壁に耳あり障子に目あり
「黒いヤツはなんかやべー匂いがプンプンするな。あれエフェクトじゃなくて纏うタイプの『黒雷』だとしたら触れただけで体力消し飛ぶぞ?」
「『黒雷』って現状判明してる最上級火力の雷魔法じゃん。なんだってそんなの使うのがいきなり追加で出てきちゃうのよ?」
「たぶんだけど【乱入システム】発動してるんじゃねぇかな。俺達プレイヤー側の最高レベルとモンスター側のレベル差が大きいからシステム的に発動しててもおかしくない」
「え?でも私らのパーティー平均レベル40くらいじゃん。『黒雷』って魔法系ジョブのレベル70あたりで修得出来るって聞いたけど、うちらにそんな高レベルいないよ?」
「いや、いるだろ高レベルならあそこに。現状10人しかいないレベル90越えの怪物サン」
「あっ」
プレイヤーが視線を向けた先では、ミサさんが山のように積み上がったフードゥルを周囲のプレイヤーに分け与えていた。あまりにも強すぎる人だとは思ってはいたが、レベル90越えだったのかミサさん。
「えっと、本当に貰っていいんですか?」
「ええ、私には必要ありませんもの。どうぞご自由に」
「じゃあお言葉に甘えます!ありがとうございます!」
フードゥルの山は周囲にいた沢山のプレイヤーが群がり、次々に収納して山はどんどん削られてあっという間に消え去った。レベル12の俺でも通常攻撃だけで倒して得られる素材はレベル90越えのプレイヤーからすれば不要だよなそりゃ。
「味方に【拳鬼婦人】がいるのは心強いが、同時にとんでもない格上と戦わないとダメなのが派手にしんどいなぁ」
「雷纏ってる方は最低でもレベル70以上は濃厚。『乱入システム』で参戦したモンスターは膨大な経験値とレアアイテムが魅力だけど、問題は生き残れるか……」
「やられたら元も子もないしねぇ」
「あの怪物サンの性分的には十中八九、黒い方に喧嘩ふっかけると思ってる。それで恐らく周囲のよくわかってない新規やソロ勢は怪物サンの方についてくだろうから、ワンチャン肉盾として機能するのを祈りながら俺等は普通の方を集中して叩くぞ」
「へーい」
「りょうかーい」
「わかったわ!」
聞き耳をこっそりと立てていたプレイヤー達はどうやら作戦方針が決まったようだ。リターンは大きいが勝てる見込みの小さい戦いよりも、少しでも勝ちの目が見える戦いを選ぶ。レベル差を考慮するなら当然の選択である。
彼らの場合は自分らより同等か少し上くらいのボスか推定20以上の格上の二択。
だが俺の場合はどちらもレベル的には遥かに格上なのでどっちを選ぼうとあまり変わらないんだよな。
『乱入システム』とやらで参戦した方が経験値的に美味しいのであれば、ワンチャン狙いで黒い方を選んでみるか。あと聞き耳を立ててしまったのでもしもの時は肉盾になって情報分は働かせてもらいます。