On your marks
「これでラストだぁ!!」
そうこうしている内に、周りでわずかに残っていたフードゥルがプレイヤーの手で倒される。水たまりを弾くように力尽き斃れたフードゥルを、討伐したプレイヤーがステートウォッチに収納する。
「お、最後の1体倒し終わったか」
「レイド戦っていうもんだからちょっと歯応えあるのかなって思ったけどちょっと拍子抜けだな。こいつらめちゃくちゃ弱いぞ」
「レベル20しかなくても通常攻撃でワンパンだもんな。最初無駄にスキル使っちゃったよ」
「でもこいつ地味に経験値美味いみたいだぜ。オレのレベル23になってる」
「マジ?マジだわ俺もレベル2上がってるわ。っかー、なんだよこんなことならもうちょい稼いでおきゃよかった」
「いうて本命はあのバカでっけぇ鳥だろ。いなくなっちまったけど」
「案外俺らにビビって逃げちまったんギャバババ!?!!?」
「よっちん!?」
一瞬の出来事だった。軽口を叩きあっていた一人のプレイヤーが、突然の奇声と共に黒い雷撃に包まれ、そのままパタリと突っ伏して動かなくなった。
「なんだ!?一体どこかギャアアッ!!?」
続けざまにまたも黒い雷が墜落してプレイヤーの一人を焼き上げる。ブズブズと焦げたような音を立てて、水たまりへ前のめりに倒れる。
「第ニラウンド開始ってかぁ!?」
「でもあのでっけぇ鳥の姿は見えねぇぞ!?」
「いや!いるわよ!!あそこ見て!!」
女性プレイヤーが指差す場所には黒く淀んだ雷雲と同化して見えにくいが、よく目を凝らして見ると2体の巨大な鳥が飛行していた。一方は消える直前までいたトネルオラージュだが、もう一方は黒い雷をバチバチと帯電させながら旋回行動を繰り返している。
「なんだありゃ?ニ体いるくね?さっきまでは一体だったよな?」
「特殊個体か上位個体、かなぁ」
「そもそも通常個体の戦闘パターンすらまだ何も判明していないのに、いきなり別パターンの同族個体出してくるのかよ」
「さっきより姿が大きく見えるからおそらく近い距離にいるっぽい、かな?」
「投擲スキルで試してみるか、40mくらいなら届くがどうかな――っと!!」
おおきく振りかぶったプレイヤーが上空にいるニ体のトネルオラージュ目掛けて、先程の落雷で崩落した建物の欠片を握って大遠投。降りしきる雨垂れなど意に介さず一直線に突き進んだ瓦礫は、あと少しで直撃するというタイミングで何かが炸裂するかのような音と共に粉々に弾け飛んだ。
「はぁ!?」
「『パァンッ!!』って言ったぞ『パァンッ!!』て」
「遠目だからちょっと自信ないが、口からなんか射出したっぽいんだけど」
「うへぇ、ゲロビ持ちかよ」
「さっき二人やられたのも同じヤツか?だとすると超高速の遠距離砲搭載してるって事になるが」
「流石に連射は出来ねぇと思いたいが、連射されようものなら俺達格好の生きた的だぜこいつぁ」