シュート7歳の春
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数日後、領都フレッドでの鑑定の儀と買い物を終えた父さんたち一行が、村へと帰ってきた。
馬車が見えると、村中から人々が集まり、「お帰りなさい!」「ご無事で!」と温かい声援で出迎える。
荷台には新しい武器や資材だけでなく、街で買ってきたであろうお菓子や珍しい道具などのお土産も満載で、子供たちはもちろん、大人たちも笑顔になっていた。
ルカオン兄さん、ブレディ君、エレナ、ステフィの四人も、長旅の疲れも見せず、どこか誇らしげな、そして早く結果を報告したい、といった表情を浮かべている。
その夜、集会所には村のほぼ全員が集まっていた。
鑑定を受けた四人の結果報告会だ。
本来、個人のスキルや魔力量は、不用意に外部に漏らすべきではない情報だ。
だが、度重なる危機を共に乗り越え、家族同然となったこのルアン村では、隠し立ては不要だった。
互いの力を知り、喜びも不安も分かち合う。それが、この村の強さなのだ。
まず、エレナとステフィが前に進み出て、少し照れながらも自分たちの結果を報告した。
「エレナ、マナ143、『裁縫師』、スキル『精密縫製』!」
「ステフィ、マナ134、『牧場主』、スキル『促成栽培』!」
「おおーっ!」
「すごいじゃないか!」
「スキル持ちが二人も!」
会場からは、感心と祝福の声が上がる。
平民としては破格の魔力量と、村の生活に直接役立つスキル。二人は、これからの村にとって、間違いなく重要な存在になるだろう。
次に、ブレディ君が報告する番だ。彼は、少し緊張した面持ちながらも、はっきりとした声で言った。
「ブレディ、マナ881、『炎剣士』! スキルは『熾炎の理』と『魔刃解放』です!」
「「「881!!」」」
「『炎剣士』! スキルが『熾炎の理』に『魔刃解放』だと!?」
「なんだそのスキルは!? だが、名前からしてとんでもなく強そうだ!」
「『魔法剣』の上位スキルか何かか!?」
会場は、先ほどとは比較にならない、熱狂的な歓声とどよめきに包まれた。
平民ではありえない数値、強力な戦闘クラス、そして明らかに強力そうな二つのスキル名。
村の誰もが、彼の輝かしい未来を確信し、惜しみない称賛を送った。
父のドリクさんは、再び涙ぐんでいる。
(『熾炎の理』…炎を自在に操るための根源的なスキルか? そして『魔刃解放』! まさに僕が目指している、剣と魔法の融合…! なんて強力で、羨ましいスキルなんだ!)
俺も、思わず興奮して身を乗り出していた。
ブレディ君の持つポテンシャルは、俺の想像以上かもしれない。
そして、最後にルカオン兄さんの番が来た。会場の期待は最高潮に達している。
ブレディ君があの数値とスキルなら、兄さんは一体…? 兄さんは、ゆっくりと前に進み出て、深呼吸を一つすると、少し戸惑ったような、それでいてどこか吹っ切れたような表情で口を開いた。
「…僕は…ルカオンは、マナ1055。職業適性は…『穴太衆』。スキルは『大地創成』、『石工の秘技』、『構造解析』だった」
「「「……………」」」
一瞬の静寂。そして、理解を超えた魔力量と、聞いたこともない職業名、さらにその意味深なスキル名に、会場は再び、しかし今度は全く異なる種類の衝撃と混乱に包まれた。
「い、1055!? やはり桁が違う!」
「『穴太衆』…? だが、スキルが…『大地創成』!? まるで神話のようだ…」
「『石工の秘技』に『構造解析』…? いったいどんな職業なんだ…」
「戦闘系ではないのか…? だがあの魔力量で『大地創成』とは…」
だが、俺は違った。
(穴太衆…! スキルが『大地創成』、『石工の秘技』、『構造解析』だと!? 間違いない…!
俺の知る、伝説の石工集団そのものか、あるいはそれ以上の力だ!)
衝撃で、全身の血の気が引くのを感じた。
体が、ガタガタと震え出す。
俺は、無意識のうちに立ち上がり、ふらふらとした足取りで、困惑顔の兄さんへと近づいていた。
「シュート…?」
俺の異常な様子に、兄さんが心配そうに声をかける。
「ど、どうしたんだ? そんなに真っ青になって…やっぱり、『穴太衆』って、ダメな職業なのかな…? スキルも、なんか地味だし…」
兄さんは、俺の反応を見て、ますます自信なさそうに肩を落とす。
違う! 断じて違う!
僕は、ブンブンと激しく首を横に振った!
そして、兄さんの両肩を掴み、集まった村人たち全員に聞こえるように、熱っぽく語り始めた!
「ダメなわけない! 全然ダメじゃないよ、兄さん! すごいんだ!
とんでもなくすごい職業なんだ、『穴太衆』は!!
スキルだって、地味なんかじゃない!
むしろ、この村にとって、これ以上ない最高の組み合わせだ!」
僕の必死な声に、会場が再び静まる。
(穴太衆…昔、大学で日本の伝統建築や城郭の石垣技術について調べた時に、特殊な技術を持つ石工集団として感心していたことがある…! あの時の知識が、こんな形で繋がるなんて…!)
俺は内心の驚きを抑え、皆に説明を始めた。
「あ、穴太衆っていうのはね…僕が昔、神様から教わった古い話に出てきたんだけど…
石を使って、絶対に壊れないような、ものすごく頑丈な壁やお城を造る、最高の技術を持った人たちのことなんだ!
まさに、築城のプロフェッショナルだよ!」
俺は、前世の知識を「神様のお告げ」という形に変換し、言葉を続ける。
「兄さんのスキルを見てよ! 『大地創成』! きっと、土魔法の上位スキルで、地形そのものを変えたり、巨大な構造物を生み出したりできる力だ!
『石工の秘技』は、ダンテ石みたいな特別な石材を自在に扱ったり、加工したりする技術!
そして『構造解析』! これがあれば、どんな建物や壁でも、その弱点や強化すべき点が一目でわかるはずだ!
その1055っていう桁外れの魔力量を考えれば、兄さんは文字通り、大地をキャンバスにして、難攻不落の要塞だって作り出せるかもしれないんだ!」
僕は、興奮で息を切らしながら、兄さんの目を真っ直ぐに見つめて言った。
「兄さんは、この村の防御を完璧なものにし、村を発展させるための、最高の力と才能を授かったんだ!
ルカオン兄さんは、このルアン村にとって、絶対になくてはならない存在なんだよ!!」
僕の熱弁に、会場は再び静まり返っていた。
そして、その静寂の後、今度は理解と、そして新たな尊敬の念のこもったどよめきが広がった。
「大地創成…石工の秘技…構造解析…」
「なるほど…だから穴太衆…城を作る力か…」
「た、確かに、あの魔力量とそのスキルがあれば、とんでもないものが作れるかもしれん…! 村の守りの要になるぞ!」
村人たちの見る目が、明らかに変わった。
そして、ルカオン兄さん自身も、最初は呆然としていたが、やがて自分の職業とスキルの本当の意味を理解し、その顔に驚きと、そして確かな自信と誇りの色が浮かんでくるのが分かった。
鑑定の儀は、予想もしない形で、ルアン村に新たな可能性と希望をもたらした。
『炎剣士』ブレディ、そして、『穴太衆』ルカオン。
この二人の規格外の存在は、間違いなく、村の未来を大きく動かす力となるだろう。
俺は、兄さんの手を取り、強く頷きながら、この村の未来が、また一つ、力強く動き出したことを確信していた。
鑑定結果の興奮と衝撃が一段落した2日後、再び集会所に村の主な人々が集まった。
ルカオン兄さんとブレディ君も、今や村の未来を担う存在として、大人たちに交じって席に着いている。
会場の空気は、以前の不安や悲壮感とは異なり、驚くべき才能の発見による高揚感と、これから何をすべきかという真剣な議論への意欲に満ちていた。
「さて、皆。先の鑑定では、我々の予想を遥かに超える結果が出た。これは、天祐と言うべきだろう」
父さんが、誇りと喜びを隠せない表情で切り出した。
「だが、喜んでばかりもいられん。この力をどう活かし、村をどう導いていくか。今こそ、しっかりと今後の方針を定める時だ」
防御施設の強化、食料問題、ドリマ村の人々の定住…課題は多い。
皆が意見を交わす中、俺は静かに手を挙げた。
「父さん、村のみんな。僕から提案があります」
「シュートか。なんだ、言ってみろ」
「はい。この前の戦いで亡くなったマルコさんたち三人と、ドリマ村で命を落とした方々を…僕たちは、まだちゃんと弔えていないと思うんです。だから、皆の魂を祀り、感謝と祈りを捧げるための場所…神殿のようなものを、この村に作りたいんです」
俺の提案に、会場が少し静まる。
「それは…もちろん、弔いは大事だが、今すぐにか?」
父さんが尋ねる。
「はい」
俺は頷いた。
「それに、ただの慰霊碑じゃないんです。僕にいつも色々な知恵や力を示してくれる
…まあ、僕が『神様』って呼んでる存在がいるんだけど、その神様が喜んでくれるような、特別な場所を作りたいんです。
きっと、村を守護してくれる力になると思うから」
俺は、懐から簡単なスケッチを取り出して広げた。
それは、前世の記憶を頼りに描いた、質素だが、どこか神聖な雰囲気を持つ、日本の神社の基本的な構造図だった。
「これが…神様の住む場所…?」
大人たちが、不思議そうにスケッチを覗き込む。その時だった。
隣に座っていたルカオン兄さんが、スケッチを見た瞬間、ハッと息を呑み、目を見開いた。
「…わかる…」
兄さんが、自分でも信じられないといった様子で呟いた。
「この絵…どうやって作るのか、どんな材料が必要なのか、どこをどう組めば頑丈になるのか…見ただけで、頭の中に、全部浮かんでくる…! これが…『構造解析』なのか…?」
兄さんは、驚きと興奮が入り混じった表情で、自分の両手を見つめている。
「おおっ!」
「本当か、ルカオン!」
「それがスキルか!」
会場が、今度は驚嘆と納得の声でどよめいた。
『穴太衆』の、そして『構造解析』スキルの片鱗が、今、目の前で示されたのだ!
俺は、前世の知識を「神様のお告げ」という形に変換し、スケッチを指さしながら続ける。
「例えばね、この絵を見て。これは神様が住む場所の入り口を示す『鳥居』っていう特別な門なんだ。
この門をくぐって、清められた道『参道』を進むと、まずお参りをするための建物『社』があって、その一番奥に、神様が祀られている一番大事な場所『本殿』がある。
こういう、特別な意味を持つ建物を、石や木を使って頑丈に、そして美しく作る技術を持っていたのが、穴太衆なんだよ」
「兄さんのスキルを見てよ! 『大地創成』! きっと、土魔法の上位スキルで、地形そのものを変えたり、この神殿に必要な聖域の土台を作り出したりできる力だ。
『石工の秘技』は、ダンテ石みたいな特別な石材を自在に扱ったり、加工したりする技術。
そして『構造解析』! これがあれば、どんな建物でも、その弱点や強化すべき点が一目でわかるはずだ。
あの1055っていう桁外れの魔力量を考えれば、兄さんは文字通り、このスケッチにあるような神聖な建物を、この地に完璧に再現できるかもしれないんだ!」
僕は、興奮で息を切らしながら、兄さんの目を真っ直ぐに見つめて言った。
「兄さんは、亡くなった方々を慰め、村に神様の守護をもたらし、村の人の生活を守る城を築くための、最高の力と才能を授かったんだ! ルカオン兄さんは、このルアン村にとって、絶対になくてはならない存在なんだよ!!」
僕の改めての熱弁に、会場は再び静まり返っていた。
そして、その静寂の後、今度は理解と、そして新たな尊敬の念のこもったどよめきが広がった。
「大地創成…石工の秘技…構造解析…」
「なるほど…だから穴太衆…神殿や城を作るための力か…」
「た、確かに、あの魔力量とそのスキルがあれば、とんでもないものが作れるかもしれん…! 村の守り神となるかもしれんな!」
「…決まりだな」
父さんが、満足そうに頷いた。
「亡くなった者たちを弔い、村の守護となる神殿を建てる。異論のある者は、おるまい」
会場からは、誰一人反対する声は上がらなかった。
むしろ、
「ぜひやるべきだ!」
「ルカオンに任せよう!」
という賛同の声が次々と上がる。俺の提案と、兄さんの秘められた力の証明が、満場一致の決定を導いたのだ。
「よし、では今後の大方針を決めるぞ!」
父さんが、改めて場を引き締める。
「まず、神殿の建設。これはルカオンを中心に進める。シュート、お前も設計や土魔法で兄を助けてやれ」
「はい!」
「任せてください!」
僕たちは力強く頷いた。
「次に、冬の間に順調に進んだ防御施設の強化だが、これは今後も継続する。
特に西の川岸と東の畑側の整備を急ぐ。これもルカオンの『構造解析』と『大地創成』の力が鍵になるだろう」
「そして、中断していた東側の畑の開墾だ。これは、食料確保の最重要課題として、直ちに再開する!
リーダーは…シュート、お前に任せる!ステフィの力を借り、 計画、作付け、そして魔法による支援、全てお前の指示で進めてくれ!」
「えっ!? 僕がですか!?」
あまりの抜擢に、思わず素っ頓狂な声が出た。
「そうだ。お前の知識と計画性、そして土魔法があれば、最も効率よく進められるはずだ。責任は重いが、頼んだぞ!」
父さんの目は真剣だ。
「…はい! 分かりました! 全力でやります!」
突然の大役に戸惑いながらも、俺は覚悟を決めた。
「最後に、訓練だ! あの戦いで分かった通り、力はいくらあっても足りん! 全員、これまで以上に稽古に励むこと! よいな!」
「「「はい!!」」」
建築、開墾、訓練、そして神殿建設。
次々と決まる方針に、村全体が新たな目標に向かって動き出す、力強い活力が満ちていく。
その熱気に当てられたように、ジャンの目がギラリと光った。
(ブレディの奴、『魔刃解放』なんてかっこいいスキルを…! でも、火魔法なら俺だって負けない! 絶対にもっと強くなって、あいつを追い抜いてやる!)
彼の闘志が、メラメラと燃え上がっているのが見て取れた。
シャナイア姉さんも、静かに拳を握りしめていた。
(兄さんがあんなにすごい力を持っていたなんて…私も、来年の鑑定で、兄さんやシュートに笑われないように、もっともっと頑張らないと…! リリーやキャシーちゃんにも、負けていられないわ!)
彼女の瞳にも、兄への誇りと、自分自身への静かな闘志が宿っていた。
鑑定の結果は、僕たち子供たちの心にも、大きな刺激と目標を与えたようだ。
これから、僕たちは、もっともっと強くなれる。村も、もっともっと良くなる。
俺は、集会所の熱気の中で、仲間たちの顔を見渡し、これから始まるであろう、忙しくも希望に満ちた日々を思い描き、静かに、しかし力強く、決意を新たにするのだった。
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