シュート6歳 新年の抱負
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雪深いルアン村に、新しい年が訪れた。
僕、シュートは、この世界で6度目の新年を迎え、6歳になった。
この地の慣習で、新年と共に誰もが一斉に歳を取るというのは、何度経験しても少し不思議な感覚だ。
まるで、世界全体が一つの大きな時計のように、カチリと音を立てて針を進めたかのようだ。
元日の朝は、この雪国にしては本当に珍しく、雲一つない快晴だった。
凍てつくほど冷たい空気は、しかしどこまでも澄み渡り、降り積もった新雪に反射する柔らかな陽光が、世界を眩いばかりにキラキラと照らし出していた。
木々の枝には雪の花が咲き、陽光を受けてダイヤモンドダストのように輝きながら舞い落ちる。
美しいけれど、この美しさの裏には、厳しい自然と、常に潜む脅威があることを僕は知っている。
村は依然として深い森に隣接しており、時折姿を現す魔物の脅威に晒されている。
僕が考案したローマン・コンクリートの技術を使った防御施設の計画はまだ始まったばかりで、村の安全が完全に確保されたとは到底言えない状況だった。
昼過ぎ、村の中央にある集会所――といっても、村で一番大きな丸太小屋を少し広げただけの素朴な建物だけれど――には、村人たちが続々と集まり、ささやかながらも心温まる新年の祝いが開かれていた。
外は肌を刺すような厳しい寒さだが、集会所の中は別世界のように暖かい。
その理由は、僕が前世の知識を元に開発した「ダンテ石」だ。熱を効率よく蓄え、じんわりと、そして長時間にわたって放熱するこの特殊な石材を使ったかまどが、部屋全体を柔らかく暖めている。
貧しい暮らしは変わらない。
食料だって、決して豊富とは言えない。
それでも、この厳しい冬の寒さを、凍えることなく凌げるようになったという事実は、村人たちの心に大きな安堵と、ささやかな豊かさをもたらしていた。
集会所に集まった人々の表情は、以前よりもずっと明るく、穏やかで、そこかしこで談笑の輪が広がっている。
持ち寄られた保存食――干し肉や乾燥野菜、木の実の粉で作ったパンなど――や、冬の間に男たちが仕留めた獣の肉を使った素朴なシチューが良い匂いを漂わせている。
大人たちは、貴重な自家製の果実酒や、少し濁ったエールのようなものを木製のカップで酌み交わし、子供たちは、暖かい室内で元気いっぱいに走り回り、甲高い笑い声を上げていた。
この光景を見ていると、僕の心にも温かいものが込み上げてくる。
僕の知識が、少しでもこの村の人々の役に立っているのだと思えるから。
僕も、6歳になったばかりの訓練仲間リリーと一緒に、壁際の少し落ち着いた場所で、湯気の立つ温かい木の実のスープをすすっていた。
兄のルカオンと姉のシャナイア、そしてシャナイアと同い年で8歳になった親友のジャンも、僕たちのすぐ近くで、大人たちの会話に耳を傾けたり、自分たちで何か話したりしている。
「 リリー! ついに俺たちも6歳だな! もう赤ちゃんじゃないぞ!」
僕が少しおどけてそう言うと、リリーは「もう!」と軽く僕の腕をつつきながらも、嬉しそうにクスクスと笑って頷いた。
「うん! なんだか、あっという間だったね。本当に色々なことがあったから…」
僕も頷く。
前世の記憶を持つ僕にとって、この6年間は、元の世界の何十年分にも匹敵するような、濃密で、そして過酷な時間だった。
「私たちも、もうただの子供じゃないんだから! もっともっと、強くならなくちゃね!」
リリーが、小さな拳を握りしめ、少し背伸びをするように胸を張る。
その瞳には、強い意志の光が宿っている。
最近、彼女は僕のことを何かと気にかけてくれ、僕が新しい道具を考案したり、訓練で少し難しい魔法を使ったりすると、尊敬するような、キラキラした眼差しを向けてくるようになった。
僕が前世の知識を持っていることは秘密にしているけれど、何か違うものを感じ取っているのかもしれない。
少し照れくさいけれど、彼女の真っ直ぐな気持ちは、悪い気はしない。
むしろ、僕も頑張らなくちゃ、と思わせてくれる。
「お、なんだなんだ、ちびっ子たちが張り切ってるな! 俺たちに追いつくには、まだまだ早いぞー!」
ジャンが、僕たちの様子を見て、わざと大きな声でからかうように笑う。彼は僕たちより二つ年上なのを、いつも少しだけ自慢したがるのだ。
「まあまあ、ジャン。そんなこと言わないの。それより、せっかくだから、今年の目標とか、みんなで言ってみないか? 新しい年になったんだし」
ルカオン兄さんが、穏やかに、しかしどこか楽しそうに提案する。
兄さんは、いつも僕たち弟妹や年下の子供たちのことを気遣ってくれる、頼れる存在だ。
「いいね! 目標か! よーし、俺は、このダンテ石のかまどの火を、自分の魔法だけで一日中燃やし続けられるようになるのが目標だ! そしたら、母さんや父さんたちの薪拾いの手間も減らせるし、冬でももっと暖かく過ごせるだろ!」
ジャンが一番に手を挙げ、自信満々に宣言する。
彼の火魔法は、最近めきめきと上達していて、かまどの火起こしくらいならもう任せられるほどだ。
一日中燃やし続けるというのは、かなりの魔力制御と持続力が必要になるだろうけど、彼ならやり遂げるかもしれない。
「私は、シャナイア姉さんと一緒に、飲み水だけじゃなくて、洗濯とか、畑の水やりにも使えるくらい、たくさんの水を魔法で出せるようになりたいな!
シュートみたいに、村のみんなの役に立てるような魔法使いになりたい!」
リリーが、少し頬を赤らめながら、しかしはっきりとした口調で言う。
彼女は水魔法の適性があり、シャナイア姉ちゃんに教わりながら、一生懸命練習している。
僕の名前を出してくれたのは、やっぱり少し照れくさいけど、彼女の真剣な気持ちが伝わってくる。
「うん、そうだね。村の井戸は一つしかないし、冬は特に水汲みが大変だものね。
リリーと協力して、少しでもみんなの負担を減らせるように頑張るわ。
それに、畑に水を撒ければ、夏にもっとたくさんの野菜が育てられるかもしれないし」
シャナイア姉ちゃんが優しく微笑みながら、リリーの目標を後押しする。
彼女の言葉には、いつも村全体への思いやりが溢れている。
「俺とシュートは、やっぱり、あの川までの道作りを完成させることだな。
途中まではできてるんだが、森の中の岩盤が硬くて難航してる。
でも、あれができれば、安全に、そして楽に川まで行けるようになる。
水汲みも、森へ狩りや採集に行くのもずっと楽になるし、いざという時の避難路にもなるかもしれない。
村の安全のためにも、絶対にやり遂げないとな」
ルカオン兄さんが、強い決意を込めて言う。
道作りは、村の男手だけではなかなか進まない難事業だ。
「うん! 兄さんと一緒に頑張るよ! 僕の土魔法と、前世の…ううん、僕が考えたやり方を使えば、きっとあの岩盤も砕けるはずだ! 必ず完成させよう!」
僕も力強く頷いた。
前世の土木知識や、もしかしたら無意識に使っているかもしれない【創造】系のスキルを活かせる道作りは、僕にとっても非常にやりがいのある、そして村の未来に直結する重要な目標だ。
そうだ、僕たちは一人じゃない。
こうして、それぞれの目標に向かって努力する仲間がいる。
いつも僕たちを見守り、支えてくれる父さんや母さん、そして村のみんなもいる。
そして、この集会所を満たす、ダンテ石の温もりもある。未来には、魔物の脅威や、貴族との関わりといった不安もあるけれど、それ以上に、自分たちの手で未来を切り開いていけるという、確かな希望の方が大きい。
僕たち5人は、それぞれの胸に新たな決意を抱きながら、温かいスープを飲み、持ち寄られた素朴なご馳走を分け合い、そして、これから始まる一年や、もっと先の未来のことについて、尽きることなく語り合った。
窓の外では、冬の陽光が、まるで僕たちのささやかな希望と、固い決意を祝福するように、どこまでも明るく、力強く降り注いでいた。
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