ルアン村に神社を建てよう
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春から初夏にかけて、ルアン村は目覚ましい発展を遂げていた。
雪解けと共に始まった東側の畑の開墾は、俺の計画と魔法、そして村人たちの懸命な労働によって瞬く間に終わり、春に植えたイモは豊かな収穫をもたらした。
そして今、その広大な畑には納税用の小麦が青々と育ち、風にそよいでいる。
村の中では、ドリマ村の人々のための新しい家々が次々と完成し、力強い槌音が響いていた日々も落ち着きを取り戻しつつあった。
北と南の防御施設も、二重の堀と銃眼付きの胸壁を備え、もはや以前の貧しい村の面影はない。村全体が、力強い生命力と、未来への確かな希望に満ち溢れていた。
そして、この数ヶ月間、村のもう一つの大きなプロジェクトが、静かに、しかし着実に進められていた。
俺が提案し、ルカオン兄さんが中心となって進めてきた、神殿――いや、俺の心の中では『神社』と呼んでいる――の建立だ。
兄さんのスキル『構造解析』は、俺が描いた稚拙なスケッチから、必要な構造と強度を瞬時に読み解いた。
そして『大地創成』と『石工の秘技』は、まさに神業だった。
兄さんの指示と土魔法によって、神社の土台となる場所の地面は寸分の狂いもなく整地され、運び込まれた巨大なダンテ石は、まるで粘土のように形を変え、組み上げられていった。
村の大工たちも、兄さんの指示とスキル(もはや『匠の技』と呼ぶべきレベルだった)に驚嘆しながら、木材の加工や組み立てを手伝う。
俺も、設計の細部を伝えたり、土魔法で基礎工事を手伝ったりしながら、その過程を見守った。
そして、初夏の爽やかな風が吹き抜けるようになったある日、ルアン村を見下ろす小高い丘の上に、それは完成した。
◇
入り口には、赤みを帯びた硬い木材で作られた、シンプルだが力強い『鳥居』が立っている。
それをくぐり、清められた白い砂利の『参道』を進むと、正面には拝殿となる『お社』があり、その奥に、少しだけ高くなった場所に、神様を祀る最も神聖な場所である『本殿』が鎮座している。
建物は、ダンテ石の堅牢な基礎の上に、村の森から切り出した良質な木材を組み合わせて建てられており、ダンテ石の鈍い輝きと、木の温もりが美しく調和していた。
派手さはない。けれど、周囲の自然と溶け合うように佇むその姿は、どこか懐かしく、そして心が洗われるような、厳かで清浄な空気を放っていた。
「…すごいよ、兄さん。本当に、すごい」
完成した神社を前に、俺は隣に立つ兄さんに心からの感謝と賞賛の言葉を送った。
「いや…シュートの設計と、みんなの手伝いがあったからだ。それに、このスキルがなければ…俺一人じゃ何もできなかった」
兄さんは、まだ少し自分の力に戸惑いながらも、誇らしげに神社を見上げている。彼の『穴太衆』としての才能は、この村の宝だ。
この神社に、俺は名前を付けた。
「日ノ本神社」と。この名前には、二つの意味を込めた。
一つは、俺の故郷、日本への想い。
そしてもう一つは、万が一、他にもこの世界に転生者がいた時に、ここが同郷の者がいる場所だと気づいてもらうための、ささやかな目印。
特に、蒼依がどこかで生きていて、この名前を目にする日が来ることを願って。
落成した翌日、村の喧騒が始まる前の早朝、俺は一人で日ノ本神社を訪れた。
鳥居をくぐり、参道を歩くと、心がすうっと静まっていくのを感じる。
まだ誰もいない境内は、朝の光の中で神聖な空気に満ちていた。
社の前で、二礼二拍手一礼。
前世で慣れ親しんだ作法で、この世界の、あるいは俺を見守ってくれているかもしれない「神様」に、これまでの感謝と、村の平和、そして蒼依の無事を祈った。
祈りを終え、ふと顔を上げると、社の脇の木陰に、一匹の狐がちょこんと座っているのが見えた。
(狐…?)
普通の狐ではない。
陽の光を浴びて輝くような、純白の毛並み。ピンと立った耳に、ふわりとした複数の尾を持っているように見える。そして、こちらをじっと見つめる大きな黒い瞳は、驚くほど賢そうだ。
初めて見るはずなのに、なぜか初めてではないような、不思議な懐かしさを感じる。
(この感じ…もしかして、蒼依と何か関係が…? 彼女の実家は稲荷神社だった。
狐は稲荷神の使いともいうし…まさか、そんな偶然が…?)
俺が警戒しながらも、ゆっくりと近づいていくと、狐は逃げる素振りも見せず、ただ静かに俺を見つめ返している。
そして、俺が数歩手前まで来た時、狐は小さく「コン」と鳴くと、自分の足元に置いてあった小さな物体を、鼻先で軽くこちらへ押し出すような仕草をした。
それは、手のひらに収まるほどの大きさの、透き通った水晶だった。鑑定の儀で見た宝珠によく似ているが、もっと小さく、そして比べ物にならないほど清らかで強い魔力を放っている。
狐は、俺が水晶に気づいたのを確認すると、まるで役目を終えたかのように、ふっと淡い光と共にその姿をかき消した。
「……!」
あまりの出来事に、俺は呆然とその場に立ち尽くした。狐はどこへ? そして、この水晶は一体…?
俺は、恐る恐る水晶を拾い上げた。
ひんやりとしているが、手のひらに温かい魔力が流れ込んでくるような感覚がある。
(この水晶…鑑定の儀の宝珠にそっくりだ。もしかして、これがあれば…鑑定ができるのか? 村で?)
もしそうなら、わざわざ危険を冒して領都まで行かずとも、村の中で鑑定ができることになる。
それだけでなく、領主や外部に知られたくない情報――例えば、ルカオン兄さんやブレディ君のような規格外の魔力量や、俺自身の秘密――を隠蔽し、管理することも可能になるかもしれない。
そうだとしたら、とてつもなく都合がいい。
(あの狐は、やっぱり…? 神様のお使いか、それとも…)
理由は分からない。けれど、これが俺たちにとって重要なものであることは確かだ。
「…ありがとう」
俺は、狐が消えた空間に向かって、深く頭を下げた。
そして、授けられた水晶を大切に懐にしまうと、神社の最も奥、本殿へと向かい、そこにこの不思議な水晶を丁重に納めた。
これが、日ノ本神社の、そしてルアン村の、新たな宝となるだろう。俺は、この水晶がもたらすであろう未来の可能性に、静かな興奮を感じていた。
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