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7 魔法修行 シュート編①

ダンテ石の製造と家の補修がようやく軌道に乗り、以前とは比べ物にならないほど快適になった我が家には、家族の明るい笑顔が絶え間なく満ちるようになった。その光景に心からの安堵を覚える一方で、俺の中には新たな、そして密かな目標が芽生えていた。それは、「魔力」の本格的な訓練だ。


この世界では誰もが魔力を持っていると聞く。体力と同じように、あるいはそれ以上に、魔力というものは訓練次第で飛躍的に伸びる可能性があるはずだ。なぜそう思うのか?それは、前世、日本で読みふけったライトノベルの中に、そのヒントがあったからだ。

異世界に転生したり、特別な力を得たりした主人公たちが、血の滲むような、時には無茶とも思えるような魔力訓練を経て、強大な魔法を操るようになる…そんな物語が、いくつも記憶に残っている。あれらは単なる空想の産物だったのだろうか?それとも、この世界の理ことわりにも通じる、普遍的な真実を秘めているのだろうか?


この世界にも、確かに魔法は存在する。けれど、母さんや村の人々が意識して使っているのは、火種を熾したり、少量の水を汲み出したり、物を少しだけ温めたり冷やしたりする程度の、ごくごく基本的な「生活魔法」が限界のようだ。魔法は特別な才能や血筋がない限り、鍛えて伸ばすものではない、というのがこの世界の常識らしい。

誰もが使えるはずの【身体強化】も、俺の父さん、ダンテの場合は明らかに違う。重い石材を軽々と運び、一日中力仕事を続けても疲れを見せない。体に淡い光を纏わせている時があるが、本人に聞いても「うーん、気合を入れて、力を込めれば、なんとなく体が軽くなるんだ」程度で、意識して鍛えているわけではないようだ。やはり、強く使えるかどうかは才能や経験が大きいのだろう。


(この世界の常識では、魔法は才能であり、鍛えて伸ばすものではない、ということなのか? いや、そんなはずはない。少なくとも、試してみる価値はあるはずだ)


俺には、どれだけの魔力が眠っていて、どんな種類の魔法が使える可能性があるのだろうか? そして、それをどこまで伸ばすことができるのだろうか? 知りたい、という強い好奇心と、いつか蒼依を探し出し、守るために強くならなければならないという切実な思いが、俺を突き動かした。


まずは、自分の内にあるとされる「魔力」そのものを感じ取ることから始めなければならない。ラノベ知識によれば、そのためには瞑想が最も有効な手段のはずだ。俺は、家族に余計な心配をかけないよう、夜、皆が寝静まった後、自室の硬いベッドの上で。あるいは、日中、家の裏手でのダンテ石の材料集めや、一人での作業の合間などに、人目を忍んで静かに目を閉じ、意識を自分の内側へと深く集中させる練習を始めた。


前世で剣道の稽古の一環として学んだ、精神統一の方法を応用する。騒がしい外界の情報を遮断し、意識を自分の呼吸だけに集中させる。吸って、吐いて。ゆっくりと、深く。思考の雑念を払い、ただひたすらに、自分の体の内側にあるはずの「流れ」を探し求める。


しかし、最初のうちは、何も感じなかった。ただ、自分の規則正しい呼吸の音と、ドクンドクンと脈打つ心臓の鼓動だけが、静寂の中で大きく聞こえるだけだ。時には、集中力が途切れて、蒼依のことや、家族のこと、ダンテ石の改良のことなどを考えてしまい、慌てて意識を引き戻すこともあった。


(焦るな…焦りは禁物だ。きっと、あるはずなんだ)


諦めずに、毎日、わずかな時間でも瞑想を続けた。そして、それを始めてから二週間ほどが過ぎた、ある日のことだった。いつものように家の裏手の木陰で瞑想していると、突然、体の中心、へその少し下あたり――丹田と呼ばれる場所に、微かな、しかし確かな「熱」のようなものを感じたのだ。それは、物理的な熱さとは違う、もっと内的な、生命力の源のような、温かいエネルギーの塊。


(これか…!? 間違いない、これが、魔力…!)

確信があった。俺は、その温かい感覚に意識をさらに集中させ、それをゆっくりと体中に巡らせるイメージを描いてみた。すると、驚くほどスムーズに、その「熱」が、まるで温かい血液が流れるかのように、体の隅々まで広がっていくのを感じた。手足の先まで温かさが満ち渡り、体が内側からじんわりと活性化し、力がみなぎってくるような、心地よい感覚。


(これが、父さんが使っていた【身体強化】の感覚か! なるほど、魔力を全身に巡らせることで、身体能力を引き上げる魔法なんだな)


魔力の存在を明確に認識できたことで、俺の探求心はさらに加速した。次のステップは、俺自身の魔法の「適性」を知ることだ。俺は一体、どんな種類の魔法を使える可能性があるのだろうか?


俺は、体の中を流れる魔力の温かい流れを感じながら、自分の可能性を探るべく、属性をイメージしてみた。


(まずは、土…俺の専門分野だ。安定した、堅固な大地よ、俺の意思に応えろ!)


地面に手を付き、大地と一体になるようなイメージで、強く念じる。すると、足元の土がわずかに振動し、手のひらサイズの平たい土の円盤が、まるで意思を持ったかのように、ゆっくりと地面から浮かび上がり、俺の手のひらの上で静止した。ずっしりとした重みと、大地との繋がりを感じる、安定した力だ。


(すごい…! 本当に、こんなことができるなんて!)


興奮で心臓が早鐘を打つのを抑えきれない。魔法が実在し、しかも自分がそれを使えるという事実に、体が打ち震えるほどの感動を覚えていた。


(土魔法か…! これなら、ダンテ石作りや村の生活にも役立てそうだ)


自分の適性が、最も慣れ親しんだ「土」であったことに、ある種の納得と安堵を覚える。平民にとっては実用的で、目立ちすぎることもないだろう。【身体強化】は誰もが使える基本的なものだし、【土魔法】も生活に役立つ地味な魔法だ。これなら、変に注目を集める心配も少ないはずだ。


俺は固く決意した。「土魔法の才能に少しだけ恵まれた、ちょっと変わった村の子供」として、この力を磨いていこう、と。


そうと決まれば、早速、【土魔法】の訓練開始だ。家の裏手の、人目につかない場所の地面に向かって意識を集中し、魔力を練り上げ、地面を平らにならすイメージを送る。


「…んんっ! 動けっ!」


ありったけの魔力を込める。すると、目の前の地面が、ほんのわずかに、数センチ四方の範囲で、ミリ単位で動いた…ような気がした。そして、直後、立っていられないほどの強烈な疲労感と目眩が襲ってくる。魔力が完全に枯渇した感覚だ。


(これだけか…? たったこれだけで、魔力がほとんど空っぽになるなんて…)


想像以上に、魔法の行使は魔力を消耗するらしい。そして、俺の今の魔力総量は、赤ん坊レベルだということだ。初日は、本当に地面をわずかに揺らすだけで精一杯だった。


それでも、俺は諦めなかった。毎日、少しずつでも訓練を続けた。最初は指先ほどの範囲しか動かせなかった土が、数日後には手のひら大に、一週間後にはようやく1メートル四方くらいの地面を、なんとか「ならす」ことができるようになった。ただし、それを一度やるだけで、魔力はすっからかんになり、しばらくは地面にへたり込んで動けなくなってしまうのだが。


(きつい…本当にきつい。けど、魔法が使えるって、やっぱりすごいことだ。面白い!)


お付き合いいただき、誠にありがとうございました。


物語を楽しんでいただけていたら幸いです。今後の励みになりますので、もしよろしければページ下の評価で応援いただけますと大変嬉しいです。


よろしく願いしますm(_ _)m

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