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第一次ルアン攻防戦②

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!

ドリマ村へ向かわせたジャックたち三人がいつまで経っても戻ってこないことに、フレッド男爵は苛立ちを募らせていた。


「あの愚図どもめ!たかが農民の徴発に、どれだけ手間取っておるのだ!

見つけ次第、鞭打ちにしてくれるわ!」


不機嫌極まりない男爵を乗せた馬車は、それでもルアン村へと進軍を続ける。


しばらく進むと、フレッド男爵は奇妙なことに気づいた。


これまでガタガタだった道が、途中から急に平坦で歩きやすくなっているのだ。まるで貴族の領地内の主要街道のように、幅も広く、固く締められている。


「おい、バタン。この道の良さはどうしたことだ?まるで王都へ続く街道のようではないか」


男爵が、傍らに控える腹心の騎士バタンに声をかける。


「はっ。確かに、閣下。これほど見事に整備された道が、このような辺鄙な地に存在するとは…解せませぬな」


バタンも首を傾げるばかりだ。


更に半刻ほど進んだであろうか。前方の小高い丘の向こうに、突如として巨大な建造物が見えてきた。


「な…なんだ、あれは…?」


フレッド男爵は、思わず馬車の窓から身を乗り出した。


バタンも、息を呑んでその光景を見つめる。


遠目にも分かる。


それは、紛れもなく城壁だった。


石と太い木材で築かれ、監視塔がいくつも聳え立つ、堂々たる威容を誇る城塞。


しかも、その規模と堅牢さは、フレッド男爵自身の居城よりも明らかに立派に見えた。


「ば、馬鹿な…!?あのルアン村が、あのような城に…!?いつの間に…」


男爵の声は震えていた。


バタンもまた、目の前の光景が信じられないといった表情で立ち尽くしている。


随行していたキンテロの若者マビックも、その威容に驚愕を隠せない。


(これは…父上の想像を遥かに超えている。キンテロは、断じてこの者たちと敵対してはならない…!)


マビックは、この情報を一刻も早く父モビックに伝えねばならないと強く感じた。


時刻は既に夕暮れに差し掛かっていた。


フレッド男爵は、動揺を隠しきれないまま、ルアン村の手前で一旦陣を張るよう命じた。


急遽、天幕の中で作戦会議が開かれる。集まったのは、フレッド男爵、騎士バタン、そして息を巻くクジュ、ゴミュ、カッス、インバの四兄妹だ。


「バタン!あれは何だ!?あの忌々しいルアン村が、あのような城塞になっているなど、報告には一切なかったぞ!」


フレッド男爵が、不安と怒りをない交ぜにした声でバタンを詰る。


「は、はあ…まことに恐縮ながら、おそらくは、見かけ倒しのハリボテかと存じます。

農民どもが、我々を威嚇するために、急ごしらえで木の板か何かを立てかけただけのものかと…」


バタンは、冷や汗をかきながら、苦し紛れの推測を口にした。


「左様です、父上!」


クジュが、したり顔で割り込む。


「あんなもの、我らフレッド四天王(と勝手に名乗っている)にかかれば、一撃でございます!明日の朝には、あの黒髪の小娘アオイを引きずり出し、父上の御前に跪かせてご覧にいれましょう!」


「そうだ!きっと中身はスッカスカで、ちょっと突けばすぐに崩れるに決まってる!」


ゴミュが甲高い声で追従する。


カッスとインバも、


「農民風情が、小賢しい真似を…!」


「明日の今頃は、あの村を焼き払って笑ってやりましょう!」


と、口々に威勢のいい言葉を並べ立てる。


「う、うむ…」


フレッド男爵は、子供たちの言葉とバタンの苦しい言い訳に、半ば無理やり納得しようとした。


「そうか、そうに違いない!農民風情が、姑息なハリボテで我らを欺こうとは片腹痛いわ!

よし、明日の夜明けと共に総攻撃をかける!

あの忌々しい村と小娘どもに、フレッド家の恐ろしさを骨の髄まで教えてくれるわ!」


彼らは、目の前の現実から目を逸らし、自分たちに都合の良い結論に飛びついたのだった。


その夜、フレッド男爵軍の陣営が寝静まった頃、マビックは信頼できる部下の一人を密かに呼び出した。


「お前は、今すぐにキンテロへ戻れ。そして、父上にこう伝えるのだ。

『ルアン村の力は、我々の想像を遥かに超えています。決して逆らうべきではありません。むしろ、ルアンの味方となるべきです』と。頼んだぞ」


マビックの真剣な眼差しに、部下は黙って頷き、闇に紛れて陣を抜け出した。


ルアン村の堅固な城壁は、宵闇の中に黒々としたシルエットとなって浮かび上がり、その麓ではフレッド男爵軍の焚火が、まるで威嚇するように無数に揺らめいていた。


静寂が戦場を包み込む。


いよいよ、決戦の夜が明けようとしていた。



東の空が白み始め、濃い朝靄がルアン村一帯を包み込んでいた。


夜明け前の冷気と、戦いを前にした静かな緊張感が、堅固な城壁の内にも外にも満ちている。


城壁の上では、シュートやアオイ、ダンテをはじめとする村の戦士たちが、息を殺して南の街道を見据えていた。


フレッド男爵軍の焚火の赤い点が、靄の向こうに無数に揺らめき、夜明けと共に動き出すであろうその時を、固唾を飲んで待っていた。


やがて、朝靄がゆっくりと薄れ始めると共に、地鳴りのような進軍の音が微かに聞こえ始めた。


それは徐々に大きくなり、フレッド男爵軍の黒い塊が、朝日にシルエットとなって浮かび上がる。


彼らの頭には、昨夜の作戦会議で無理やり導き出した「どうせハリボテの城壁だろう」という傲慢な結論が、まだこびりついていた。


ついに、ルアン村の堅牢な門の前に到着したフレッド男爵軍。


先頭に立った騎士バタンが、馬上で槍を高々と掲げ、まるで舞台役者のように芝居がかった、しかし威圧的な声で叫んだ。


「門を開けよ!フレッド男爵様のご命令である!

速やかに城門を開き、首謀者とあの黒髪の小娘アオイを引き渡すがよい!

さすれば、他の者の命までは取らぬとのお言葉だ!

逆らうならば、女子供に至るまで撫で斬りにするぞ!」


その声は朝の静寂を破り、城壁に反響して虚しく消えた。


静寂を破ったのは、門の上の櫓やぐらに立つダンテの、落ち着いた、しかし鋼のような意志を宿した声だった。

「フレッド男爵閣下、そして騎士バタン殿。

ここは、貴殿らが支配する土地ではない。

我らルアンの民が、自らの手で未来を切り開くと決めた『自治領ルアン』である!

貴殿らに門を開ける理由も、道理も、ここには存在しない!」


ダンテの宣言は、城壁の内外に響き渡り、村人たちの士気を高めた。


「な、何を言っているのだ、あの農民風情が!」


馬車の中から、フレッド男爵の甲高い、怒りに震える声が響き渡った。


その声は、もはや冷静さを欠き、ただただ癇癪かんしゃくを起こしている子供のようだった。


「自治領だと!?笑わせるな!

このフレッド・フォン・バルツァーの領地で、そのような戯言が許されると思うてか!

今すぐあの黒髪の小娘、アオイの首を差し出せ!

さもなくば、この村を血の海にしてくれるわ!」


「父上の御前である!その無礼、死をもって償わせてくれるわ!」


男爵の怒声に呼応するように、クジュが馬を前に進め、忌々しげに城壁上のアオイを睨みつけると、その手に風の魔力を集中させた。


「生意気な小娘め!まずは貴様からだ!『ウィンドカッター』!」


鋭い風の刃が、唸りを上げてアオイめがけて飛来する!


「させませんわ!」


アオイは冷静に状況を判断し、即座に水の障壁『アクアウォール』を展開!


風の刃は分厚い水の壁に阻まれ、霧散した。アオイの隣では、ライカが風の魔力を全身に纏い、いつでも彼女を護れるよう鋭い目で敵陣を睨んでいる。


「ちぃっ!防ぎおったか!」


クジュが悔しげに顔を歪める。


「ならばこれはどうだ!兄上の援護だ!」


続いてゴミュが、両手にバスケットボールほどの大きさの炎球『ファイアボール』を生成し、アオイの『アクアウォール』が消えぬうちに、その側面を狙って投げつけた!


「同じこと!」


アオイは即座に新たな『アクアウォール』を斜めに展開し、ファイアボールを巧みに受け流す。


炎と水が激しく衝突し、爆ぜるような水蒸気が一瞬視界を遮った。


「なっ…!俺の炎が、こうも容易く…!?」


ゴミュが驚愕の声を上げる。


「小賢しい真似を!」


カッスとインバも口々に罵声を浴びせるが、彼らの貧弱な魔法では、この距離では脅威にすらならない。


「魔法だけでは埒が明かんな!弓隊、前へ!あの城壁の上の者どもを射落とせ!」


バタンが号令を発すると、フレッド男爵軍の弓兵たちが一斉に矢を番え、城壁へ向けて矢の雨を降らせ始めた。ヒュンヒュンと風を切る音が連続し、何本もの矢が城壁や櫓に突き刺さる。


「弓隊、応射!放てーっ!」


ルアン村の弓兵隊長も即座に応戦を指示。


城壁の上から、訓練された村の弓兵たちが、正確な狙いで矢を放つ。


敵よりも高い位置から射下ろすため、その威力はフレッド軍のそれを上回っていた。


激しい矢の応酬が始まる。


空には無数の矢が交差し、盾に当たる乾いた音、肉を穿つ鈍い音、そして兵士たちの短い悲鳴が響き渡る。


「ぐあっ!」


フレッド軍の兵士の一人が、喉に矢を受け、そのまま馬から崩れ落ちた。


「た、助け…!」


別の兵士も、胸に矢を受け、苦悶の表情で地面に倒れ伏す。


瞬く間に、フレッド男爵軍の弓兵二人が命を落とした。


「きゃああっ!」


その時、城壁の上で、後方から矢を前線に運んでいたエレナの肩に、敵の放った流れ矢が深々と突き刺さった!


「エレナ!」


苦痛に顔を歪め、その場にうずくまるエレナに、近くにいたシャナイアが即座に駆け寄る。


彼女の手には、淡い青色の光を放つ霊水が入った小瓶が握られていた。『


神癒の霊薬生成』スキルで作られた特別な水薬だ。


「大丈夫、エレナさん!すぐに治します!」


シャナイアは素早く傷口を清めると、霊水を振りかけ、さらに治癒の魔法を集中させる。


すると、みるみるうちに矢傷が塞がり、出血が止まっていく。


他の数名の村人も、矢が掠めるなどして軽傷を負っていたが、シャナイアはその『聖泉の守護』のスキルも使い、淡い水のヴェールで仲間たちを包み込みながら、的確に治療を施していく。


「あ…シャナイア様…もう、痛くありま…せん…」


エレナは、信じられないといった表情で自分の肩を見つめる

「シャナイア様は、やはり女神様だ…!我らをお守りくださる…!」


周囲でその光景を見ていた他の村人たちから、感謝と畏敬の念のこもった声が上がる。


シャナイアは、


「まだ油断はできません、しっかり!」


と気丈に声をかけ、再び戦場へと意識を戻した。


「ええい、弓だけでは埒があかん!

歩兵、前へ!

堀を渡り、城壁に取り付け!

あの忌々しい農民どもを一人残らず串刺しにしてやれ!」


フレッド男爵がヒステリックに叫び、総攻撃の号令を発した。


「「「うおおおおおーーーっ!!!」」」


男爵軍の兵士たちが、鬨の声を上げて門へと殺到しようとする。だが、彼らの目の前には、深く幅のある堀が横たわっていた。


「な、なんだこの堀は!?」


「渡れないぞ!」


「梯子は!梯子はどうした!?」


兵士たちは混乱し、堀を渡ろうと足を取られ、動きが著しく鈍る。その混乱の中、先頭を進んでいた兵士の一人が、堀の手前に巧妙に隠されていた落とし穴に気づかず、足を踏み外した!


「うわあああっ!」


悲鳴と共に兵士は暗い穴の底へと落ちていき、直後、ゴツリという鈍い音と、肉が貫かれるような嫌な音が響いた。


穴の底には、鋭く尖らせた杭が何本も仕掛けられていたのだ。罠によって、さらに一人が無残な死を遂げた。


「ひ、怯むな!堀に板を渡せ!何としても壁に取り付くのだ!」


バタンが必死に檄を飛ばす。


しかし、堀の中でもがき、混乱する兵士たちは、城壁の上からの絶好の的だった。


「シュート!ライカ!援護をお願い!」


アオイが叫ぶ。


「了解だ!」


シュートは両手を地面につき、堀の中で密集している敵兵の足元から、鋭い岩の槍『アーススパイク』を連続して突き上げさせた。


威力は抑えたつもりだったが、不運にも一人の兵士の腹部を深々と貫き、絶命させてしまう。


「風よ、刃となりて敵を討て!『ウィンドカッター』!」


ライカもまた、城壁の上から鋭い風の刃を放つ。


それは敵兵の盾を切り裂き、体勢を崩させ、そして一人の兵士の首筋を浅く切り裂いた。


その兵士はバランスを崩して堀に落ち、他の兵士に踏みつけられて動かなくなった。


シュートとライカの魔法連携により、さらに二人が戦闘不能、うち一人は結果的に命を落とした。


「ぎゃあああ!足が!俺の足が!」


「魔法だ!あのガキども、強力な魔法を使ってくるぞ!」


「助けてくれー!」


城壁の前は、瞬く間に阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。


わずかな時間の間に、男爵軍は弓で2名、罠で1名、魔法で2名の合計5名が即死し、負傷者は10名を軽く超え、完全に戦意を削がれていた。


「ひ、怯むな!進め!壁に取り付くのだ!」


バタンが必死に檄を飛ばすが、その声も空しく響くだけだった。


彼らは、自分たちがどれほど甘く見ていたかを、骨身に染みて理解し始めていた。


混乱する戦場の中、アオイは冷静に敵陣を見渡し、四兄妹の一人、インバの姿を捉えた。


彼女は、恐怖に顔を引きつらせながら、兄姉の後ろに隠れるようにしておろおろしている。


(あの時の恐怖を、もう一度思い出させてあげるわ…!)


アオイは右手に意識を集中させ、高圧縮した水の弾丸『ウォーターバレット』を生成。


狙いを定め、インバの顔のすぐ横、耳元を掠めるように正確に放った。


シュッ!という鋭い音と共に、ウォーターバレットがインバの頬を濡らし、背後の木の盾に当たって砕け散った。


「ひっ…!いやああああああああああっ!!!」


その瞬間、インバの脳裏に、以前アオイの魔法によって瀕死の重傷を負わされた時の、あの圧倒的な恐怖と痛みが鮮明に蘇った。


あの時の、冷たく無慈悲なアオイの瞳。そして、熱いものが股間から流れ出す感覚と共に、再びみっともなく失禁してしまった。


「化け物!あの女は化け物よおおおおお!助けて!殺されるううううう!」


インバは金切り声を上げ、完全にパニック状態に陥り、武器も何もかも放り出して、味方の兵士を突き飛ばしながら後方へと逃げ出した。


インバの錯乱ぶりは、戦場にいた全ての者に衝撃を与えた。


そして、予想を遥かに超えるルアン村の鉄壁の守りと、味方の甚大な被害を目の当たりにしたフレッド男爵は、ついにその矮小なプライドを打ち砕かれた。


「ひ、退けぇぇぇ!一時撤退じゃあ!全軍、立て直しのため、撤退!撤退じゃあああ!」


顔面蒼白になり、震える声で撤退を命じる男爵。その声は、もはや威厳のかけらもなかった。


マビックは、その無様な姿と、ルアン村の恐るべき強さを冷静に見つめ、父への報告の内容を心の中で固めていた。


統率を失ったフレッド男爵軍は、蜘蛛の子を散らすように敗走を始める。


ルアン村の城壁の上からは、ダンテの


「追撃は無用!だが、決して油断するな!勝利に浮かれるなよ!」


という厳しくも誇らしい声と共に、村人たちの勝利の雄叫びが、春の青空に高らかに響き渡った。

ご一読いただきありがとうございます!

最近読んでくださる方が増えてきて、とても嬉しいです。

もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

今後の励みになりますので、ぜひページ下のいいねボタンで応援してください。

よろしくお願いします(^O^)/

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