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スナック月影、今夜も歌う  作者: やしゅまる


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6/10

第6話「SNSで大炎上!?」

翌朝。

 田主丸の朝はいつもよりざわついていた。


「ママ! これ見てみい! “#月影ママ”がトレンド1位ばい!」

 スマホを片手に健吉が店へ駆け込む。

 ママ・友里恵はコーヒーを吹き出した。


「えぇ!? また何かバズっとると!?」


「“ママの歌声が日本を泣かせた”やて! ……けど、コメント欄見てみ。“あざとい”“素人が調子乗るな”とかも書かれとるばい」


 ママは一瞬、顔を曇らせた。

 カウンターに置いた手が、小さく震える。


「……ああ、まあ、しゃあないね。世の中には、ひねくれた人もおるけん」


 笑おうとするママに、航太が静かに言った。

「ママ、気にしなくていいです。きっと、ほんとの音を聴いてくれる人が勝つんですよ」


「……ありがと。けど、ちょっと今日は休もうかね。掃除でもしとくけん、みんな帰っとって」


 そう言って、ママはエプロンを外した。

 その笑顔の裏に、少しだけ影が差していた。



 数日後、スナック「月影」はシャッターが閉まったままだった。

 町の人たちは心配そうに見上げる。


「ママ、出てこんねぇ……」

「“炎上”ってやつ、ほんとに怖かね……」


 健吉は腕を組み、決意の顔をした。

「よっしゃ。もう黙っとられん。“月影を守る会”ば作るばい!」


「えっ、なにそれ!?」と航太。


「動画上げるっちゃ。アンチに負けん動画ばい!」

「……どんな内容に?」

「そりゃ、“ママの素顔”ば見せるとよ!」



 その日の夕方。

 健吉たちはスナックの前に集まり、即席の撮影会を始めた。

 ぶどう箱を三脚代わりに、カメラをセット。


「よっしゃ、撮るばい! タイトルは──“ママは売名とか言われとるけど、ほんとは涙もろい乙女やけん!”」


「タイトル長すぎるって!」

 航太が笑いながら止める。

 しかし健吉は構わず、スマホをカメラに向けて叫んだ。


「全国のみなさん聞いてくれ! ママは“売名”やなくて“歌命”たい!」


 背後で、スナックの仲間たちが“のれん”を掲げる。

 「#月影を守る会」の手書きプラカード。

 それは不器用だけど、まっすぐな愛のかたちだった。



 その夜、航太のスマホが鳴った。

 通知が止まらない。

 再生数、10万、20万、30万──。


 コメント欄には、こう並んでいた。

「こんな人たち、応援したくなる」

「“売名”じゃない、“歌命”に泣いた」

「ママ、帰ってきて!」


 航太はママの家の前に走った。

 窓の明かりがひとつだけ灯っている。

 そっとドアを叩くと、中からママの声がした。


「……航太?」


「みんな、ママを待ってます。“月影”が恋しいって」


 しばらくの沈黙のあと、ママが小さく笑った。

「そげん言われたら、しゃあなかね。ちょっとだけ歌おうか」



 その夜、「月影」の明かりが再びともった。

 シャッターの隙間から、音が漏れる。

 航太のギターの前奏──

 ママがマイクを握り、深く息を吸う。


♪ 叩かれても 泣かれても

 歌えば また立てるとよ

 笑われても 馬鹿にされても

 声があるけん 生きとると──♪


 店の外に、町の人々が集まり始めた。

 スマホを掲げ、涙をこぼしながら聴いている。

 誰かがコメントを打つ。


「泣くほど叩かれても、歌えるなら幸せよ。」


 ママがその言葉を見て、そっとマイクに笑いかけた。

「──ほんと、そればい」


 その瞬間、全国のSNSが再び沸いた。

《“月影ママ”、炎上からの奇跡の歌声!》

《叩かれても歌う人の強さに涙した》



 深夜。

 健吉がカウンターでうれし泣きしながら言った。

「ママ、ワシら……やっぱ最強やな」

「ほんとねぇ。アンチより、うちの常連の方がよっぽど熱かも」


 ママが笑い、航太がギターを抱えて呟く。

「やっぱり音楽って、場所を選ばないんですね」


 ママは少し考えて、言った。

「選ばんね。けど、“歌う理由”は、場所が育ててくれるとよ」


 その言葉に、航太はうなずいた。

「……この町で歌えて、よかった」


 カウンターの上、スマホが光る。

 画面には、白川麻衣のアカウント名で短いコメント。


「あなたたちの音楽、ちゃんと届いてるわ。」


 ママがそれを見て、グラスを磨きながら呟いた。

「ほらね、都会の風も悪くなかろ?」


 その夜、スナック「月影」の灯りは遅くまで消えなかった。

 外では、ぶどう畑の葉が静かに揺れていた。

 ──傷ついても、優しさはまた実を結ぶ。


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