肉を打ち上げ雷光を断つ
降り続ける雨とともに絶え間なく舞い降りるフードゥルの群れを切っては収納、切って収納と繰り返して二桁回数は越えただろうか。飛来する頭数が少し落ち着いてきたあたりで、空が三度発光する。
その直後、周囲にいたプレイヤーの一人が討伐したフードゥルを大槌で大きく空へと打ち上げるのが見えた。勢いよく空へと召されていくフードゥルの身体へと、天から駆け下りてきた稲妻が突き刺さった。
「うおおお!!?なんや今の!?」
「雷が高い所に落ちる性質利用して、モンスターの死体を即席の避雷針にしたんか?」
「おうよ!雷は高い所に落ちるって言うじゃん?で、もしかしたらと思って雷が落ちるタイミングを狙って打ち上げたらBINGO!名付けて『肉盾避雷針』!!これで雷は怖かねぇぜ!!」
「笑顔でエグい事言うんやめんか?オレちょっとオマエ怖いわ」
「えっ」
大槌の柄尻を地面にカンッと打ち鳴らしながら、誇らしげに語るプレイヤーとその行いにドン引きしてる友人と思しきプレイヤー。モンスターの死体を遮蔽物にして攻撃を防ぐのは上手いやり方ではあるが、死体をフルスイングするとなると個人的には真似したくないなぁと思う。
LDDは全年齢向けのゲームだからゴア表現には規制が入っているが、なかったらたぶん臓物のシャワーや鮮血で降りしきる雨が一時の間だけ血の雨に変わっていただろうな。
しかしモンスターを咄嗟に遮蔽物代わりとして利用するのは何か今後役に立ちそうではあるし、覚えておくか。ゲームとはいえ死体をもて遊ぶような真似だから、出来れば切りたくない手札ではあるけども。
「……なんかちょっと良い匂いするんだけど、もしかしてこの鳥ってけっこう美味しいのかな?」
「モンスターの中には食材になるヤツもいるけど、流石に雷で焼けるのは表面だけだから食べたらお腹壊すと思う。あと鳥だし」
「鳥かー、鳥の生焼けはダメだね。よく火を通さないとぜっっったいダメ。魔法で炙る?」
「いまそれどころじゃないっしょ。戦闘終わって落ち着いたらね」
「なぁそういやあのひときわでっけぇ鳥、どこいった?いなくね?」
「なーにバカな事言ってんのよ、あんなデカいの見失うわけ、な、い…………いないわね」
「ダチョウの群れもいなくなったな。今は第一波撃退完了的なアレか?」
「ダチョウて。サイズ的にはダチョウだが見た目は烏骨鶏だけどな」
フードゥルの襲来がぴたりと止まり、雨もパラパラと小雨になりつつあるそこはかとなく香ばしい匂いの漂う戦場。プレイヤー達はそれぞれアイテムで回復して次の戦闘に備えたり、パーティーメンバーと雑談を交えながら戦況の把握に務めていた。
先程まで大軍で上空を旋回していたフードゥルの群れは、周囲のプレイヤー達の手によってほとんど討伐されていた。今も数体地上に残ってはいるが、応戦しているプレイヤー達の手で倒されるのも時間の問題だろう。
それよりも周囲のプレイヤーが話していたが、トネルオラージュの姿が見えなくなっているのが気がかりだ。ダチョウ並に大きなフードゥルが上空で小鳥サイズに見えていたということは、それよりも大きく見えたトネルオラージュはより巨体であるのは明白だ。その巨大な鳥の姿が見えないのは不気味だな。撤退の線は薄そうだから、雲の中で潜伏とかしていそうだが。




