71 三年の歳月、色づく想いと言の葉
本日3話目の投稿です。第69話、70話をご覧になっていない方は、先にそちらからご覧くださいm(_ _)m
ときは巡り、朱斗と蒼依17歳の秋
あのアケト・ミナモトが「日の本国」の誕生と自らの改名を宣言し、コライス子爵とドンク侯爵の脅威を完全に退けてから、さらに3年の歳月が穏やかに、しかし力強く流れ過ぎていた。かつて辺境の一村に過ぎなかったルアン村は、今や「領都カマクラ」として、その名を大陸の東方に広く轟かせるほどの目覚ましい発展を遂げ、日の本国は真の平和と繁栄を謳歌していた。
アケトとアオイも、いつしか17歳という、心身共に成熟し、その知性とカリスマ性にますます磨きがかかる時期を迎えていた。アケトは日の本国の若き君主として、アオイはその最も信頼するパートナーであり国の精神的支柱として、民からの絶大な信望を集めていた。
その年の秋。日の本国全土が、燃えるような赤や、目に眩しい黄金色の紅葉に彩られ、一年で最も美しい季節を迎えていた。空はどこまでも高く澄み渡り、柔らかな日差しが豊かな実りを終えた大地を優しく照らしている。
そんな穏やかな午後、アケトとアオイは、二人きりで領都カマクラの郊外、かつて日ノ本神社へ続く小道だったが、今では美しい紅葉の並木道として整備された場所を、ゆっくりと散策していた。
カサカサと足元で乾いた落ち葉が心地よい音を立てる。アケトの隣を歩くアオイの横顔は、夕暮れ前の柔らかな光を受けて、はっとするほど美しかった。黒曜石のような髪は艶やかに輝き、澄んだ蒼い瞳は、遠くの山々を染める紅葉の色を映してきらめいている。
この3年間で、彼女は可憐な少女から、息を呑むほど美しい女性へと成長していた。そしてそれは、アケトも同じだった。背丈も伸び、顔つきも精悍さを増し、その立ち居振る舞いには、若き君主としての威厳と、しかし変わらぬ優しさが同居していた。
「…今年の紅葉は、一段と見事ですわね、朱斗さん」
アオイが、幸せそうに目を細めて呟いた。
「ああ、本当に綺麗だ。この国の土が豊かになった証拠かもしれないな。これも全て、蒼依と、そして皆の努力のおかげだ」
アケトもまた、目の前に広がる絶景に、そして隣にいる彼女の存在に、深い感慨を覚えていた。
しばらく、二人は言葉少なに、錦織りなす紅葉のトンネルを歩いていた。その沈黙は、気まずいものではなく、長年連れ添った夫婦のような、穏やかで満ち足りた空気に満たされている。
やがて、アケトは、ひときわ大きな紅葉の木の下でふと足を止め、アオイに向き直った。その表情は、いつになく真剣で、そしてどこか緊張を隠せないでいるようにアオイには見えた。
「蒼依…」
アケトが、少し掠れた声で彼女の名を呼ぶ。アオイは、彼のただならぬ雰囲気に、何事かと小首を傾げた。
「俺たちは…本当に、色々なことを一緒に乗り越えてきたな」
アケトは、遠い目をして、これまでの激動の日々を思い返すように言った。
「日本での出会い、この世界への転生、…数えきれないほどの困難があった。だが、どんな時も、君が俺の隣にいてくれた。君の優しさが、君の強さが、君のその真っ直ぐな心が、いつも俺を支え、励まし、そして正しい道へと導いてくれた。君がいなければ、今の俺はいなかっただろう」
アケトの言葉は、飾りがなく、しかし心の底からの感謝と、そして深い愛情に満ちていた。
アオイは、彼の真摯な言葉に胸を打たれ、頬を染めながらも、しっかりと彼の瞳を見つめ返す。
「朱斗さん…私も、同じ気持ちですわ。あなたと再会できたことが、この世界で生きる私の、何よりの希望でした。あなたがいたから、私もここまで歩んでこれたのです」
アケトは、アオイのその言葉に勇気づけられるように、一歩彼女に近づき、その小さな両手を優しく握った。そして、意を決したように、しかしその声は愛情と緊張で微かに震えながら、告げた。
「蒼依…俺は、3年前神社で告白したときよりも、もっともっと君のことが好きになっている。いや、好きという言葉だけでは足りない。君を、心の底から愛している。これからも、俺の隣で、同じ未来を見てほしい。そして、俺の人生の全てを、君と共に歩んでいきたいんだ」
アケトは、そこで一度言葉を切り、アオイの潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめ、そして、生涯で最も大切な言葉を紡いだ。
「…蒼依、俺と…結婚して、俺の妻になってくれないだろうか」
その言葉は、秋の澄んだ空気の中に、静かに、しかし確かに響き渡った。
アオイの大きな瞳から、一筋、また一筋と、美しい涙が溢れ落ちた。それは、驚きと、そして長年胸に秘めてきた想いが、ついに報われたことへの、どうしようもないほどの喜びの涙だった。彼女は、言葉にならない想いで胸がいっぱいになりながらも、何度も、何度も、力強く頷いた。
「…朱斗さん…」
ようやく絞り出した声は、幸せに震えている。
「はい…!はいっ…!喜んで…!あなたの妻として、これからもずっと、ずっと、あなたのお傍にいさせてください…!それが、私の…私の、一番の幸せですわ…!」
アケトは、アオイのその言葉を聞いた瞬間、全身の力が抜けるような安堵感と、天にも昇るような幸福感に包まれた。彼は、愛おしそうにアオイを抱きしめ、彼女もまた、彼の逞しい胸に顔をうずめ、幸せの涙を流し続けた。
燃えるような紅葉の木の下で、二人は、言葉以上に確かな、永遠の愛を誓い合った。周囲の木々から舞い落ちる色とりどりの葉が、まるで二人を祝福する紙吹雪のように、優しく降り注いでいた。
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いよいよ物語も次回、最終回。ラストへ向けて頑張りたいと思います。
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