて、可愛いスリッパ履いて、
箸でポテチをつまみながら、鴨座りでソファに座って、
タブレットで恋愛コメディ見てる。
体力かなり使ったけど、夕飯まで時間もないし、寝る気はなかった。
パソコン開いて、LOL起動。
疲れすぎてて、ランクは無理だから避けた。
そしたら、カスタムルームを見つけた。
タイトル「上手い人来て単挑」。
俺はにやりと笑った。
俺、“幻影”、本気で強い奴か、自称強い奴を相手にするのが一番好きなんだよな。
結果は……まあ、見ての通り。
相手を5連敗させた。
途中からはわざと隙を見せてみたけど、単挑なんだから全力でいくべきだろ、って思って、最後までキルは送らなかった。
最後の方は、俺の方から「一旦休憩した方がいいかも」って声かけた。
明らかに初心者っぽかったから。
まさか、相手が「教えてください」ってお願いしてきた。
……これは、結構嬉しい。
礼儀正しくゲーム教えてほしいって言ってくる奴は、基本断らない。
で、LINE追加した。
アイコンが可愛いぬいぐるみだから、女の子っぽいなって思った。
最後は俺が画面見ながら、文字で次どう動くか教えた。
毎試合終わりに、ミスのポイントとか分析してあげた。
2時間以上教えてたら、雫がドア叩いて「ご飯だよ~」って呼ぶ声が聞こえて、
仕方なく「じゃあまた」って切った。
意外と可愛い子だったな……。
「師匠」って呼んでくるし、めっちゃ萌え系のスタンプ送ってくる。
へへへへ……
俺、思わずバカみたいな笑顔になっちゃった。
まさか俺にも「師匠」って呼ばれる日が来るなんて。
部屋のドアを開けた瞬間、濃厚な料理の香りがふわっと鼻をくすぐった。
「ご飯できたよ~。瞬が下飯で食欲そそるものがいいって言ってたから、今日は日式回鍋肉とエビの天ぷら、それにロシア風スープにしたの」
……うん、一日中歩き回ったせいで腹ペコすぎる。
簡単に「いただきます」って言って、さっそく食べ始めた。
「ロシア風スープはトマト入れてるから、酸っぱくて甘くて、もっと食欲そそるはずだよ」
雫は俺の前にスープをよそってくれた。
真っ赤なスープに野菜とソーセージが浮かんで、めちゃくちゃ美味しそう。
塩気と微かな辛さが効いた回鍋肉も、最高にうまい。
食べ終わった瞬間、体中が幸せでいっぱいになった。
そういえば、誰かがそんなことを言っていた気がする。
「腹いっぱい食べてしまうと、世界はずいぶんやさしく見えるものだ」って。
もちろん、ただ食べてるだけじゃ悪いよね。
食事が終わったら、ちゃんと皿洗いも手伝った……
この美味しい夕飯のおかげで、人間って本当に幸せになれるんだなって、改めて思った。




