1話 届かない祈り
今日も罪なき命が奪われる。少しでも多く、犠牲者を減らすため。医療キット、ポーションを抱え、家を飛び出す。
紛争は嫌だけれど、命が散るのはもっと嫌。
負傷者を、手遅れになる前に見つけ出さないと。
「大丈夫ですか!」
「異常者、お前なんかの施しはいらないよ。」
「大丈夫ですか!」
「フォレストエルフめ!近づくな!」
今日も、ポーションは減らなかった。
紛争のせいで、傷は戦士の証という考えが根付いてしまった。治癒されたがる者はいない。ダークエルフにいたっては、そもそも敵対種だ。私は戦場に不必要。そんなことは、最初からわかっている。
歪んだ考えが、先祖の代から受け継がれているのだ。2000年前から続く負のループを断ち切らない限り、死傷者は減らないだろう。
そんなこと、最初からわかっているんだ。わかっているからこそ、変えないといけない。
その後も、負傷者を探しては怪しまれ、断られ。今日も誰ひとり救えなかった。
誰も気づかない。私たちが愛する森を、守護する森を、自分たちで傷つけていることを、穢していることを。どうして誰も気づかない。どうして誰も気づこうとしない。森も、敵も、味方も、皆悲鳴を上げているというのに。
今日はもう暗い。撤退しよう。死んでしまっては、届くかもしれない声も上げられなくなる。




