6話 残された絶望
今日も戦場に向かおう。1つの命だけでも救うために。
「ようやく出ていってくれたと思ったのに」
「お前の家を取り壊しておけばよかったな」
「偽善者、さっさと出ていけ」
「気持ち悪い承認欲求だ」
家のドアに、無数の張り紙がされている。私が数日出かけるたびに、貼られている。嫌がらせのつもりなのだろう。
こんな言葉に負けていられない。私は救わないと。
「お、聖女サマ気取りがまだいるぞ」
「自意識過剰もあそこまでいったら可哀想だよな」
「おい、聞こえるって」
私を蔑む声も、嘲笑う声も、何も聞かない。耳を傾けてはいけない。彼らは古い考えに囚われているだけなんだ。
「そこ邪魔だ退け!非戦闘民が戦場にいられても邪魔くさいだけなんだよ!何もできないなら関わってこないでくれ!」
兵士の声が、耳の中で反響する。
これ以上いても、私はただの邪魔者なのだろうか。
私がいることで、犠牲者が増えてしまっているのだろうか。
いや、ここで考え込むのはいけない。洞窟まで隠れよう。
「ねえエンゲラ、私やっぱりダメなのかな。」
堪えた声が反響してしまわないよう、必死に喉を押し殺す。涙が溢れて止まらない。エンゲラは、そっと首を伸ばしてくれた。そこへ顔を寄せる。涙でぐちゃぐちゃな私でも、エンゲラは離れずここにいてくれる。私のしゃがれた声と、エンゲラから漏れ出る息が狭い洞窟内を満たしている。私の居場所は、もうここにしか残されていないのだろうか。
「私、ただ紛争をやめてほしいだけなのに、誰にも伝わらないの。」
エンゲラに必死にしがみつく。彼女までいなくなってしまったら、私はもう生きていけない気がするのだ。
彼女は動かずに、ただ受け入れてくれていた。
そのまま、しばらく眠ってしまっていた。エンゲラは、私を内側に隠し、外からは見えないように守ってくれていた。
「エンゲラ、ありがとう。もう行くね」
立ちあがろうとした時、彼女は私の服を掴んでいた。子猫がどこかへ行ってしまうのを防ぐ母猫のように。
どうやらしばらくは、彼女のそばにいないといけないようだ。




