踊る土人形を知っている
「なんや、威勢がええのは口だけみたいやねぇ。あと3分しかあらへんよー」
「戦闘こわい!もうむり!」
「避ける避ける逃げる逃げるリーラライフ様のご褒美は手を煩わせなければもらえるなら逃げる逃げる逃げる……ッ!!」
時間経過と共に逃げ惑うプレイヤーが増え、戦線を離脱してリーラライフさんの元へ駆け込むプレイヤーも出てきて、まともに戦闘をしているのは二刀流のプレイヤーとバンダナのプレイヤーだけとなってしまった。
残り時間もあと半分、流石にそろそろ攻めないと時間的にまずい。
周囲の戦闘を見ていた限り土人形の攻撃パターンは基本的にカウンターがメインで、自ら攻めることはなかった。
おそらく戦闘訓練という形式だからそのように設定されているのだろう。
カウンターが主体で耐久値はあまり高くない、であるならばやることは簡単だな。
手にした剣を強く握り締め、すぐ傍に立つ土人形へ接近する。
自身にヘイトが向けられたことを理解した土人形が身構え、こちらに一歩踏み出そうとした瞬間を狙う。
「『ダッシュスラッシュ』!」
その名の通り移動しながら放つ攻撃スキルで土人形の横を駆け抜けながら脇腹付近に一撃を叩き込むと、土人形はボロボロと人型を保てなくなり土塊と化した。
攻めてカウンターが繰り出されるならカウンターが来る前に一撃で倒す先手必殺。
シンプルだがそれ故に効果は抜群である。
一撃で仕留めてしまえば相手に反撃する余力はないのだ。
……まあレベさんそっくりの土人形を攻撃するのは正直かなり気が引けるが、そんなこと言ってる場合でも余裕もないので今は戦闘に集中だ。
視界端に表示されるスキルのリキャストタイムを確認しながらレベさんのいる方に駆け出す。
スキル攻撃を当てて一撃で倒せる耐久なら最悪ゴリ押しでもいけそうだなこれ。
「やるじゃねェか白いの!!」
「白いの?……あ、俺ですか?ど、どうも」
屈託のない笑みを浮かべながら二刀流のプレイヤーが土人形を同時に叩き斬り、衝撃で巻き起こった砂塵を纏いながらこちらに駆け寄ってくる。
白いの、というのは俺のアバターの髪色の事を指しているのだろう。
「戦闘慣れしてるアンタに頼みがあるんだが、ちょいと協力してくんねェか?」
「レベさんへの攻撃ですか?」
「そうだ、話が早くて助かるぜ」
「いいですよ。俺もレベさんのご褒美目当てなので渡りに船です、協力しますよ」
「決まりだな。俺は鹿島……じゃねェ、『カシ』だ、宜しくな」
「シキです、よろしくお願いします」
二刀流のプレイヤー改め、並走するカシさんから握手代わりに突き出された右拳に、俺は左拳を当て返して応える。
「おいダイ!もう時間がねェから攻めるぞついてこい!!」
「了解っす!」
「ダイは右端を処理しろ!俺は左端でアンタは真ん中のヤツを頼む!」
『ダイ』と呼ばれたバンダナのプレイヤーが呼びかけに応えて右端の土人形へと駆けて行き、俺はカシさんの指示に頷き返して正面の土人形と接敵する。
「こいつァ首を狙えば通常攻撃でも一撃で倒せるのは確認済みだ!!」
すでに左端の土人形と会敵していたカシさんは地面を蹴り、大きく跳躍しながら振りかぶった二本の刀で土人形の頭と胴体を切り離してみせた。
いや強いなこの人!?もしかしてプロゲーマーだったりしますか?
カシさんの思わず舌を巻く戦闘力に驚愕しつつ、俺も負けじと正面に立つ土人形相手に距離を詰め、鞘に納めてある剣を居合のように上段へ引き抜きリベさんそっくりの土人形の頭を飛ばしてみせた。
そして襲来するなんとも言えない罪悪感に苛まれる。
……土で出来た偽物だとわかっていても、人の頭を飛ばすのは抵抗を覚えるなぁ。
「カシさん!こっち終わりました!」
「上出来だダイ!あとはこのまま一気に攻め――ッ!!?」
「「カシさん!!?」」
一瞬の出来事だった。
突如として吹き荒れた轟風がカシさんを諸共後方に弾き飛ばす。
カシさんを軽々と突き飛ばした正体、それは眼前で威圧感を放つ彼女が手にした巨大な鎚だった。