轟雷一閃
とはいえスキルでもヘイトも集められないとなるとどうしたものかと思案していると、突如空が発光した。
「うわ!?」
「キャー!?」
凄まじい音と共に周囲の建物の一部が崩落し、瓦礫が道へと降り注ぐ。そして不幸にも瓦礫に巻き込まれて数人のプレイヤーが下敷きになった。自然の落雷か、それともトネルオラージュの雷魔法か判断がつかなかったが、とりあえず判明しているのは直撃したらタダでは済まないという事だ。
レインコート、装備から外しておいた方がいいなこれ。雷の直撃だったりなんだりで「レインコート壊れましたごめんなさい」で済むとは思えない。そもそもこの戦闘でやられる可能性も考慮するなら戦闘で使用するべきではない。あくまで移動用に善意で貸し与えられた装備だし。
レインコートを脱いで亜空間箱に収納すると、全身はあっという間にずぶ濡れになった。動きも若干ぎこちなさを覚える。降雨によるプレイヤー側のパフォーマンス低下、雷魔法を利用する敵の攻撃力増加、こちらからは届かない攻撃。
天候に関しては偶然とはいえ、あまりにもプレイヤー側が不利な状況だ。記念イベント戦じゃなければ不評の嵐が吹き荒れているだろう。いやもう吹き荒れてるか。プレイヤーサイドから不満続出してたな。
「攻撃が届かねぇのに雷は降ってくるわでどうしろってんだよ!」
「でもまだ攻めてきてないから!まあ今の内に何か対策練らないとこのままじゃ一方的にやられるだけになりそうなんだけど……」
「建物の屋根の上に登ってから狙撃でも届かないだろうか?」
「限界まで溜めた大弓とかなら射程届きそうな気配はあるけど大弓使いとか見たことねぇよ。そもそも届いても当たらなきゃ意味がないし、あのでっかい鳥は兎も角、周囲のちっこいのは当てるの無理ゲーだろ」
「じゃあなんかこう、巨大カタパルトみたいなので射出!!的な感じで空中まで飛ぶとか!」
「あの群れの中に単身で突撃しても返り討ちに遭うだけだろ。そもそも着地どうすんだ」
「高所からの落下は五点接地でなんとかなるよ!!」
「あら、面白い考えね」
「それでなんとかなるなら苦労はし……え?おわ!?」
周囲のプレイヤー達が遥か上空で群れを形成する大軍の対処方法に対して机上の討論会を繰り広げていると、間に割って入る女性の声に一人のプレイヤーが驚愕の声を上げた。
「あ、アンタは!?」
「ミサ様!?」
全身を打ち付ける雨など気に留めることなく、悠然とこの場に姿を現したのはミサさんだった。
「『拳鬼婦人』じゃん!?なんでここに!?」
「ごきげんよう。あら、私が闘技場以外にいるのは何か不都合があって?」
「いや!別にそんなんじゃ」
「ミサ様!私ミサ様のファンなんです!!よければ握手してくださいませんか!?」
「おいバカやめろって、今はそれどころじゃ――」
突如現れた推しに興奮気味の女性プレイヤーがミサさんに接近しようとしたのを隣にいる槍を掴んだ男性プレイヤーが静止しようとした刹那、再び空が発光した。目が眩む閃光と共に稲妻が地上を目掛けて急速落下し、轟音が炸裂して大地が爆ぜる音が反響する。
地面には大穴が空き、クレーターには男性プレイヤーが握っていた武器である槍が転がっていた。そしてその落雷箇所にいたミサさんと近くにいた二人の男女プレイヤーの姿が見当たらない。
「嘘だろ一撃!?」
「ヤバすぎるだろ!!」
「待ってなんかビリビリするんだけど」
「落雷による感電か?俺まったく感じないんだけど精神力上げてるからか?」
困惑する周囲のプレイヤーだが、俺からすればあの程度の攻撃でミサさんがやられるとは思っていない。
おそらく目にも止まらぬ高速移動のスキルで二人は無事なはず。
「怪我はないかしら?」
「…………待って待って待って私ミサ様に抱えられてるけどこれ夢?私死んでる?」
「死んでねぇけど生きた心地がしなかった……!いやゲームだから死ぬ事はねぇんだけど」
想定通り、小脇に二人のプレイヤーを抱えたミサさんがクレーターから離れた場所に立っていた。
まあ落雷程度でやられる人じゃないよな。落雷程度ってなんだよって話だけども。
この世界はゲームなので雷は現実と同じように音速よりは遥かに早く、光速よりは遥かに遅くはない。しかしそれでも驚異的な速度で迫る事に代わりはない。発光してから落雷までは1秒程度の猶予しかないが、1秒あればミサさんには十分過ぎるというワケだ。




