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行きはよいよい、帰りは怖い

「万策が尽きていない状態でそう喚かれても見苦しいだけよ。貴方の背負う大剣は徒に振るう事しか出来ないのかしら?」


「いや大剣って武器なんスからそれ以外にどう使えば」


「………………もしかして、テコの原理!!」


「……あーね、なるほどそういう感じ?でもいけるか?」


「やってやれないことはないんじゃね?物理演算が現実と遜色ないレベルで機能してるなら可能性あるだろ」



女性プレイヤーから飛び出した発言を聞いた周囲のプレイヤーがざわめき立つ。テコの原理……ああ、投石機みたいなことをやろうって事か。自身の身長より遥かに長い大剣を足場にして、なにか適当な物に立て掛けてぶっ叩いて飛んでいこうって考えか。……うーん?いけるかこれ?



「あの、いまいち話が飲み込めないんスけど」


「……。百聞は一見に如かず。そこの貴女、貴女の導き出した答えを示しなさい」



何か含みのある間を開けてから、ミサさんは指示を出した。()()()()()()()()()()()、そんな印象を受ける間の取り方だ。



「わかりました!ちょっとマーサル君その大剣貸して!あとハンマーも!サブ武器で持ってたよね!?」


「え?あ、おう」



テコの原理を提唱した女性とマーサルと呼ばれたプレイヤーは知り合いのようだ。マーサルはステートウォッチを操作して長方形のブロック型ハンマーを取り出し、背負った大剣と一緒に彼女へ手渡す。受け取った女性はハンマーを地面に置き、大剣を鎚の頭に立て掛けるように寝かせる。



「これで大剣の持ち手部分に脚を乗せた状態で刃の部分を思いっきり叩けば、投石機みたいな要領で跳んでいける……はず!!」


「いや、……無理じゃないか?てかそれで接近出来るくらい力強く叩いたら俺の武器壊れないか?」


「やってみないとわかんないよ!!あの!誰か思いっきり大剣を叩いてくれる方いませんか!?出来れば筋力ステが高い人がいいんですけど!」


「あー、じゃあオレ筋力特化ビルドの装備込みで400だけど立候補していいか?」


「お願いします!」


「待てって!リタが飛ぶのかよ!?」


「私が言い出した事なら私がやらないと!」


「いや成功するかもわからないし、そもそもお前って前衛職じゃないから成功して接近出来たとしてもロクにダメージ入れられないだろ!?」


「たしかに!?どうしよう!?」


「……あ~~ッ!!あーもうわかった!!わかったよ!!俺が代わりに飛ぶからお前は回復役で備えておいてくれ!!」



なかばやけくそ気味になったマーサルはステートウォッチを操作して別の大剣を取り出すと、立て掛けてある大剣と入れ替える。



「流石にメイン武器を壊されたらたまったもんじゃないから変えさせてもらうからな!」



マーサルは自身のメイン武器を担ぎ直し、立て掛けた大剣の持ち手に脚を乗せた。



「えっと、もし武器壊れたら修理費は私が出すからね!」


「そうしてくれ!」


「えーっと、んじゃ遠慮なく叩かせてもらうぜ?イチニのサンでいくからな?」



先程立候補した筋力特化ビルドのプレイヤーが、両拳に装備した手甲を打ち鳴らしながら即席の投石機改め投人機の前に立った。



「……お願いします」



不承不承といった様子のマーサルが頭を軽く下げると、飄々とした笑みを浮かべたプレイヤーは両拳を組んで頭上へ大きく仰け反って打ち下ろす構えを取る。



「じゃあいくぜ?イチニの――――サン!!」


「――――ッ!!」



物凄い速度で振り下ろされた両拳が大剣の刃に当たると同時に、持ち手に脚を乗せていたマーサルの身体が天高くまで射出された。あっという間に周囲の建築物の屋根を越えて打ち上げられた身体は、失速することなく二体の雷鳥が舞う空まで突き進む。



「おお!飛んだ!!」


「でもこれ格好の餌食にならねぇか!?」


「なら敵の意識逸らしてやりゃいいだろ?牽制射撃だ!!くれぐれも当てるなよ!?」



周囲のプレイヤーが打ち上げられたマーサルが撃墜される可能性を少しでも下げる為に、一斉に空へと向けて魔法や弓矢を放つ。それを天から見下ろしていたトネルオラージュは両翼を大きく打ち付けるようにはためかせると、迫る魔法はかき消されて弓矢も勢いを削がれて失速する。



「くっそ……!あともうちょいなのに……!」



打ち上げられたマーサルも同様、強烈な向かい風に押し返されて勢いを完全に殺されてしまう。



「……だああああ!!こなくそぉぉぉぉ!!」



射出の勢いが止まり、一転して地面に向けて落下し始めるマーサルは雄叫びを上げながら大剣を思いきりトネルオラージュ目掛けて投げつけた。苦し紛れの攻撃だが接近しているお陰で狙いは正確であり、迫る大剣は回避されることなくトネルオラージュの右翼に深々と突き刺さった。



「GYUAAAAAAAA!?」



激痛で鳴き叫ぶトネルオラージュは空中での姿勢制御を担う片翼を負傷し、浮力を維持出来なくなる。片翼だけでは滞空もままならず、体勢を崩したトネルオラージュは地面へと落下していく。



「おお!!やったぞ!!」


「意外となんとかなるもんだな!!」



急造の人間砲弾作戦での戦果に対して周囲のプレイヤーが歓喜の声を上げる。


しかし油断してはならない。忘れてはならない。撃墜したトネルオラージュは1体ではなく、もう1体いる事を。



「GIAAAAAAAA!!」


「ガハッ!?」



トネルオラージュと同時に地面へと落下していくマーサルに対して、黒い雷を纏う雷鳥が咆哮と共に鈎爪を振り下ろす。



「マーサル君!!えーっと、えーっと『ハイエスト・キュア』!!」



落下の勢いが増したマーサルを目掛けてリタが慌てて回復魔法を放つ。高速で落下するマーサルとリタの放った回復魔法が直撃するのはほぼ同時であった。

落下の衝撃で地面にクレーターが出来るのに遅れて、今度は片翼の傷ついたトネルオラージュが地面に激突する。



「きゃああああ!?」


「めちゃくちゃデカいなオイ!?」


「何人か潰されたぞ!!」


「鈍臭いヤツはどうせこのあとの戦闘で生き残れねぇよ!!ほっとけ!!」



リアルで三階建ての建造物くらいの体高はあろうかという巨体が落下した衝撃で地面は大きく揺れ、巻き起こった衝撃波で周囲の建物の窓ガラスが大量に割れる音が響いた。

建物の中からは慌てふためきパニックを起こしているであろう声があちこちで上がる。これは急いで討伐しないと街中がボロボロになってしまうヤツなのでは……?

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