新年 アケトとアオイ11歳 〜建国〜
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アケトとアオイが11歳となる新年。
自治領ルアン――いや、まもなく新たな名を冠することになるこの地の新年会は、年を追うごとにその規模と活気を増していた。
日ノ本神社へと続く参道は、早朝から晴れ着姿の人々で溢れかえり、その顔には希望と安堵の表情が浮かんでいる。
港町キンテロからはモビック前町長(現在はアケトが任命した代官エリクソンを補佐する立場)や息子マビック、腹心のアガード、ボガード、といった主要な者たちが。
イルーガ村、ザンバ村、スラカン村といった新たにミナモト豪族の統治下に入った村々からも、村長や代表者たちが、感謝と新年の挨拶のためにカマクラを訪れていた。
雪深い季節にも関わらずこれほど多くの人々が円滑に往来できるのは、オダワラ城塞を起点として各方面へ伸び始めたダンテ石舗装の街道と、それを実現したカマクラの力があってこそだった。
神社の境内には、各地の特産品や縁起物を売る露店が数多く立ち並び、恒例の子供たちの雪合戦の歓声、大人たちの新年の挨拶を交わす陽気な声、そしてどこからか聞こえてくる笛や太鼓の音が、冬の澄んだ空気に生き生きと響き渡っていた。
「アケト様、アオイ様のおかげで、今年も豊かな新年を迎えることができましたな」
「本当に。まさか、あのフレッド様の圧政に苦しんでいた我々が、こんなにも穏やかで、お腹いっぱいご飯が食べられる新年を迎えられるとは…夢のようです」
ミナモト豪族の統治下に入った村々の代表者たちは、口々に感謝の言葉を述べ、その瞳は潤んでいた。
現在、アケト・ミナモトが実質的に治める地の領民は、旧フレッド領都(人口約2000名)、キンテロ(人口約1200名)、領都カマクラ(人口約1000名)、ドリマ村(人口約700名)、そしてイルーガ村、ザンバ村、スラカン村がそれぞれ150名前後となり、全部で5000人を優に超え、今もなお各地からその善政を慕って人々が流入し続けていた。
初詣と祝賀の宴が三日間にわたり賑々しく執り行われ、その喧騒もようやく落ち着きを取り戻した新年会後のある日。
アケトは、日ノ本神社の清浄な気に満ちた社務所に、ダンテ、アオイ、ルカオン、シャナイアといったミナモト豪族の幹部、各「備え」の主要な若者たち、そして各村の代表者、キンテロの主要メンバーといった、新たな国家の未来を担う全ての主要人物を招集した。
囲炉裏の火がぱちぱちと暖かく燃え、部屋には厳粛な、しかし未来への期待に満ちた空気が漂う。
アケトは、集まった全員の顔を見渡し、静かに、しかし力強い声で口火を切った。
「皆、新年あけましておめでとう。そして、この新しい年の始まりにあたり、我々が進むべき道について、新たな大方針を示したいと思う」
一同の視線が、11歳にして既に為政者の風格を漂わせる若きリーダー、アケト・ミナモトに注がれる。
「まず、我らが自治領の名称についてだ」
アケトは、皆の顔を改めて見渡した。
「我々は、フレッド男爵の圧政を退け、コライス子爵の大軍をも打ち破った。
そして、多くの村々が我々の下に集い、新たな秩序が生まれつつある。
これは、単なる自治領という枠を超え、一つの国家としての始まりを意味する。
そこで、この地の守り神であり、我々を導いてくださる日ノ本神社の神様の力にあやかり、今日この日より、我らが国の名を『日の本国』と改める!」
「日の本国…!」
その神聖な響きに、皆、息を呑んだ。
「そして、その領都は引き続き、このカマクラとする。
だが、旧フレッド男爵の領都であった『フレッド』の名は、圧政の記憶を呼び起こし、我々の新しい国にはふさわしくない。
よって、かの地が古くから『清泉の湧く美しい場所』として知られていたこと、そして『新たな始まり』を願う気持ちを込めて、新たに『イズ』と改名する!」
「日の本国…領都カマクラ、そしてイズか…素晴らしい!」
ダンテが、感慨深げに頷く。
他の者たちも、新たな国名と都市名に、新しい時代の到来を実感し、表情を引き締めていた。
イズは内陸の交通の要衝に位置する重要な町である。
「次に、国土の基盤となる道路網の整備だ」
アケトは、卓上に広げられた広大な地図を指し示した。
「現在、カマクラとドリマを結ぶ街道、そしてイルーガ村への棒道は、皆の尽力により飛躍的に改善された。
今後は、オダワラ城塞を起点とし、領都カマクラ、イズ、ドリマ、イルーガ、ザンバ、スラカン、そして我がミナモト豪族の重要な港湾都市であるキンテロを含む、全ての町村を高品質なダンテ石で整備した道で繋ぐ!
これにより、物流を活性化させ、文化交流を促し、そして何よりも有事の際には迅速な軍事行動を可能とする、強固な国家の動脈を築き上げるのだ!」
「おお!それは壮大な計画ですな!」
「ルカオン兄様の出番がまた増えますね!」
ルカオンは
「おうよ!日の本国中の道を、俺様がピカピカにしてやるぜ!」
と胸を叩き、土木技術者たちの顔にも熱がこもる。
キンテロのモビックやギルド長バルドも、その計画の壮大さと、完成した暁にもたらされるであろう経済効果に目を見張った。
キンテロは既にミナモト豪族の支配を受け入れ、その統治下にあるため、この街道網の整備は彼らにとっても死活問題である。
「そして、国家の最も重要な礎、食料政策についてだ」
アケトは、アオイと、そして会議に同席していたステフィに視線を送った。
「アオイとステフィの尽力、そして先の鑑定の儀で『促成栽培』や『豊穣』といった類まれなスキルを持った子供たちが新たに見出されたことは、皆も知っている通りだ。
この貴重な才能を最大限に活かすため、彼らを3つの農業指導チームに分け、それぞれイルーガ村、ザンバ村、スラカン村へ派遣する。
各村の気候や土壌の特性を調査し、何をメインに栽培し、どのように国内で食料を融通し合えるようにするか、その全体計画の策定と指導は、引き続きアオイに一任する」
アオイは、その重責に静かに頷いた。
「はい、アケトさん。お任せください。
例えば、ザンバ村周辺は比較的湿地が多いと聞いています。
私の知識を活かし、稲の栽培を試みるなど、各村の特性に合わせた最適な農業計画を立て、日の本国全体が食で困ることのないよう、全力を尽くしますわ」
ステフィも力強く応える。
「私も、イルーガ村で培った牧草栽培の経験を活かし、他の村でも家畜飼育の基盤作りに貢献いたします!いずれは、日の本国が誇る美味しいお肉や乳製品を、皆の食卓へ!」
その言葉に、ザイルをはじめとする新しい村々の代表者たちの顔が、ぱあっと明るくなった。
最後に、アケトは表情を引き締め、最も長期的な構想を語り始めた。
「そして、これは何年かかるか、あるいは何十年かかるか分からない壮大な計画となるが、我が日の本国の恒久的な平和と安全を確立するため、旧フレッド領都であり、新たな名を冠したイズを起点とした、国土全体を覆う『総構え』を築き上げる。
それは、幾重にも巡らされた城壁と堀、戦略的に配置された多数の砦と監視塔、そしてそれらを結ぶ軍用道路網からなる、鉄壁の防衛ラインだ。
完成した暁には、いかなる外敵の侵入をも完全に許さない、難攻不落の理想郷となるだろう」
そのあまりにも壮大で、途方もない構想に、社務所内は水を打ったように静まり返った。
皆、アケトの言葉の意味を理解しようと、息を殺して彼を見つめている。
「…総構え…」
ダンテが、かすれた声で呟いた。
「それは、まさに国全体を一つの巨大な城塞となすというのか…」
「はい」
アケトは、確信に満ちた目で頷いた。
「困難な道であることは承知しています。
だが、我々にはそれを成し遂げるだけの力と知恵、そして何よりも、平和な未来を希求する強い意志がある。
この日の本国を、永遠に外敵の脅威から守り抜くために、この計画を、我々の代で、必ずや…!」
アケトの言葉は、そこにいる全ての者の胸に、大きな衝撃と共に、しかしそれ以上に強烈な希望と決意を刻み込んだ。
11歳となった若き豪族、アケト・ミナモトの下、日の本国は、まさにその名の通り、新しい時代の太陽が昇り始めるかのような、力強い一歩を踏み出したのだった。
こうして、新年会後の重要な会議は終わりを告げた。社務所は、外の厳しい寒さを忘れさせるほどの、熱い情熱と未来への誓いで満たされていた。
◇
新しい年の始まりを告げる重要な会議が終わり、社務所にはアケトとアオイの二人だけが残っていた。
先程までの熱気と喧騒が嘘のように、しんとした静寂が部屋を包む。
窓の外では雪が音もなく降り続き、囲炉裏の薪がぱちぱちと優しい音を立てて燃え、暖かな光が二人の若い顔を照らしていた。
アケトが宣言した「日の本国」という新たな国の名、そして壮大な未来への構想。
その余韻が、まだ部屋の空気にはっきりと残っている。
アケトは、卓上に広げられたままの羊皮紙に描かれた新しい国の地図を、じっと見つめていた。
その小さな肩には、既に彼の年齢にはあまりにも重い責任がのしかかっている。
ふと、彼は深い息を吐き出し、ぽつりと呟いた。
「…日の本国、領都カマクラ、そしてイズの街…。壮大な計画を口にしてしまったが、本当に俺に、皆を導いていけるのだろうか。
まるで、大きな船の舵を、たった一人で握っているような気分だ…」
その声には、日頃の冷静沈着な彼からは想像もつかないような、微かな不安と孤独の色が滲んでいた。
アオイは、そんなアケトの横顔を、慈しむような優しい眼差しで見つめていた。
そして、そっと彼の腕に触れ、柔らかな、しかし芯のある声で語りかけた。
「アケトさん…。あなたは一人ではございませんわ。
ダンテ様も、ルカオン様も、そして村の皆が、いえ、この日の本国の民となった全ての人々が、アケトさんを信じ、支えています。
あなたの言葉には、いつも私たちを未来へと導く確かな光があります。
だから、どうぞ胸を張ってください。私にとっても、『日の本国』という響きは、とても温かく、希望に満ちたものに感じられましたもの」
アオイの言葉は、まるで清らかな泉の水のように、アケトの心に染み渡っていく。
彼女の揺るぎない信頼が、彼の肩にかかる重圧を和らげ、進むべき道を照らしてくれるようだった。
このかけがえのない仲間の存在が、彼に再び前を向く力を与えてくれる。
(…蒼依がいる。そして、皆がいる。一人ではないのだ)
アケトは、胸の奥から込み上げてくる熱い想いを感じ、静かに頷いた。
まさにその時、社務所の扉が勢いよく開き、ルカオンが少し息を切らせながら、しかし満面の笑みで立っていた。
その大きな手には、はにかみながらも幸せそうな表情を浮かべたエレナの手が、しっかりと握られている。
「よう、アケト!アオイちゃん!ちっとばかし、報告があってな!」
ルカオンの声は、いつもの豪快さに加え、どこか弾んでいるようだ。
「ルカオン兄さん?エレナさんも、どうしたんですか、そんなに嬉しそうに」
アケトが穏やかに問いかけると、ルカオンはエレナと一度視線を交わし、少し照れくさそうに頭を掻きながら、しかしきっぱりとした口調で言った。
「ああ、実はな…俺も、もう14歳だ。いい加減、落ち着こうと思ってよ。…エレナと、一緒になることに決めたんだ。夫婦になるってことだ」
その言葉に、エレナは顔を真っ赤にして俯いたが、その指はルカオンの指を強く握り返している。
「まあ!」
アオイが、驚きと喜びに満ちた声を上げた。
「ルカオン様、エレナさん!本当におめでとうございます!なんて素敵なことでしょう!」
「ルカオン兄さん、エレナさん、心からお祝い申し上げる!」
アケトもまた、兄のように慕うルカオンと、心優しいエレナの幸せを、満面の笑みで祝福した。
二人の門出は、この新しい国にとっても、大きな喜びだった。
「へへっ、サンキューな!お前らに一番に報告したかったんだ」
ルカオンが、照れながらも嬉しそうに言う。
その祝福の言葉が飛び交う中、社務所の入り口に、さらにもう一組の男女が、少し遠慮がちに立っているのにアケトは気づいた。
ブレディと、彼にそっと寄り添うステフィだった。
「ブレディ?ステフィさんも、どうしたんだ?」
ブレディは、ルカオンたちの幸せそうな姿を見て少し躊躇ためらっていたようだが、意を決したように一歩前に出ると、普段のクールな表情をわずかに緩ませ、言った。
「…忙しいところすまない。だが、俺たちからも報告がある。
俺も…ステフィと、生涯を共にすることを誓い合った」
その言葉と共に、ブレディは隣に立つステフィの手を優しく握った。
ステフィは、頬をバラ色に染めながらも、幸せを隠しきれないといった表情でブレディを見上げ、そして小さく頷いた。
「「ええええーーーっ!?」」
今度は、アケトとアオイだけでなく、ルカオンとエレナも驚きの声を上げる。
「ブレディまで!ステフィさんも、本当におめでとう!」
「なんておめでたい日なんだ!今日は改めてお祝いだな!」
「まさか、二組も同時に吉報が聞けるなんて!」
社務所の中は、二重の喜びに沸き立ち、祝福の言葉と温かい笑顔で、一気に華やかなお祝いムードに包まれた。
アケトは、二組の幸せそうなカップルを交互に見つめながら、大切な仲間たちが掴んだ幸せへの大きな喜びと、心からの祝福の気持ちで胸を満たしていく。
(ステフィが農業指導チームの一員としてイルーガ村へ向かうなら、その護衛はブレディに任せるのが適任だろう。
互いを想い合う彼らならば、任務への士気も高く、何より互いが心の支えとなるはずだ。
新しい土地での困難も、二人でなら乗り越えていけるに違いない)
アケトは、リーダーとして、そして友人として、彼らの未来に幸多かれと心から願った。
こうして、新しい年の始まりは、二組の若きカップルの誕生という、この上なく喜ばしい出来事によって彩られた。
「日の本国」の未来は、彼らのように強く結ばれた絆と、そこから生まれるであろう新しい命によって、さらに明るく、そして温かく照らされていくことを、そこにいた誰もが確信していた。
囲炉裏の炎が、まるでその輝かしい未来を祝福するかのように、ひときわ力強く、そして暖かく燃え上がっていた。
ご一読いただきありがとうございます!
この世界では結婚が早い前提となっています(昔の日本の初冠や裳着がある頃のイメージです)。
最近読んでくださる方が増えてきて、とても嬉しいです。
もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。
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