EPISODE:3
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今朝イレビーが虎に襲われた。
幸いのことに軽傷で済んだそうだ…
昨日二人でアップルパイを作って、、、
私の提案でイレビーにジュウジャの家まで一人でアップルパイを持って行かせたの。
「私が作ったのは今度渡すから、今回はイレビーが作ったアップルパイ渡そう」って言ってね。
照れて逃げ回るイレビーをどうにか説得したんだけど、家に向かっている最中に襲われたみたい。
私、イレビーがジュウジャのこと好きだったってこと…私たちが付き合った後に気付いたんだ。
本人の口から直接聞いたわけじゃないけど、親友なんだから分かる。
でも本当は付き合う前から気付かなければいけないことだったってことは自分で分かってる。
バカでしょ〜、本当に、、、私は。
私は怒った。
今まで生きてきてこんなに激怒したこと記憶にないくらいに感情が大爆発した。
イレビーと交わした秘密の約束…
“どちらかが傷つけられたり、敵にやられたら仇を討つこと”
まぁ、イレビーは自分にはそんなの無理だ〜って涙目だったから一方的に私がした約束事でもあるんだけど。
昨日は虎を討伐する具体的な理由なんてなかった…
でも今は違う。
親友が傷つけられたから!
私がバカな提案をして親友を一人で行かせたから!
自己嫌悪で本当に自分に腹が立つけど、たとえ一方的だったとしても親友との約束はしっかり守るから!
私は戦闘用の白衣に着替えて愛橋を準備し、家を出た。
「ハロパ!」
走ってきて息を切らしているジュウジャに後ろから呼び止められた。
「話は聞いた。イレビーが虎に襲われたんだってな。その服装…行く気か?」
「心配してくれてるんだよね、ありがとう。でも私一人で行くから」
「ダメだ、危険すぎる!」
「今の私すっごく怒っているから…たとえジュウジャでも止められないよ」
自然と強い口調になった。
「ハロパ…今のお前は明らかに冷静さを欠いている。1人では行かせられない。どうしてもって言うなら俺も一緒に着いていく」
「…今、一人で行くって言ったよね?」
このセリフ、ビックリするほど冷たい言い方だったな〜って自分でも思ったよ。
「…それでも俺は着いていく」
「あっそ、好きにして」
私はまだガキなんだなって恥ずかしかった。それと同時にジュウジャがオトナに思えて悔しかった。
強がってたけど、ジュウジャが着いていくって言ってくれたとき本当はすごく安心したの。
もちろん虎に勝つ自信はあるし、私は強いって自分で思ってる、、、けど本音はやっぱり怖かったんだ。
[8]
「虎は南の岩場を住処としていることは分かっているんだって」
昨日イレビーと一緒にアップルパイを作っている時に話題にあがった。
人里に降りてきて好き勝手してくれたんだ、今度は私が乗り込んでやる。
「今回の敵は木々じゃない、虎だ。素早いし本能的に動いてくる。そういう意味ではヤツらより厄介だな」
「関係ないよ!イレビーを襲った時点で私に殺される運命なの」
「…気持ちは分かるが少し落ち着け。興奮は視野と正確な判断力を鈍らせる」
「私は冷静だよ」
「…ハァ」
ジュウジャのため息に、私はまた少しイラだった。
〜その頃 イレビーの家〜
「………ぅ?」
気を失っていたイレビーが目を覚ました。
「あぁ、良かった!イレビー、意識が戻ったのね」
「ママ?ここ、私の家?」
「そうよ。あなたが虎に襲われたって…本当に本当に心配したのよ」
ママが泣き崩れた。
「!」
イレビーは今朝虎に襲われたことを一気に思い出した。
「ハロパちゃん!!?ママ、私行かなきゃ」
「え?イレビーどこに行くの!?」
(ハロパちゃん、約束守るために絶対虎を狩りに行く。私どれだけ気を失ってた?ママはさっき“今朝”って言ってた…もう夕方!家にはいない、絶対に岩場に行った!今から間に合う?ハロパちゃん、ダメだよ…あの虎は普通の虎じゃないの!!)
イレビーは南の岩場へと走った。
「もうすぐ岩場に着く、話を聞いた限りではかなり大きいらしい」
「身体が大きい分、的も大きいよ。どこから襲われたとしても視野の広い私に死角はない」
バン!
ジュウジャが私の背中を叩いてきた。
「急になにするのよ!?」
「ハロパ、一緒に深呼吸をしよう」
「はぁ?」
「いいから、深呼吸するぞ」
「もぉ…意味わかんない!」
息を吸い込んだ。冷たい空気が一気に身体に染み渡る感じがした。
「うるさいことを言うようだが、今のハロパは色々と考えすぎている。イレビーが襲われたことで荒ぶる気持ちは分かる。だが、これから虎との戦闘になるんだ。肩の力を抜け」
「もう…分かってるんだってば」
ジュウジャにまたオトナな意見を言われて私はむくれた。
私たちは虎の住処と言われている岩場に着いた。もう夜だ。頭上には満月が輝いている。
「やっと到着だな」
「でも、なにも気配はないよ」
「いや…虎は“森の王者”と呼ばれていて奇襲攻撃が得意なんだ。油断するな」
「“森の王者?”っていってもここは岩だけし……」
私が話している途中で視界の左端からすごい勢いで“何か”が突っ込んできた。
その“何か”が一瞬で間合いをつめてきてジュウジャを体当たりで吹っ飛ばした。
「ぐぁ!!な、なんだ?」
ジュウジャは吹っ飛ばされたが無事なようだ。
私の目前には大きな虎がいた…
虎?
全然違ったんだよ。
月夜に照らされたその虎の身体は、まるで精巧に作られた彫刻のように木で出来ていた。
[9]
「…なんだよコイツ?身体が木?ハロパ、一旦距離をとれぇ!!」
「…!うん!」
ジュウジャの判断は正確だった。
目前の虎はあまりに異質な存在感・威圧感を放っており、私はジュウジャが叫ぶまで身体がすくんで動けなかった。
バックステップで後退した私に対して、虎は右前脚で引っ掻こうと私に飛びついてきた。
大きく鋭い木の爪が一瞬で目の前まで迫ってきた。図体のわりに動きが早すぎる…事前に愛橋を用意しておいて大正解だった。
「…こっのぉぉぉ!」
愛橋の柄で虎の右前脚を叩き落として攻撃を躱したと同時に、その反動のまま重心を左に移動させて虎の右側へと回り込むように身体を流した。
「(虎の死角を取った!このまま勢いを利用し右回転で穂に遠心力を加え一気に首目掛けて穂を振り落とす)」
「よしっ!さすがハロパ!」
ジュウジャが叫んだのが聞こえた。
でも虎の動きは常軌を逸していたの。
私が遠心力を加えるために右回転をした一瞬…虎から目を離した1秒にも満たない間に虎は両前足を軸に両足を90°右へジャンプして身体を方向転換させ、虎は正面から私の動きを見据えていた。
「(あれっ!?)」
半回転して振り向いた私は狙うべき急所の首がもうそこにはないことを瞬時に理解し、即座に右前足を切り落とす選択に切り替えた。
首を狙ってフルスイングした愛橋の軌道を無理やり下に変えて虎の右足に振り切った。
だけど、虎は上にジャンプして避けると後ろへ距離をとった。
「(足への攻撃を読まれた!?いや、愛橋の軌道を下に変える前に…先に上に跳んでいた!私が半回転して右前足を一瞬見た視線だけで次の攻撃を判断したんだ!)」
ここまでたった5秒ほどの時間。
そのたった5秒で天と地ほどの戦闘差があることを痛感させられた。
「(こ、この虎…動きが早いだけじゃなくて、対応力が凄まじい。私じゃ倒せない!)」
「ハロパァァァ!逃げろ!!」
ジュウジャが大声で叫んだ。
「俺が虎を引きつけるから、お前は逃げろ!!」
「そ、そんなの出来ない!逃げるなら一緒に…」
「もう分かってるんだろう!?コイツの動きは異常だ。逃げたところで必ず捕えられる!だから、せめて俺が囮になるからお前だけでも逃げるんだ」
「だったら私が囮になる!ジュウジャは戦えないんだから…」
「バカが!一応これでも俺はお前の彼氏なんだ、最期くらい格好つけさせろよ」
ジュウジャの声が震えているのが分かった。




