大和撫子か、それとも男装麗人か
「ふぅ……」
一体、ライトノベルの主人公たちはどうやって、これほど多くの女の子たちと同居しながら、顔色一つ変えずにいられるんだ?
俺は心の中で猛烈にツッコミを入れていた。今のこの状況、一体どう対処すればいい? なんて返せば正解なんだ?
彼女はただ、いたずらっぽく微笑んでこう言っただけだ。
『夜、私に「変なこと」はしないでくださいね?』……なんて。それに、さっきの呼び方の提案。
クラスでは地味だと思っていた女子が、実際にはこれほどの破壊力を持っていたなんて、思いもしなかった。
「じゃあ、私もあなたのことを『瞬』って呼ぶね」
「あ、ああ……いいよ」
「学校では、もし私とあまり近くにいたくないなら、今まで通り『小林さん』って呼んでくれて構わないから」
「……どうして? 俺みたいな陰キャラと一緒にいると、君の迷惑になるからか?」
俺は一頭霧水のまま、問い返した。
もともと、彼女が俺のことを好きでここに来たわけじゃないことは分かっていた。ただ家での厳しい管理から逃れて、ここならもっと気楽に、自由に過ごせるから選んだだけだ。そう思うと、俺の心はもともと少し低迷していた。
それなのに、今の彼女の言葉を聞いて、俺はさらに落ち込んでしまった。やっぱり、クラスであんな陰気な奴と一緒にいるところを見られるのは、彼女にとってもマイナスでしかない。嫌悪感を抱かれるのは当然だ……。
もともと低かったテンションが、さらにどん底へと沈んでいく。
「自分を卑下しないで。私は瞬のこと、ずっとすごい人だと思っているよ。さっき言ったのはお世辞じゃなくて、本心なんだから。ただ……瞬は白瀬さんと仲がいいでしょ? あなたの邪魔をしたくないだけだよ」
雫は優しく微笑んだ。暖かい照明の下で、彼女はティッシュを手に取ると、俺の頬についていた油汚れをそっと拭ってくれた。
「ここにいられるだけで十分。高校生活をもっと楽しみたいし……。ルームメイトなら、瞬が好きな人を追いかけるのを邪魔するわけにはいかないもの」
……待て、これはどういう状況だ?
俺はいつの間にクズ男みたいな立ち位置にされたんだ? 違うだろ。
家には献身的な大和撫子が待っているのに、外では華やかな花魁を追いかけている……。まるでお辞儀が長い大河ドラマに出てくるような、そんな不届き者のイメージが脳裏をよぎる。
俺はぶんぶんと首を振って、邪念を振り払った。
雫は本当にいい人だ。俺に優しく接してくれるし、ルームメイトとして尊重してくれている。それに、俺は白瀬さんを「追いかけて」なんていない。あんなに太陽のように眩しい少女と部活を楽しめるだけで十分だ。それ以上の高望みをするほど、俺は欲張りじゃない。
雫に対しても、たとえ今はルームメイトや友人だとしても、彼女の優しさをちゃんと受け止めるべきだ。関係が深まるなら、もっと素直に向き合うのが正しいはずだ。
「……白瀬さんのことは追いかけてないよ。同じ部活の仲間だし、確かに少しだけ憧れはあるけど、自分との差は自覚してる。それに雫。もし君さえ良ければ、学校でも今まで通り……いや、これからも友達でいてほしい」
「喜んで。——旦那様♪」
「……だから、なんでまたその呼び方に戻るんだよ! 俺たちはただのルームメイトだろ」
「ふふっ、だってそう呼ぶたびに、瞬がすごく面白い顔をするんだもん」
「よし、食事は終わったな。先に部屋へ案内するよ。片付けは俺がやるから」
普段クラスでは目立たない委員長なのに、プライベートでこれほど強い圧を感じるとは思わなかった。千鶴先輩に引けを取らない、いや、それ以上かもしれない。
俺は慌てて話題を切り替え、この天降りのルームメイトを案内することにした。
俺の家は三階建てで、各階六十平米ほどだ。一階はリビングとキッチン、それに大浴場。二階は主寝室と客間、それに書斎とトイレ。三階も主寝室と客間、それに物置部屋がある。
普段一人暮らしなので三階には基本行かないが、雫は女の子だ。独立した空間があった方がいいだろうと思い、三階の主寝室を使ってもらうことにした。
俺自身は普段二階で生活している。
「ありがとう、瞬。じゃあ、部屋の準備を始めるね」
俺の説明を聞き、雫は三階の主寝室へ入り、トランクを開いた。
「あ、三階の大クローゼットに布団や枕がたくさんあるから、好きなのを選んで使ってくれ」
そう言い残して、俺は立ち去ろうとした。女の子が部屋を整えている最中に、男が長居するのは良くないからな。
「ちょっと待って」
「どうした? まだ何かあるか?」
「せっかく友達、それにルームメイトになったんだから。連絡先を交換しておかないとね」
雫がスマホを差し出してきた。俺は断る理由もないので、そのまま友だち追加をした。
ふと自分の連絡先を見ると、本当に少なくて笑けてくる。
まあ、別にいいんだけどな。実際、ほとんどの人は日常的に連絡なんて取らない。リア充みたいに大勢と繋がっていても、毎日チャットするわけじゃないだろうし。
連絡先を交換し終えた直後、星空からのメッセージが飛び込んできた。
星空:「こんばんは、シュン。せっかくの休みだし、一緒にゲームしない?」
俺:「今日はやめとくよ。家に用事があるんだ」
本当は今すぐにでも同意したい。だが、今日から新しく同居人が増えたんだ。まずはこれらを整理しなきゃいけない。それに、二人暮らしになるなら、家の中もしっかり掃除しなきゃならない。
星空:「え、何かあったの?」
画面の向こうの夜空祈は、明らかに焦っていた。彼女は一日中考え込んでいた。昨日のことが恥ずかしくて朝は逃げ出してしまった。
だから部活動の時に二人で距離を縮めようと思っていたのに、届いたのは欠席連絡……。
そして今、LINEで「家に用事がある」と知らされた。もともと想像力が豊かな彼女の脳内は、変な考えと心配で埋め尽くされていた。
俺:「大丈夫だよ。女の子が一人、うちに居候することになってさ」
星空:「親戚か何か? いとことかでしょ?」
俺:「事情は複雑なんだけど、とりあえずクラスメイトで、一年以上一緒に住むルームメイトかな」
祈はそれを見て、まさに晴天の霹靂だった。頭の中が真っ白になる。
大好きなシュンが、他の可愛い女の子と、屋根の下でいかがわしい同居生活を始める——。
彼女は一瞬で面如死灰となり、机を叩いて号泣した。「そんなの嫌だ!」
星空:「それ……彼女なの?」
俺:「違うよ。ただ同じ屋根の下に住むだけ。そもそも俺みたいな陰気なオタクを好きになる奴なんていないだろ」
星空:「私は、好きだよ!」
「あああああ! 告白しちゃった! 断られたらどうしよう!」
祈はショックのあまり感情を抑えきれず、つい心の声をそのまま送信してしまった。
我に返った彼女は、もう画面を見る勇気がなく、両手で顔を覆った。
二秒ほど経って、指の隙間から恐る恐くスマホを覗く。心のどこかで、わずかな期待を抱きながら。
だが、相手の返信はこうだった。
俺:「そういう意味じゃないって。俺だってお前のことは大好きだよ。でも俺たちは親友だろ? 俺が言ってるのは、恋人としての話だよ」
祈は思い出した。
自分はSNS上で男性として偽っていることを。
彼は自分のことを男だと思い込んでいるのだ。
最初は身を守るために始めたオンライン上の男性仮装が、いつのまにか自分を縛り付ける枷になっていた。
祈は、この窓ガラスをどうやって壊せばいいのか、途方に暮れるしかなかった。
皆様、こんばんは。
今回の更新が少し遅くなってしまい、大変申し訳ありません。
更新時間は前後してしまいましたが、これからも変わらず「一日二回更新」を目標に頑張っていきますので、ぜひ応援していただけると嬉しいです。
実は、自分の作品を「原著の持ち味を活かしたまま」翻訳することに非常に苦心しており、原稿自体は早々に書き上がっていたのですが、翻訳の微調整に予想以上の時間を費やしてしまいました。
もし表現や内容に違和感などあれば、ぜひコメント欄などでご指摘いただければ幸いです。皆様と一緒に、より良い作品にしていきたいと思っています。
これからもよろしくお願いします!




