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5-3 やはり、身バレした

それから三日。ルルカと行動を共にしながら、魔族か人間か怪しい者たちを一人ずつ調べていったが、今日まで人間は見つかっていない。

残りは五十人ほど。明日で全部終わる。まだ断定はできないが、ここまで来ると誤情報の可能性が高いだろう。


「はぁ~、疲れた。ルルカ、マッサージお願い」


宿に戻り、フカフカの大きなベッドに飛び込む。


「は~い。ルルカちゃんにお任せ。ついでに着替えもさせちゃうね~」

「よろしく~」


この三日間で、私はすっかりルルカなしでは生きられない身体になってしまった。

……というのはさすがに言いすぎだが、何をするにもルルカに甘えて生活している。

朝起きたら着替えをさせてもらって、身だしなみを整えてもらって、出発前の荷物チェックも店主への連絡も全部お任せ。

人間を探している時も、聞き込みをしてくれたり、ちょっとした買い出しに行ってくれたり、休憩場所を確保してくれたり、衣服が乱れていると直してくれたり……。

とにかく気が利くし、お世話好きなのはよくわかった。


自分の名誉のために言っておくが、普段はここまで自堕落ではない。

でも、ルルカがやると見違えるほどきれいになるし、聞き込みもルルカの方が上手い。

あと、美味しいお店を見つけるセンスがすごい。


要は、私生活は丸投げしてしまった方が、いろいろと上手く回るのだ。


「はぁ~~ん。生き返るぅ~」


着替えが終わりルルカのマッサージが始まると、気持ちよさのあまり、思わず姉さんみたいな声が出てしまった。


「気持ちいい? ノワエ様、ルルカちゃんの手で気持ちよくなっちゃってるの?」

「あ~ん。とっても気持ちいいぃ~。ルルカの激しい動きでおかしくなっちゃう~」

「ほれほれ。気持ちいいなら、もっと声を上げちゃいなよ」

「いや~ん。きもちいい~。耐えられな~い」

「ぷっ、あははははっ。ノワエ様、悪ノリしすぎ」

「そういうルルカもノリノリじゃない」


ルルカの悪ノリに悪ノリで返すと、先に吹き出したのはルルカだった。

こういうふざけたやりとりって、姉さんとぐらいしかしたことがないから、ちょっと新鮮で、なんだか楽しい。


「ノワエちゃ~ん」


サイドテーブルに置いてある通話用の水晶に、甘ったるい声と共に姉さんの顔が映る。


「進捗はど……う?」


いつも通りのテンションで話しかけてきた姉さんだったが、見る見るうちに表情が固まった。


あ、そうか。水晶が置いてあるサイドテーブルは少し距離があるから、私の全身――ルルカが馬乗りになって、ちょうどお尻を揉んでいるところまで映ってるのか。


「うそ……ノワエちゃん、私という女がいながら、こんなに堂々と浮気現場を晒すなんて……」

「いや、これは違いますよ。そういう行為じゃなくて、マッサージです」

「性の権化である私の全身全霊のテクで満足できなくて、どこぞのたわわな女を連れ込んで行為にいそしんだ挙句、それを何度も何度も体を重ねて愛し合っている姉に見せつけるなんて……。あ、鼻血出てきた」

「姉さんは相変わらずで何よりです。あと、姉さんには大変満足していますので、ご安心を」



なにに興奮してるんだこの痴女は。そう思いながら、ルルカのマッサージに身を任せる……が、その手の動きが止まっていることに気づいた。


「あの……。私、もしかして魔王様引いちゃった?」

「……あ」


ルルカは、目の前に映っている女性が色欲の魔王だということを、どうやら知っていたらしい。

その女性を姉と呼び、しかも濃密な付き合いがあって、色欲の魔王の壮絶な責めに耐えられる魔族だとすれば、私が魔王族である可能性は高い。


ルルカは頭の回転が速いなぁ~。なんて思いながら、この場を収める方法を考える。

しかし、何も思いつかない。


「う~ん……。魔王ってことは隠していて、あなたに伝える段取りはしてたんだけど、今じゃないのよねぇ。通話する前からやり直しってできない?」

「いや、衝撃的すぎて忘れられないから無理……」

「じゃあ、姉さんの用件を聞いてから、私の素性を話すわ」

「マッサージは?」

「続けて」


なんとも微妙な空気になったが、ルルカは言われた通りマッサージを再開してくれる。

変わらず気持ちよかったが、さすがに喘ぎ声は出せなかった。


「で、姉さん。一人で盛ってないで、要件を話してください」

「あ、ちょっと待って今いいところっ! 愛しの妹とその浮気相手の痴情を見せられた挙句、挑発的な目で見られながら、自分で自分を慰めないといけないなんて……感情がぐちゃぐちゃになって、とっても気持ちいいのよ!!」

「……終わったら声をかけてくださ~い」


自分でしているのに激しくのけぞり、大きな声を上げながら悶える姉さん。その痴態を、出会って数日の魔族に見せているだけでも気まずいのに、魔王だとバレてさらに気まずい空気の中、私はルルカのマッサージを受ける。


三十分ほどで姉さんは落ち着き、服装は乱れたままだが、ようやく話をする体勢になった。

ルルカのマッサージもちょうど終わったので、私たちは並んでベッドに腰をかけ、姉さんの話に耳を傾ける。

なんでも、この町の兵士たちが窃盗に遭い、取り押さえた犯人が人間だったらしい。


「わかりました。すぐに向かいます」

「うん、よろしくねぇ。あ、それとぉ、もう一つ用事ができちゃった」


目の前に空間の裂け目が生まれ、姉さんが現れる。その手には、獲物を狩るときに使う、魔力で作られた大きな鎌が握られていた。


「ノワエちゃんの正体を知っちゃった者は、始末しないと」


その鎌を、ルルカの首筋にあてる。

さっきまで痴態を見せびらかしていたのと同じ人物とは思えないほど、姉さんの目は鋭く冷徹だった。


「あ、はは……やっぱり、そうなっちゃうよね……」


姉さんが仕事モードに入ると、私でも背筋に冷や汗が流れる。

蛇に睨まれた蛙のように身をすくめたルルカは、それでも笑顔を作り、なんとか声を絞り出した。


「ごめんねぇ。あなたに恨みはないし、ノワエちゃんが安心して身をゆだねていたみたいだけど、情報漏洩を防ぐ手っ取り早い手段が、始末しちゃうことなのよ」


姉さんは年中発情しているけど、やることはやる女だ。

このまま放っておいたら、ルルカの命はない。


「……姉さん。私の従者に手を出さないでください」

「えっ……?」


ルルカが驚いた表情でこちらを見る。


「……ノワエ、本当にこの子を従者にしたの?」

「はい。仕事が終わってから、そちらに伺って報告しようと考えていました。魔王族であることも、その時に説明するつもりでした」


同情して言っているわけではない。

この三日間、彼女と生活を共にしてみて、私が決めたことだ。


「姉さん、まさか私の従者に手を出すなんてこと、しないですよね?」


姉さんが私をじっと見据える。

私はその視線をまっすぐ受け止め、決して逸らさない。


私の本気が伝わったのか、姉さんの顔が一瞬でとろけ、ルルカの首筋に当てられていた大鎌もきれいに消える。


「もちろん、ノワエちゃんの従者に手を出したりしないわよ。それに可愛い女の子だし。あなた、お名前は?」

「ルルカ……」

「ごめんね~、ルルカちゃん。ノワエちゃんは生粋の変態だけど、お世話お願いね」

「おい、変なこと吹き込むな。あと挨拶代わりにルルカの胸を揉むな」

「や~ん。嫉妬しちゃって可愛い~。ノワエちゃんも揉んでみなさい。淫魔でも珍しいくらい大きくて柔らかいわよ。あ、鼻血出てきた……」

「……ルルカ、嫌なことは嫌って言いなさいよ」

「いや~。今は揉まれてても、あんまり感触ないかなぁ……」


ルルカの胸を堪能していた姉さんが、ふと何かに気づいたのか、嬉しそうに手を叩いた。


「そうだ! ノワエちゃん、ニートのあなたがどうやってルルカちゃんを養うのかなぁ?」


答えなんて一つしかないと分かっているのに、いやらしく質問してくる姉さん。


「……増やします」


何が、とは言わない。


「はぁ~い。じゃあ遠慮なく遊びに行きまぁ~す」


それを聞いて、姉さんが弾けるように華やかで、どこか妖艶な笑みを浮かべ、私の頬に軽くキスをした。


「ルルカちゃん、ありがとうね。これでノワエちゃんをもっと深く愛せるようになったわ。そ・れ・と、もしルルカちゃんがノワエちゃんに満足できなかったら、私が相手してあげるから遠慮なく言ってちょうだいね」

「えっと……」


展開についていけないルルカが、こちらに助けを求めてくる。


「ルルカ、絶対に“はい”って言っちゃだめよ。あんたの場合、本当に死ぬわ」

「ちょっとノワエちゃん、私はプロの中のプロよ。壊す寸前まではするけど壊しはしないわよ。それにぃ~、壊すのはドMで破滅願望のある本命のノワエちゃんだけよ」


そんな願望は一切ないのだが、姉さんに言われるとその気になってしまうのだから、ちょっと悔しい。


「じゃあルルカちゃん、ご指名待ってるから。それじゃあ~ねぇ~」


そう言い残して、姉さんは城へ戻っていった。


「あの、えっと……。さすがのルルカちゃんも何が何やら」

「そりゃそうよね。とりあえず、掃除をしましょうか」

「うわっ、本当だ! ごめん、ノワエ様!!」


ルルカは言われて初めて、シーツにできた染みに気づいたようだった。


「私は速攻で片付けをするから、ノワエ様は出発の準備をして!!」

「はいはい。慌てなくていいわよ」


慌ただしく掃除を始めるルルカを眺めながら、改めて「彼女を雇ってよかったな」と思う。

姉さんは魔界で五本の指に入るほどの実力者だが、ルルカは魔界でも下から二番目くらいに弱い部類の魔族だ。比喩でも何でもなく、瞬きする間もなく存在を消し飛ばされるほどの力量差がある。

そんな死そのものに直面しながらも、気絶せずに耐え抜いたルルカ。

こういう力では測れない、地の強さとでもいうものが私の従者には必要だ。ルルカはそれを確かに持っている。


流石に小一時間はかかるだろうと思っていたが、ルルカは二十分少々で片付けを完璧に終え、さらに自身の準備も数十秒で済ませてしまった。

結果、のんびりと準備をしていた私の方が遅くなった。

いつものように準備を手伝ってもらい、ルルカと一緒に宿を後にする。


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