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第二次ルアン(カマクラ)攻防戦① 〜開戦〜

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!

春も終わりを告げようとしていた頃。


フレッド男爵領の東端、コライス子爵の居城とその周辺には、かつてない規模の大軍勢が集結しつつあった。


領都カマクラを、そしてミナモト豪族を名乗る若き指導者アケトを蹂躙せんと、ついにフレッド・コライス連合軍が出陣の刻を迎えたのだ。


その威容は、まさに圧巻の一言だった。


先頭を行くのは、コライス子爵が誇る直属の精鋭騎士団と、重装備に身を固めた魔法使い部隊、総勢200名。


彼らの掲げるコライス家の紋章である「金の獅子」の旗印が、春の終わりの風に勇ましくはためいている。


中軍を征くのは、コライス子爵配下の有力諸侯、勇猛さで知られるグライフホルン男爵家の屈強な重装歩兵団150名と、鉱山経営で財を成し、その富で雇い入れた熟練の弓兵を多数抱えるアイゼンフェルス男爵家の弓兵部隊100名。


そして、子爵家に忠誠を誓う十の騎士爵家から派遣された、剣槍弓馬を巧みに操る混成兵150名が脇を固める。これだけでも500名に迫る大戦力だ。


そして、その後方に続くのが、先の敗戦から無理やり再編されたフレッド男爵自身の兵、約70名。


その数は少ないが、彼らの顔には雪辱と復讐の色が濃く浮かんでいる。


総勢600名近い大軍勢。


その中には、コライス子爵が各地から呼び寄せた、あるいはフレッド男爵が金で雇った戦闘経験豊富な魔法使いも20名ほど含まれており、その魔力の奔流は遠目にも不気味なオーラを放っていた。


フレッド男爵と、生き残った三人の子供たち――クジュ、カッス、インバ――は、コライス子爵から与えられた比較的立派な馬車に揺られながら、複雑な表情で進軍する自軍(というよりコライス軍)を眺めていた。


「ふふん、今度こそあの忌々しいカマクラとかいう生意気な村を、根絶やしにしてくれるわ!」


フレッド男爵は、コライス子爵の大軍を目の当たりにし、すっかり以前の自信を取り戻したかのように息巻いている。


「アケト・ミナモトなどという小僧、コライス閣下と我が軍の前にひれ伏させてくれる!」


「父上、今度こそ私の剣であの黒髪の小娘アオイを…そして、生意気なアケトとかいう小僧の首を刎ねてご覧にいれますぞ!」


クジュが、顔の傷跡をさすりながら憎々しげに言う。


「そうだ!ゴミュ兄様の仇は必ず討つ!あいつらを生きたまま捕らえて、ゆっくりと苦しめてやるんだ!」


カッスも、震える声に怒りを滲ませる。


「わ、私だって…!あの屈辱は絶対に忘れないんだから!アオイの醜い顔を、ズタズタにしてやるわ!」


インバは、まだあの時の恐怖が残っているのか、少し顔を引きつらせながらも虚勢を張った。


彼らの会話は、復讐心と、強大なコライス軍への依存心、そしてどこか現実から目を背けたような軽薄さに満ちていた。


一方、連合軍の中核を成すコライス子爵と、彼に付き従うグライフホルン男爵、アイゼンフェルス男爵たちは、馬上、余裕綽々といった様子で言葉を交わしていた。


「ふん、農民上がりの小僧が豪族を名乗り、あまつさえあのフレッドを退けていたとはな。多少の知恵と、まぐれ当たりが重なっただけだろう」


コライス子爵は、眼下の進軍を見下ろしながら、アケト・ミナモトを鼻で笑った。


「閣下の仰る通り。

所詮は烏合の衆。我がグライフホルン家の重装歩兵団が、あの生意気なカマクラの城壁とやらを踏み潰してご覧にいれましょうぞ。

赤子の手をひねるようなものです」


グライフホルン男爵が、自慢の胸筋を反らせて豪語する。


アイゼンフェルス男爵も、優雅に扇子を使いながら同調した。


「我が弓兵隊の正確無比な矢の雨で、城壁の上に立つ鼠一匹たりとも生かしてはおきませぬわ。

ましてや、魔法使いなどという小賢しい輩は、真っ先に射落として差し上げましょう。

一捻りで終わりですわな」


彼らは、カマクラ(ルアン村)の真の実力を全く理解しておらず、ただただ自らの武力を過信し、楽な戦を予想して高笑いを続けていた。


コライス子爵が、内心でフレッド男爵とその子供たちを駒として使い潰し、その後ルアン村とドリマ村を手中に収める算段を着々と進めていることなど、彼らは知る由もなかった。


数日間の行軍の後、フレッド・コライス連合軍は、ついに港町キンテロの近郊にその巨大な陣を張った。


キンテロの街を見下ろす小高い丘陵地帯に、無数の天幕が張られ、夜には数えきれないほどのかがり火が不気味に揺らめく。


その威容は、キンテロの町民たちに大きな圧力を与えるには十分だった。


彼らは、キンテロを補給拠点とし、ここから一気にカマクラ、そしてドリマ村へと侵攻する構えを見せていた。


その敵大軍の動きを、いち早く察知した者がいた。


自治領カマクラの「黒備え」に所属する、若き「くノ一」キャシーである。


アケトの特命を受け、彼女は風のように身軽な『影渡り』のスキルと、風魔法を応用した気配遮断術を駆使し、単身、敵陣深くへと潜入していたのだ。


夜の闇に紛れ、木々を飛び移り、時には獣のように地面を這い、キャシーは驚くべき速さと隠密性で敵陣の規模、兵士たちの士気(多くは戦勝気分で油断しきっている)、そしてコライス子爵やフレッド男爵といった指揮官クラスの天幕の位置までをも正確に把握していった。


彼女の持つ『千里風眼』のスキルは、暗闇の中でも遠くの物体の輪郭や、微かな人の動きすら捉えることを可能にしていた。


(…総勢およそ600、魔法使いは20名ほど。フレッドの兵は後方で、コライス子爵の直属兵と、グライフホルン、アイゼンフェルスの兵が主力…

陣の配置はキンテロへの威圧と、カマクラ方面への進軍を意識している。

だが、見張りの数は多いものの、どこか緩慢だ…これは、好機かもしれない…!)


必要な情報を全て頭に叩き込むと、キャシーは再び影に溶け込むように敵陣を離脱した。


その動きは、まさに風のようであり、誰一人として彼女の存在に気づく者はいなかった。


彼女は、最短ルートを駆け抜け、街道分岐点に築かれたオダワラ城塞へと、一刻も早くこの重大な情報を届けるべく、その小さな体を疾風のように走らせるのであった。



オダワラ城塞の作戦司令室。


キャシーからもたらされたフレッド・コライス連合軍の詳細な布陣と、彼らが油断しきってキンテロ近郊に長大な陣を敷いているという報告に、アケト・ミナモトは静かに、しかし鋭く光る瞳で頷いた。


「…やはり、奴らはキンテロを最初に落とそうとしている。

そして、我々の力を完全に見誤っているようだ。これは、絶好の機会だ」


アケトは、卓上の地図に駒を配置するように指を動かしながら、集まった主要メンバーに告げた。


その顔には、10歳とは思えぬほどの自信と、冷徹なまでの戦略家の顔が浮かんでいる。


「今宵、我々は敵陣に奇襲をかける。目的は、敵の混乱と戦力削ぎ、そして何よりも奴らの士気を徹底的に叩き潰すこと。一撃離脱を旨とし、深追いはしない」


ダンテが、息子の言葉に力強く頷く。


「うむ、夜襲は効果的だろう。だが、敵は大軍だ。誰を行かせる?」


「私とアオイ、ルカオン兄さん、ジャン、ブレディ、ライカ、そしてキャシー。

これに朱備えからバルトス、エルミ、ライラを加えた精鋭10名で決行します」


選ばれた若者たちの顔が、緊張と武者震いで引き締まる。


出陣準備は迅速に進められた。


選ばれた10名は、目立たぬよう、黒い色の軽装鎧に身を包み、それぞれの得物を手に、城塞の中庭に集結した。アケトは、彼らの前に立ち、静かに告げた。


「これより我が『軍神の采配』を発動する。

皆の力が高まるのを感じるはずだ。集中し、己の限界を超えろ!」


アケトの言葉と共に、彼の体から淡い金のオーラが放たれ、それが波紋のように10名の仲間たちへと広がっていく。


瞬間、彼らは全身に力がみなぎり、五感が鋭敏になり、思考がクリアになるのを感じた。


侍大将のスキルが、全ての兵士の能力を底上げしたのだ。


「すごい…身体が軽い…!これなら、どんな敵だって!」


ジャンが、興奮したように自分の拳を握りしめる。


「アケト様…これが…」


ライカも、己の変化に驚きを隠せない。


「時間がない。行くぞ!」


アケトの号令一下、10名は音もなく城塞を出ると、用意されていた駿馬に飛び乗った。


夜の闇に溶け込むように、彼らは敵陣へと疾走する。


敵陣の数キロ手前で馬を降り、そこからはキャシーを先導に、宵闇に紛れて、息を殺して徒歩で進軍した。


フレッド・コライス連合軍の陣営は、広大な平原に無数の天幕を連ね、かがり火が点々と灯ってはいるものの、その多くは既に消えかかり、見張りの兵士たちも寒さと油断からうたた寝をしている者が大半だった。


彼らは、数日後のキンテロ総攻撃を前に、勝利を確信して弛緩しきっていた。


「…よし、ここまでだ」


アケトが、小声で指示を出す。


「キャシー、敵の指揮官クラスの天幕と、物資集積所の位置は?」


「はい、アケト様。こちらの森を抜けた先、中央やや右手に大きな天幕が複数。

おそらく将官クラスかと。物資は、そのさらに奥、馬車が多数集まっている辺りです」


キャシーが、囁くように報告する。


「了解した。皆、作戦通りに。いよいよ開戦だ! ルカオン兄さん!」


「おう!」


ルカオンは音もなく地面に両手を触れると、魔力を練り上げた。


彼の得意とする土魔法だ。


しかし、今回は派手な『大地創成』ではない。


敵陣のいくつかの主要な通路と思われる箇所や、退路となりそうな場所に、静かに、しかし確実に、高さ2メートルほどの分厚い土の盾を、まるで最初からそこにあったかのように複数出現させたのだ。


それは、敵の連携を分断し、混乱を助長するための巧妙な仕掛けだった。


そして、アケトの合図と共に、奇襲が開始された!


「清き水の流れよ、迷える魂を洗い流せ!『アクアミスト・カスケード』!」


アオイが両手を広げると、彼女を中心に濃密な水の霧が一気に広がり、敵陣の一部を覆い尽くした。


それは視界を奪うだけでなく、敵兵の衣服や鎧をじっとりと濡らし、不快感と混乱を与える。


「な、なんだ!?この霧は!?」


「敵襲か!?どこからだ!?」


兵士たちが狼狽し始めた、まさにその瞬間!


「天よ轟け!雷よ裁け!『迅雷招致』!」


アケトが右手を天に突き上げると、夜空を裂いて数条の雷が落ち、アオイの霧で濡れた敵兵たちに正確に降り注いだ!


「ギャアアアアアアア!!!」


「ぐわああああああっ!」


激しい放電と共に、多数の兵士が黒焦げになって感電死し、残った者も痺れて地面を転げ回る。


水の霧と雷の連携、それは恐るべき相乗効果を生み出していた。


「今よ、伊奈帆!」


アオイが叫ぶと、彼女の影から純白の毛並みを持つ三尾の妖狐が飛び出し、敵陣へと突進!『白狐召喚』である。


伊奈帆は、その口から灼熱の火球を連続して放ち、天幕や食料に次々と引火させ、さらなる混乱と恐怖をまき散らす。


「続け!ジャン!」


「おうよ!見せてやるぜ、俺の最強スキル!喰らえ!『爆裂鳳凰弓・乱れ撃ち』!!」


ジャンは弓を引き絞り、一度に五本の矢を番えると、それらが紅蓮の炎を纏った鳳凰の幻影となって敵陣へと降り注いだ!


矢はそれぞれ異なる軌道を描きながら、敵兵の密集地帯や、指揮官らしき者が集まる天幕へと正確に突き刺さり、大爆発を引き起こす!


「うわああ!火の鳥だ!」


「天幕が燃える!助けてくれ!」


「風よ、我が刃となれ!『テンペストエッジ』!」


ライカは疾風のように敵兵の間を駆け抜け、その剣から放たれる無数の風の刃が、鎧ごと敵兵を切り裂いていく。

「遅れるな!ルカオン兄さん!」


「言われなくてもわかってるぜ!『アースニードル・ストーム』!」


ルカオンが地面を叩くと、無数の鋭い土の棘が、まるで嵐のように広範囲に出現し、逃げ惑う敵兵の足を貫き、あるいは下から突き上げて串刺しにする!


ブレディもまた、『魔刃解放』で全身から炎のオーラを立ち昇らせ、燃え盛る剣でオークの群れを薙ぎ払った時のように、恐慌状態の敵兵を次々と斬り伏せていく。


「雑魚が!まとめてかかってこい!」


バルトスは手槍を投擲し、エルミは長剣で、ライラは正確な弓で、それぞれ魔法攻撃を避けながら反撃しようとする敵兵を的確に仕留めていった。


瞬く間に、敵陣は地獄絵図と化した。油断しきっていたフレッド・コライス連合軍の兵士たちは、この統制された容赦ない奇襲攻撃の前に、なすすべもなく次々と命を落としていく。その数、わずか数分の間に50人以上。


「おのれ!何やつだ!」


「どこから攻撃してきている!?」


「指揮官はどこだ!指示をくれ!」


大混乱の中、十騎士家に連なる騎士たちが、必死に兵をまとめようとするが、彼ら自身もこの奇襲の格好の的となった。


一人の騎士が部下を鼓舞しようと馬上で叫んでいたところ、アケトの放った不可視の雷撃『雷轟一閃らいごういっせん』がその鎧を貫き、黒焦げにして落馬させた。


別の騎士は、アオイの召喚した白狐の不意打ちの火球を顔面に受け、絶叫と共に燃え上がり、最後の騎士は、ジャンの『爆裂鳳凰弓』の直撃を受け、天幕ごと吹き飛んだ。


彼らは皆、あまりの出来事にパニックを起こす間もなく、あるいは恐怖に顔を引きつらせる暇もなく、一瞬にして命を奪われたのだ。


有力な騎士3名がこうもあっさり討ち取られたことは、残った兵士たちの戦意を完全に打ち砕いた。


「よし、潮時だ!全軍、撤退!」


敵陣が完全に麻痺し、指揮系統も崩壊したのを確認すると、アケトは冷静に撤退を指示した。


10名の精鋭たちは、深追いすることなく、まるで風のように戦場を離脱し、宵闇へと姿を消した。


後に残されたのは、燃え盛る天幕、おびただしい数の死傷者、そして恐怖に慄く生存者たちだけだった。


夜明け後、ルカオンが奇襲の最初に作り上げた土の盾の一つには、一枚の羊皮紙が短剣で突き立てられていた。そこには、力強い筆跡でこう書かれていた。


「愚かなる者どもよ、これは始まりに過ぎぬ。次はお前たち全員の番だ。ミナモト アケト」


その挑発的な手紙は、フレッド・コライス連合軍の兵士たちに、計り知れない怒りと共に恐怖を植え付けることになるだろう。


ご一読いただきありがとうございます!

思った以上に読んでくださる方がいて、とても嬉しいです。

もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

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