EPISODE:2
[4]
“ぶどうジュースにしよっかな〜?バナナジュースにしよっかなぁ〜?やっぱりやっぱり、じゃがいもジュースにしよっかなぁ〜?♬”
変な歌をうたいながらドンドン進んで行く。
「こんな夕暮れ時で薄暗くて明らかにヤツらの陣地なのに、なんで恐れないんだ?」
ジュウジャが周囲を警戒しながら訊いてきた。
「え?だって、どんなのが出てきても私が勝つし!」
「…大した自信だなぁ」
「今は恐怖心よりのどが乾いているからそっちの方が私的には一大事なの、もうカラカラなの」
「…ただのバカなのかもなぁ」
「何それ、ちょっとヒドくない?」
私たちはいっつも笑ってた。
何より一緒にいて楽しかった。
「今この瞬間のどが乾いてて一大事なのは本当!でも怖くないわけじゃないよ」
「お前でもやっぱり怖いのか?だが、そんな風には全く見えないから」
「私、イレビーと約束してることがあるの!だからもし私に何かあっても安心出来るってわけなのよ」
「イレビーとの約束?」
「それは秘密でーす。親友同士の女の約束とだけ言っておこうかな」
「なんだそれ?」
「あと後ろ、危ないからね?」
急に後方から大量の蔓が襲ってきた!
「なっ!?」
蔓はジュウジャの右足首に絡み付くと上方へと引っ張り上げ、ジュウジャを宙ずりにした。
「あらら〜?ちょっと待っててねー」
4つに分かれた細い木の棒を素早く組み合わせて“柄”を形成し、先端に鋭い木製の刃である“穂”を取り付けた。
ハロパちゃん専用の薙刀、愛橋の完成だ。
「せーの、…はいよっと!」
ジュウジャの足に絡んでいる蔓まで軽くジャンプして愛橋の間合いに入り、穂で蔓を一刀両断した。
蔓を切られてジュウジャはバランスを崩したが、どうにか空中で身体を反転させて足から着地した。
「すまんハロパ、助かった。というより気付いていたのならもっと早く教えてくれ!」
「ごめーん、大丈夫だった?でもね、蔓がどの木から伸びているのか私にはもう全部見えてるんだから〜………ねッッッ!」
ハロパは1本の木に向かって愛橋を投擲した。
ガガァッ
愛橋はその木の道管を正確に射抜き、断末魔と共に木からは大量の蔓が一気に垂れ下がった。
「(薄暗い森でこんなにたくさんある木々の中から…どの木が本体かあの短い戦闘中に見極めやがった)」
「ね!私すごいでしょ?」
ジュウジャの心の声が聞こえた気がして私は笑顔でピースをして応えた。
[5]
「正直、すごいよ。戦闘センスにおいてはハロパに勝てる者なんていないだろうな」
「え〜?やっぱり私の彼氏ってバカなのかな?」
「な、急に何故だっ!?」
「私より格段に強い人がいるじゃん?」
「フッ…そうか、俺のことだな」
「あ、あそこにりんごみーっけ」
「このタイミングで無視をするな!」
「冗談はさておき。その人、優しすぎるから普段強さが全く見えないんだよね〜…なんていうか“優しさセーブ機能”があるの」
「なんだそれ?」
「…ね!」
暗い森の中で私たちの楽しそうな声だけが響いている。
「とりあえず、愛橋を回収してくる」
たくさんの蔓が垂れ下がった木に近寄って愛橋を引き抜こうとした。
「んぬぬぬ…待って!思ったより深く刺さっちゃって、、、抜ーけーなーいー…」
「微力ながら俺も手伝おう」
ジュウジャが近寄った瞬間、また後方から蔓が鞭のように叩きつけてきた。
今度の蔓は無数にトゲが付いており、先程とは明らかに別の木々だった。
蔓は愛橋を引き抜く事に意識が向いていた私の一瞬の隙を狙っていたの。
「危ない!!」
ジュウジャは身を挺して私の盾となり、蔓の一撃はジュウジャの背中に直撃し多数のトゲが突き刺さってしまった。
「ジュウジャ!?」
「チッ…ハロパ!コイツの蔓、どっから延びてきたか見えたか?」
「ジュウジャ、そんなことより怪我は!?」
「いいから探せ!」
「うん!」
私は集中して目を凝らした。
「…あの木!今、風もないのに少しだけ揺れた!」
「よし、でかした!」
ジュウジャはポケットから球体を出し、私が指差した木を目掛けて力いっぱい投げつけた。
その球体を叩き落とそうと蔓が触れると爆発が起こった。
爆発と同時に球体の中から数多の針が飛び散り、その何本かが道管を貫き、木はすぐに絶命した。
「ほら、どうよ?俺の発明した“びっくりハリネズミ君”のお味は?徹夜してしこたま針を仕込んだんだ…少しくらいは弱点に刺さっただろう」
「ジュウジャー!そんなことより怪我は!?」
悲鳴のような泣き声をあげてジュウジャの心配をした。
「ハロパ、もう…俺はダメだ。ここでリタイアかもしれん」
「ウソよ!背中見せて!」
「ハロパよ…俺は今日で死ぬ。最後に胸を、胸を揉ませてくれないか?」
泣きながら服を脱がせるとジュウジャは“着るマモ君”によってしっかりと守られていた。
「あ…そういうことね、、、“今ここで私に殺される”ってことは頭では理解出来ているってことよね」
ジュウジャの絶叫が森にこだました。
「おいおい、たしかに悪ノリはしたけどあんなに愛橋の柄でボコボコに叩くことはないだろう?」
「知りませーん、自業自得でーす…
まぁ叩いたのは謝らないけど、私を守ってくれたことのお礼だけは言うよ」
「ハッ…本当、素直じゃないよなぁ」
私たちは大きな荷物を運びつつ、果物を絞ったジュースを勝ち取った戦利品のように飲みながら森を抜けた。
[6]
〜翌朝 イレビー家の前〜
「これを…全部私に?」
イレビーはキョトンとした顔で言った。
「Yes!今日はりんごの日!!私が今勝手にそう決めたんだけどね、今日から今日は祝日になります」
「…へぇ??」
ドヤ顔で言った私のムチャぶりに反応できず、イレビーは更にキョトン顔で困っていた。
「昨日イレビーが帰っちゃった後、ジュウジャと果物取ってきたんだよね。で!!イレビーシェフ特製アップルパイ食べたいな〜って思ったらなんか気付いたらたくさん取りすぎちゃった結果こーなっちゃったの!」
イレビーに30個ほどのりんごが一気に贈呈された。
「ハロパちゃん、急にこんなにたくさんりんご持ってこられても困るよ〜。それに今日が祝日なんて初めて知ったよ」
「でも昨日ジュウジャから包丁貰ったんだし、ここはイレビーシェフの腕の見せ所だと思うのよね〜…
一応訂正しておくと今日が祝日っていうのは私の冗談だからね?」
「祝日は冗談なの?でもアップルパイが食べたいのは本当なんでしょ??
それなら一緒に作ろうよ。
ハロパちゃん手作りのアップルパイを渡したらジュウジャ君喜ぶと思うよ」
相変わらずのモニョモニョ小声でイレビーは言った。
「はぁ、、、イレビー…本当にアンタって子は…」
「え?え?なに??」
「なんでもないよーだ。
でもたしかにこんなにたくさんのりんごを持ってきて一方的にアップルパイ作ってって言うのもさすがの私でも申し訳ない気がするかも…私も教えてもらいながら作ってみようかな?」
「うんうん、二人で一緒に作ろうよ」
この時のイレビーの嬉しそうな顔が今でも鮮明に覚えてる。
私は普段料理なんてしないから、全部イレビーシェフのご指導のもと二人で作る初めてのアップルパイ!
りんごを切りながらイレビーと何気ない会話が始まった。
「ねぇ、ハロパちゃん知ってる?」
「んー?」
「ホウリュウ家の長男の話…たしかトゲツ君って名前だったかな」
「ホウリュウ?あー、あの空手一家の?」
「うん!今10歳で結構可愛い顔をしているらしいんだけど、すっごく強くて素手で木々を狩り回っているんだって」
「えー、素手で!?しかも年下で可愛い顔してるのに脳筋なの?なんか話だけ聞くとかなりヤバそうな子!でも私ショタには全然興味ないからね」
「しょた……?」
イレビーは知らないワードを言われると少しスリーズしちゃうんだけど、そこもまた可愛いのよね〜♪
「じゃあこの話は知ってるかな?2日前に虎が出た話」
「そりゃあ虎も出るでしょ?別にこの辺では珍しくないと思うけど」
「それがね、結構大きい虎で人が襲われちゃったんだって!それでね、襲われた人の中に戦いが強くて有名な人も数人いたらしいんだけど全然歯が立たずにやられちゃったんだって」
「やられたって、殺されちゃったってこと?」
「………うん」
少しの間、沈黙が流れた。
「私だったら勝てるよね」
「…えっ!?」
私の発言から言葉の意味を察したイレビーの表情が歪んだ。
「ダメだよ!絶対にダメ!危ないから大人の人に任せようよ」
イレビーなりに大きな声を出したつもりなのだろうけど、声はしりすぼみになった。
「また人を襲う可能性もあるんだし、早めに手を打つべきだと思う」
「だからって!なんでハロパちゃんが行かなきゃいけないのっ!?」
「…う、さすがイレビー。なんで私が虎を倒しに行かなきゃいけないんだろう?その通りすぎて何も言えない…」
イレビーの顔がホッとした安堵の表情に変わった。
そして出来上がった無駄に大量のアップルパイ!!
さすがイレビーシェフが作ったのは美味しそう♪これぞ本家って感じ!
相対して私が作ったアップルパイ、焦げててなんかビショっとしてて形も歪で全ッ然美味しくなさそう。
一緒に同じように作ったのに出来上がりにこうも差が出るものなの?
でも、本来の目的は“イレビーが作った”アップルパイを“私が”食べたかっただけだから何も問題ないんだよね。
「ハロパちゃんの手作りアップルパイ、ジュウジャ君きっと喜ぶよ」
「…え?正気?この残念アップルパイを食べさせる気なの!?」
「せっかく作ったんだし、渡さないともったいないよ〜」
「ジュウジャへの罰ゲーム過ぎない?これは渡せないって!また今度作ってちゃんと自信作を渡すよ」
「じゃあ、ハロパちゃんが作ったの私が食べるね」
「ダメー!!この残念アップルパイは私が責任もって食べます。そんなことよりさぁ…ねぇねぇねぇイレビーちゃん……」
「…え?」
悪巧みをした私のニヤついた表情を見て、イレビーは嫌な予感を感じていた。




