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1 初めてデートできたのに・・・  

はじめまして! この度、異世界転生ファンタジーの投稿を始めます。

前世の記憶を武器に過酷な異世界を生き抜く少年シュートと、虐げられながらも闘う少女アオイ。

異なる場所で理不尽な運命に抗う二人の物語です。

彼らの活躍と、いつか交差するかもしれない運命を見守っていただけると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!

南基朱斗みなもと あけと、26歳。183センチの長身に、80キロの鍛え上げられた筋肉質な体躯。友人からは「シュート」の愛称で呼ばれている。その体躯は、大学で専攻した土木工学の研究や現在の建設業界での仕事と同様に、日々の地道な努力と鍛錬によって築き上げられたものだ。


幼少期から父が師範を務める道場で剣道と合気道の厳しい稽古に明け暮れ、その剣筋は鋭く、いずれも有段者の実力を持つ。しかし、その逞しい外見とは裏腹に、性格は極めて温厚篤実。困っている人を見過ごせない強い正義感を内に秘めているが、こと恋愛に関しては驚くほど鈍感で、向けられる好意には全く気づかないこともしばしばだ。

友人からは「惜しい男」と揶揄されることもあるが、本人はどこ吹く風である。


北條蒼依ほうじょう あおい、朱斗と同じく26歳。大学では農学を専攻し、植物や土壌に関する深い知識を持つ。卒業後はその知識を活かし、国内有数の種苗メーカーに勤務している。実家は古くから地域で信仰を集める神社で、週末など時間がある時には家業を手伝い、清らかな巫女装束を身にまとい、時には神楽舞を奉納することもある。


163センチ、52キロという、しなやかでバランスの取れた体つき。豊満な胸は女性らしい魅力だが、時折、彼女が打ち込む武道の妨げになることもあると感じている。艶やかな黒髪は手入れの行き届いた清潔感のあるショートカットで、大きな黒い瞳と相まって、清楚でありながらも愛らしい雰囲気を醸し出している。

その容姿と、誰にでも分け隔てなく接する優しい人柄から異性からの人気は非常に高いのだが、本人は全く無自覚である。彼女もまた、幼い頃から武道の道に親しんできた。


実家とは別の、厳格なことで知られる道場で薙刀と弓道を習い、どちらも学生時代には全国大会で上位入賞を果たすほどの腕前を持つ実力者である。長い得物である薙刀を軽々と、しかし鋭く振るう姿や、弓を引き絞る際の凛とした静謐な姿は、普段の柔和な雰囲気との間に鮮やかなギャップを生み出し、彼女の多面的な魅力を際立たせている。


二人の出会いは、互いにまだ青さの残る大学時代に遡る。共通の友人が主催した飲み会で偶然隣り合わせになったのがきっかけだった。最初は互いに人見知りする部分もあり、ぎこちない会話が続いたが、自己紹介で互いに武道を嗜んでいることを知ると一気に打ち解けた。

さらに、意外な共通の趣味であるライトノベルの話で盛り上がり、互いの好きな作品について熱く語り合ったことで、二人の距離はぐっと縮まった。


朱斗は剣道と合気道、蒼依は薙刀と弓道。種目は違えど、鍛錬の厳しさ、精神集中の重要性など、武道に関する共通の話題は尽きなかった。その日以来、二人は良き友人として、そして互いを尊敬する武道の徒として、自然と交流を深めていった。


卒業後、それぞれの道に進んでからも、その関係は変わらなかった。特に週末は、朱斗の父が師範を務める道場で顔を合わせることが、いつしか二人の習慣となっていた。道場の板の間を踏みしめ、竹刀を振るう朱斗。時には道着姿で合気道の受け身の音を響かせることもあった。その傍らで、道場の隅を借りて、時には鋭い呼気と共に薙刀の型を繰り返し、時には静かに呼吸を整えながら弓の素引きを行う蒼依。


道場に響くのは、朱斗の竹刀が空気を裂く音や打ち込みの際の激しい音、合気道の受け身の鈍い音、そして蒼依が薙刀を振るう際の「ヒュッ」という鋭い風切り音、弓を引き絞る際の張り詰めた静寂。言葉を交わさずとも、互いの存在を強く意識し、その鍛錬の気配が心地よい刺激となっていた。


特に朱斗は、蒼依の存在を意識せずにはいられなかった。真剣な眼差しで的を見据える横顔。薙刀や弓を構えた際の、普段の彼女からは想像もつかないほどの凛とした佇まい。そして、厳しい稽古が終わり、ふっと表情が和らいだ時に見せる、はにかんだような優しい笑顔。その全てが、朱斗の心を捉えて離さなかった。いつしか、その感情は友情を超えた、淡く切ない恋心へと変わっていた。


(デートに誘いたい……。二人きりで、どこかへ行きたい……)


その想いはここ数ヶ月、波のように寄せては返し、朱斗の心を占めていた。だが、一歩を踏み出す勇気が出ない。自身の恋愛に対する鈍感さも手伝って、蒼依の気持ちが全く読めないのだ。もし断られたら? 今のこの心地よい、互いを高め合えるような関係すら壊れてしまうのではないか? そんな臆病な考えが、彼の行動を頑なに縛っていた。

何度、道場の帰り道で「あのさ……」と切り出そうとしては、結局当たり障りのない世間話に終始し、自己嫌悪に陥ったことか。


しかし、その週末は何かが違った。稽古が終わり、道場の片付けも済み、皆が帰り支度を始める中、蒼依が一人、窓の外を眺めている姿が目に入った。夕暮れの光が、彼女の横顔を柔らかく照らしている。その瞬間、朱斗の中で何かが弾けた。


(今日こそ、言うんだ。言わなきゃ何も始まらないじゃないか)


自分を奮い立たせ、少し早鐘を打つ心臓を抑えながら、蒼依の元へ歩み寄る。


「ほ、北條さん!」


思ったよりも大きな声が出てしまい、自分でも驚く。蒼依は、少し驚いたように、しかし穏やかな表情で振り返った。その大きな黒い瞳に見つめられ、朱斗の緊張は最高潮に達する。


「南基さん? どうかしましたか? 忘れ物ですか?」


「あ、いや、違うんだ……その、もし、もしよかったらなんだけど……今度の休み、空いてるかな……?」


「はい、特に予定はないですけど……」


蒼依は、不思議そうに小首を傾げている。


「あの、最近公開されたアクション映画の『HEY! HARD』……すごい評判らしくて……もし、興味、あるかな……なんて……一緒に、どうかな?」


言い終えた瞬間、朱斗は自分の言葉遣いの不自然さに顔から火が出る思いだった。もっとスマートに誘えなかったのか、と後悔が押し寄せる。蒼依は、少しの間、宙を見つめて考えていた。その沈黙が、朱斗には拷問のように長く感じられた。


(だめか……? やっぱり迷惑だったか……? アクション映画なんて、興味ないよな、きっと……)


ネガティブな想像が頭の中をぐるぐると駆け巡る。断りの言葉を、どんな顔で受け止めればいいのだろうか。


「アクション映画! いいですね!」


突然、蒼依の顔がぱっと輝いた。予想だにしなかった、明るい声。


「最近、全然映画館に行けてなくて。ストレス発散にもなりそうだし、ぜひ観たいです! 誘ってくれてありがとうございます!」


「ほ、ほんと!? よかった……! 俺の方こそ、ありがとう!」


安堵と喜びで、朱斗の声が裏返る。


「じゃあ、来週の土曜日とか……時間は、どうかな?」


「はい、大丈夫です! わあ、久しぶりの映画、楽しみだなあ」


蒼依は、屈託なく、本当に嬉しそうに微笑んだ。その太陽のような笑顔が、朱斗の心の中にあった分厚い雲を吹き飛ばした。


(やった……! 誘えた……! 信じられない……!)


朱斗は、込み上げる喜びを必死に抑えながら、映画館の場所や待ち合わせ時間を決めた。その日は、どうやって家に帰ったのか覚えていないほど心が浮ついていた。


そして、約束の土曜日。朱斗は、いつもより少しだけ念入りに髪を整え、お気に入りのジャケットを羽織って待ち合わせ場所の駅に向かった。蒼依もまた、普段の道着姿や仕事着とは違う、柔らかな素材のワンピースに身を包み、少し緊張した面持ちで待っていた。


「ごめん、待った?」


「ううん、私も今来たところです。そのジャケット、似合ってますね」


「あ、ありがとう……北條さんも、すごく……綺麗だ」


ぎこちない会話を交わしながら、二人は映画館へと歩き出した。道中、仕事の愚痴を言い合ったり、道場の仲間の噂話をしたり、大学時代の懐かしい思い出や好きなライトノベルの話をしたり。最初は緊張していた二人も、次第にいつものペースを取り戻し、会話が弾んだ。


朱斗は、隣で楽しそうに話す蒼依の横顔を盗み見ては、この時間が永遠に続けばいいのに、と柄にもなく感傷的な気持ちになった。


映画は、ハリウッド制作の最新VFXを駆使した派手なアクション大作『HEY! HARD』だった。巨大な爆発シーン、息もつかせぬカーチェイス、鍛え上げられた肉体同士の格闘シーン。朱斗は、迫力ある映像に引き込まれつつも、意識の半分は隣の蒼依に向いていた。

大きな音がするたびに、蒼依の肩が小さく跳ねる。コミカルなシーンでは、くすくすと楽しそうに笑う。主人公が絶体絶命のピンチに陥ると、ぎゅっと拳を握りしめ、固唾を飲んでスクリーンを見つめる。その一つ一つの反応が、朱斗には新鮮で、たまらなく愛おしく感じられた。


(やっぱり、かわいいな……。誘って、本当によかった……)


そんな自分の感情の昂たかぶりに気づき、朱斗は少し照れくさくなり、慌ててスクリーンに視線を戻した。


約二時間の上映が終わり場内が明るくなると、二人は興奮冷めやらぬ様子で感想を語り合った。


「あのシーン、すごかったね!」


「まさかあの人が裏切り者だったなんて!」


映画の余韻に浸りながら映画館を後にすると、ふわりと甘い香りに包まれた。見上げれば、街路樹の桜がこれ以上ないほどに咲き誇り、陽光を浴びて淡いピンク色の花びらをきらめかせている。


時折吹く春の風に、はらはらと花びらが舞い散り、まるで二人を祝福しているかのようだ。外はまだ明るく、夕暮れには少し時間があった。


「この後、どうしようか? 買い物でもする?」


と朱斗が尋ねると、蒼依が少し頬を染めながら、桜の花びらが舞い落ちるのを見つめた後、小さな声で提案した。


「もしよかったら、なんですけど……うちの神社に寄りませんか? ここからそんなに遠くないですし、桜もきっと綺麗で……それに、今日、無事に楽しく過ごせたお礼参りもしたかったんです」


その言葉に、朱斗の胸にも温かいものが込み上げてくる。


「北條さんの実家の神社か。いいね、行ってみよう。俺も、今日のお礼と……これからのことも、お願いしたいし」


最後の方は少し照れくさそうに付け加えた。


蒼依の実家の神社は、街の喧騒から少し離れた、緑豊かな小高い丘の上に鎮座していた。長く続く石段の両脇には見事な桜並木が続き、まるで花のトンネルのようだ。一段一段踏みしめて登っていくと、次第に周囲の音が遠ざかり、空気がひんやりと澄んでいくのを感じる。


苔むした石灯籠にも桜の花びらが舞い落ち、高くそびえる古木の緑と満開の桜のピンクが美しいコントラストを描いていた。そして丘の上から見下ろす街の景色も、春霞の向こうに桜色の絨毯が広がっているかのようだ。そこには日常とは違う、厳かで神聖な、そしてどこか甘く切ない時間が流れていた。


古びた、しかし風格のある鳥居をくぐると、境内一面に敷き詰められた砂利の上にも、桜の花びらが儚げな模様を描いていた。


「お参りしていきましょうか」


蒼依が朱斗を振り返り、柔らかな笑顔で言った。その笑顔も、満開の桜に負けないくらい綺麗だと朱斗は思った。


「ああ」


二人は並んで拝殿の前に立ち、賽銭を投げ入れ、深く頭を垂れて手を合わせた。舞い散る桜の花びらが、そっと二人の肩に触れていく。朱斗は、今日のデートが無事に、そしてこの上なく楽しく終わったことへの感謝を捧げた。


そして、これからも蒼依とこうして穏やかで幸せな時間を、この美しい桜のように重ねていけますように、と心の中で強く願った。隣で同じように目を閉じている蒼依の横顔をそっと盗み見ると、その表情はとても穏やかで、朱斗の胸は甘酸っぱい期待でいっぱいになった。


蒼依もまた、今日の楽しかった出来事を一つ一つ胸に思い浮かべながら、日々の平穏への感謝と、朱斗との関係がより良いものになるようにと、静かに祈りを捧げていた。


その厳かな静寂を破ったのは、突如として空に響き渡った異様な音だった。


空が、にわかに掻き曇ったのだ。先ほどまでの穏やかな夕暮れの空が嘘のように、厚く鉛色をした黒い雲が、まるで生き物のように急速に空全体を覆い尽くしていく。周囲が急速に薄暗くなり、風が生暖かく、そして強く吹き始める。


ゴロゴロゴロゴロ……!!


腹の底に直接響くような、低く地鳴りのような不気味な雷鳴が、空気を震わせた。


「わっ!? きゃっ!」


蒼依が驚き、恐怖に引きつった小さな悲鳴を上げ、反射的に朱斗の腕に強くしがみついた。その指先が冷たい。


「大丈夫か!? すごい音だな……急に天気が……!」


朱斗が空を見上げ、蒼依を庇うように自身の体で覆いかぶさろうとした、まさにその瞬間。世界が閃光によって完全に白く染まった。


ピシャァァァァァン!!!


鼓膜が破れるかと思うほどの、耳をつんざく凄まじい轟音。視界は完全に白飛びし、何も見えない。強烈な衝撃波のようなものが体を貫き、そして意識の最も深いところに、直接響くような、厳かで、しかし有無を言わせぬ力強い声が聞こえた気がした。


『来たれ』


意識が急速に薄れ、遠のいていく。腕に感じていた蒼依の温もりと、必死にしがみつく力の感触が、まるで砂のように指の間からこぼれ落ちていく。体がまるで綿のように軽くなり、どこかへ吸い上げられていくような奇妙な浮遊感。完全に暗転する視界の最後に網膜に焼き付いたのは、驚きと恐怖、そして何かを訴えるような色を浮かべた、蒼依の大きな黒い瞳だった。


お付き合いいただき、誠にありがとうございました。

物語を楽しんでいただけておりましたら幸いです。今後の励みになりますので、もしよろしければページ下の評価などで応援いただけますと大変嬉しいです。

よろしく願いしますm(_ _)m

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