7話 まさかの遭遇
エンゲラの鼻息が聞こえて、目を覚ました。
彼女がここまで息を荒げるのは珍しい。何かと思い目を開けると、彼女は私に背を向けて立ちはだかっていた。
彼女の視線の先には、ダークエルフが立っていた。彼女は私を守ってくれたのだろうか。
「……こんにちは。」
「……」
当然、返答は聞こえない。だが、彼女からは血の匂いがする。
「…お怪我していませんか」
「……」
「私に治療、させてもらえませんか」
「……頼む」
彼女は、傷を隠していた布を取った。
かなり深い傷だ、魔法だけでの治療は難しいだろう。
医療キットから消毒道具を取り出し、彼女の傷へ当てる。殺菌できたところに、ポーションを染み込ませた包帯を巻く。
「…治癒魔法、使わないのか」
「あれは応急手当です。深い傷を治すためには、医療キットを使用した治療が必要になります。」
「魔法だけで…いい…」
「魔法は便利ですが万能ではありません。あなたの傷では、数日後に傷が開いてしまいます。治癒ポーションでしっかり傷元から直してください。」
「…お前、フォレストエルフだよな。どうしてそんなに手厚く治療してくれるんだ。私なんか見捨てればいい。」
「怪我している者ならば、敵も味方も関係ありませんよ。」
「……そうか。皆、お前みたいならよかったんだがな」
そこからは話が続かなかった。
彼女の体は傷だらけで、どの傷も中途半端に回復した痕があった。おそらく、治癒魔法だけで乗り切っていたのだろう。だが、戦場で悠長に包帯を巻く暇はない。仕方のないことなのだろう。
「はい、これで終わりです。包帯は、ポーションが抜けて乾くまで剥がさないように。」
「……ありがとう。」
「私を殺さなくていいんですか?」
「恩を仇で返すような弱者じゃないさ。」
気づけばエンゲラも、先ほどまで睨みつけていたところが、今は耳を少し倒しているほどで警戒を解きつつある。
「お前、名はなんという。」
「セレスタです。」
「セレスタ…か、いい名前だな。私はミカリスだ。そこの馬は、なんというのだ。」
「この子はエンゲラです。」
「美しい毛並みの馬だ。これほど良い毛並みをしていて、先ほどは主人を守っていた。さぞ良い信頼関係が築けているのだろう。」
「…さて、もう用もない。お前と戦場で会わないことを祈っているよ。」
「どうか安静にしてくださいね。」
彼女は一礼し、洞窟から立ち去っていった。
「エンゲラ、さっきはありがとう。」
彼女にはまた、助けられてしまった。戦意がないダークエルフだったからよかったものの、彼女が殺されていた可能性がある。やはり彼女には逃げてもらうのが一番だろう。
「エンゲラ、やっぱりあなただけでも…」
言い終わる前に、彼女は私に頭を押し付けてきた。離れるつもりはないと、言っているように。
「…そうだね、一度決めたんだから、あなたの意思を尊重するべきだよね。」
彼女にはしばらく助けてもらうことになるが、彼女が嫌ではないというのならばそれに甘えよう。それが、信頼というものだろうから。




