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星に願いを

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!

ルアン村 - 年末の夜


凍てつくような年末の夜。


シン、と静まり返ったルアン村で、家々の窓から漏れるランプの灯りだけが温かかった。


その光は、この厳しい冬をどうにか乗り越えつつある小さな安堵と、否応なく訪れる新しい年に向けた村人たちの、そして俺自身の静かな決意を映しているかのようだった。


俺は、自室の窓から雪化粧をした村を眺めた。


その向こうには、この一年で仲間たちと共に築き上げた土塁が、頼もしく闇にそびえている。


それは、俺たちの血と汗の結晶であり、未来への希望の象徴でもあった。


思い返せば、この一年はまさに激動の日々だった。魔物の容赦ない襲撃、目の前で失われた仲間たちの命、領主からの理不尽な重税…。


幾度となく心が折れそうになった。だが、その一つ一つを歯を食いしばって乗り越えるたびに、村は、そして俺たち自身も、確かに強くなってきたという手応えがある。


新しい仲間が増え、防御は固まり、食料基盤も整いつつある。魔法を使える仲間たちとの連携も円滑になり、俺自身の力量も、以前とは比べ物にならないほど増しているのを感じる。


(この村を守り、もっと豊かにする。そして…)


ふと、胸の奥がきりりと痛むような切なさが込み上げ、あの雷鳴轟く夜、すぐ隣で恐怖に震えながらも俺を励まそうとしてくれた、快活な少女の笑顔が瞼の裏に焼き付くように浮かんだ。


「蒼依…」


声に出さず、心の中でその名を呟く。


今、どこで何をしているのだろう。無事でいてくれるだろうか。


俺と同じように、この見知らぬ世界のどこかで、孤独と戦いながらも、必死に生きているのだろうか…。


彼女のことを想うたび、胸の奥が冷たい風にさらされるようにざわつき、守り切れなかった無力感と後悔が、重くのしかかってくる。


そして同時に、喉が渇くような再会への切望が、俺の心を焦がすのだ。


彼女もまた、俺と同じ転生者になっているはずだ。


この広大な世界のどこかにいるはずだ。


そう信じたい。


彼女も、きっと俺と同じように、孤独や困難と戦いながら、前を向こうとしているはずだ…。


その時だった。


ドンッ…!


まるで心臓を内側から鷲掴みにされたかのような、強烈な衝撃が胸の中心を貫いた。


瞬間、息が止まり、思考が白く染まる。


理由は皆目見当もつかない。だが、そこには否定しようのない確かな感覚があった。


それは初め、遠い、遠いどこかから微かに響いてくる、切羽詰まったような呼び声のようだった。


そして次の瞬間には、まるで自分と同じように、この異世界の空を見上げ、誰かを強く、強く想っている魂がすぐそばにあるかのような…


いや、もっと直接的な、魂そのものが震えるような繋がりを感じたのだ。


これは単なる予感や、そうであってほしいという希望的観測などではない。


もっと強く、もっと鮮明で、抗いがたいほど確かな、魂の共鳴としか言いようのない感覚だった。


(…蒼依…?)


思わず、その名を呟く。


この感覚は何だ?


まるで、見えない糸が、時空を超えて俺と誰かを繋いでいるような…。


それは、魂を焦がすような温かさと、胸が張り裂けんばかりの切なさを伴っていた。


「……っ」


俺は、自分の胸に強く手を当てた。


この感覚の正体は分からない。


けれど、孤独ではないのだと、強く感じた。彼女もきっと、どこかで生きている。


そして、俺と同じように、未来を掴もうともがいている。


(待ってろ、蒼依。必ず…必ずお前を見つけ出す。それまで、何があっても生き延びてくれ…!)


込み上げてくる熱い感情に突き動かされるように、俺は再び窓の外へ目を向けた。


そこには、凍てつく夜空に、まるでダイヤモンドダストを撒き散らしたかのように無数の星々が、この異世界特有の冷たい光を放って輝いている。


あの星々のどれか一つでもいい、どうか彼女のいる場所を照らしていてくれと、柄にもなく祈るような気持ちが湧き上がる。


その星々の下のどこかで、今この瞬間も戦っているはずの彼女へ――この想いが、この誓いが届くようにと、俺は心の中で、いや、魂の奥底から叫ぶように、強く、強く願ったのだ。



フレッド男爵領 - 秘密の拠点(オークの塒)- 同時刻


拠点の洞窟の中、燃え盛る焚き火がパチパチと音を立て、揺れる炎が岩肌を暖かなオレンジ色に染めていた。


外は骨身に染みるような冬の夜だ。


手入れを終えたばかりの薙刀は、揺らめく焚き火の光を鈍く反射し、冷たくも妖しいまでに美しい刃の輝きを放っていた。


この切れ味こそが、今の私の生命線。


そして、いつか自由を掴むための唯一の牙だ。そう思うと、無機質な鉄の塊のはずなのに、どこか頼もしい相棒のようにさえ感じられた。


記憶を取り戻したあの日からの一年は、まさに筆舌に尽くしがたい絶望と隣り合わせの日々だった。


それでも、泥水をすするような思いで必死に這い上がり、ライカ、マリンさん、伊奈帆、そして無邪気な桃ちゃんという、かけがえのない仲間たちと巡り合うことができた。


彼女たちがいなければ、今の私はない。


オークや、時にはその上位種であるハイオークすらも仕留められるようになり、この薄暗い洞窟とはいえ、ひとまずの拠点と、自由への足掛かりとなる僅かな資金も手にした。


狩りの技術も、拙いながらも扱えるようになった魔法も、すべては生き延びるため、そしていつか…と、胸に秘めた想いを叶えるために、がむしゃらに習得してきたものだ。


確実に、私は強くなっている。


(でも、まだ足りない。圧倒的に。この理不尽がまかり通る世界で、真の自由を掴むためには、もっと強く、もっと狡猾に立ち回る術を身につけなければ…)


そして、そんな張り詰めた思考の隙間に、不意に滑り込んでくるのは、いつもあの不器用で、けれど誰よりも真っ直ぐな眼差しをしていた彼の姿だった。


「朱斗さん…」唇が微かに動き、その名を紡ぐ。


あなたは今、どこで、何をしているの…? 私と同じように、この理不尽な世界で歯を食いしばって戦っていますか?


それとも…想像するのも恐ろしい最悪の可能性が、冷たい毒のように心を侵し、きりりと胸が痛む。


会いたい。


ただ、その声が聞きたい。


あの不器用な優しさに、もう一度だけでいいから触れたい。


この、息も詰まるような孤独と、先の見えない不安を、彼と分かち合えたなら…。


彼は、暗闇の中で唯一私を照らしてくれた、道標のような人だったのだから。


もし、もしも彼が今、この隣にいてくれたなら…どれほど心強いだろうか。


その時だった。


ズキン…!


突然、心臓が肋骨を突き破らんばかりに大きく脈打った。


それは、まるで遠い、遠いどこかから、堰を切ったように強烈な感情の奔流が、時空を超えて私の魂に直接流れ込んできたかのような、説明のつかない摩訶不思議な感覚だった


。それは、凍えるような悲しみや、先の見えない不安といった冷たい感情だけではない。


むしろ、何かを掴み取らずにはいられないという強靭な意志、どんな困難にも決して屈しないという燃え盛るような熱い決意――


そんな力強い波動が、私の内側から湧き上がってくるようだった。


(…なに? この感覚…?)


戸惑いながら、私は自分の胸に手を当てる。


温かい。まるで、誰かがすぐ傍らで、そっと私の背中を支えてくれているかのような、心強い温もり。


そして同時に、言いようのない切なさが込み上げてくる。


これは、単なる感傷などではない。もっと根源的で、確かな――魂同士が呼び合っているとしか思えないような感覚。


(…朱斗さん…なの…?)


彼の名前を呼ぶと、胸の奥の温もりが、さらに強く応えたような気がした。


姿は見えない。声も聞こえない。


けれど、彼は生きている。


そして、私と同じように、この世界のどこかで、必死に前を向こうとしている。そう、強く確信した。


「……っ」


熱いものが込み上げ、幾筋ものの涙が、自分でも気づかぬうちに頬を伝った。


けれど、それは決して悲しみや絶望の涙ではなかった。


この広大で過酷な世界で、私は独りではないのだと――そう魂で感じ取れたことへの、震えるような安堵と、そして勇気の涙だった。


(朱斗さん…私も、決して負けません。必ず、この手で自由を掴み、あなたを探し出します。だから、あなたも…どうか、生きていて!)


声にならない叫びが、胸の奥で確かにこだました。


私は静かに立ち上がり、焚き火の揺らめきを背に、洞窟の入り口へと歩を進めた。


ひやりとした冬の空気が肌を刺し、見上げた夜空には、見たこともない異形の星座たちが、凍てつく闇の中で、しかし圧倒的な力強さをもって輝いていた。


あの無数の星の一つ一つに願いを込めるように、私は自分の決意を重ね合わせるように、静かに、しかし力強く、心の中で誓いを立てた。


必ず、生き抜いて、自由を掴み、そしてあなたに会いに行く、と。


二つの魂は、まだ互いの確かな居場所も、その姿さえも知る由はない。


けれど、この凍てつくような年末の夜、彼らは確かに時空を超えて響き合い、それぞれの胸に灯る決意の炎を、より一層強く、未来を照らし出すかように燃え上がらせたのだった。

ご一読いただきありがとうございます!

思った以上に読んでくださる方がいて、とても嬉しいです。

もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

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