8-5 友人と、お別れ
翌日。
お昼近い時間になってしまったが、これからケアを妖精の国に帰す。
「ケア、私の耳に手を当てて」
「はい」
耳に、小さくて温かい手が触れる。緊張しているのか、わずかに震えていた。
私は昨日と同じ要領で空間に切れ目を入れ、昨日探した場所へ意識を飛ばす。
魔界のあらゆる物は魔力を宿しているから、上手くやれば頭の中に風景を映し出せる。
その映像をケアへ共有し、住んでいた町を特定してもらう。
「どう、知っている場所はある?」
「うーん……。あ、ここです」
三か所目の、規模としては一番小さい町だ。
「わかったわ。近い場所の空間を裂くと影響が出るかもしれないから、少し離して……。この辺りからなら帰れそう?」
「はい。ここならわかります」
一寸先も見えないほど濃い霧に覆われた森の中だが、ケアは自信満々に答える。
「オッケー。じゃあここに繋げるわね」
「はい、お願いします」
私はそのまま空間を裂き、妖精の町の近くへ繋げる。空間を越えた瞬間、ケアはふらりとしたが、気合で持ちこたえた。
「どう、ここからなら帰れる?」
「はい、バッチリです」
先ほど映し出していた通り、ここは霧で右も左もわからない森だ。おそらく妖精だけがわかる魔力の流れがあるのだろう、ケアは自信満々だ。
「あ、そうだ。通信用の水晶を渡しておくわ。困ったことがあったら、これで私を呼び出しなさい。すぐに助けに来るから」
昨晩、徹夜で作った親指大の水晶をケアに渡す。
この水晶にはケアとの通信魔法などを書き込んである。
水晶は小さければ小さいほどデリケートだ。小さいが故の緻密な作業と、襲い来る眠気のせいで、最終的に二十個以上の水晶が犠牲になった。
「使えるかどうか、一度試してみてくれる?」
ケアが水晶を使うと、私が持ち歩いている水晶にケアの顔が映し出される。これで襲われた時に私が赴けば、最悪の事態には至らないはずだ。
「いざという時に使えないと困るから、月一ぐらいで連絡を頂戴。通信さえしてくれれば、故障状況がわかるようにしてあるわ」
「……ノワエさん、やはりすごい魔族なんですね」
「それなりに、ね。あと、私のすごさは秘密にしておいてね」
「わかりました。ノワエさん、何から何まで、本当にありがとうございます」
「また助けることがあったら、食事をよろしくね」
「はい、もちろんです! では、失礼します」
そう言い残して、ケアが霧の中に消えていく。その姿はすぐに見えなくなった。
私もついて行きたかったのだが、魔族がいきなり町に行けば警戒されるだろう。だから今回はついて行かない。
二十分ほどすると、ケアが無事に着いたと連絡をくれた。
「あ~あ。もう少し食べたかったなぁ……」
そんな愚痴をこぼしながら、探知魔法を使う。
辺りに魔族や強い魔物の気配がないことを確認してから、私は館へと帰った。




