魔力が足りないなら増やせばいいじゃない
「お手並み拝見といこうかね」
ヴィレジャスさんから『雪月天』を手渡され、両手で仰々しく受け取るとズシリとした重厚感が手中を支配する。ブロンズソードと比べると数倍は重く、片手で振り回すと逆に振り回されそうな気配を感じる。
筋力のパラメーターが足りないとかもあるんだろうけど、これは確かに生半可な者じゃロクに扱えない武器だな。
純白の鞘を左手で掴み、汚れを知らぬ真白の柄をゆっくりと、静かに、厳かに引き抜いていく。次第に姿を顕現させていく神々しさすら覚える澄み切った水晶のような刀身。まだ魔力は吸われていない。完全に抜けきった状態でないと吸収はされないのか?と、刀身が半分ほど鞘から抜けた直後の事だった。
「――ぐッ!?」
右手から侵入した針が一瞬で体内を駆け抜けたような感触と、駆け抜けて勢いそのままで身体を突き破り、空いた穴から何かが漏れ出すような感覚に思わず苦悶の声をもらす。
おそらくこれがヴィレジャスさんの言っていた魔力の吸い上げなのだろう。画面端に表示されているMPゲージが一瞬にして20から0まで減少していた。まだ半分しか引き抜いてなくてこれか。
どうにかして鞘から刀を引き抜こうにも、何かが途中で引っかかってしまっているかのように柄はうんともすんとも動かない。
そもそも魔力関連のステータスはほとんど上げてないから駄目で元々ではあったので、こういう無様に失敗するのはある程度は想定していた。
だがこのまま終わるのも何か釈然としないな、どうせならちょっと悪足掻きをしてみたい。魔力…………あ、そうだ。『潰れたエリクシード』の効果で魔力の回復と魔力上限アップがあったな。ちょっと試してみるか。
一旦柄から右手を手放し、ステートウォッチを操作して『潰れたエリクシード』を取り出す。
潰れて凹みいびつな形状の果実を口へと放り込み飲み込むと、レベさんにシェイクされて減少していた体力と完全に枯渇していた魔力が一瞬にして全回復する。
魔力は上限が120まで増え、加えて状態異常を知らせるテロップで『魔力中毒』の表記が魔力ゲージの隣に表示されていた。魔力上限アップの状態は120秒で、これを過ぎるとその後24時間魔力が0になるデメリットを負うが、まあ魔法は使わないし問題ないだろう。
とりあえずこの状態で『雪月天』を引き抜けるか試そう。改めて柄を握り引き抜こうとすると、先程までの引っ掛かりが嘘の様にスルスルと鞘から刀が抜けていく。
右手を襲った異物感も変わらずにあるのだが、先程よりは緩和されているのは魔力上限が引き伸ばされたからだろうか。ジワジワと減っていく魔力ゲージを視界の端に捉えながら『雪月天』を最後まで引き抜くと、透き通った水晶の刀身の内側で極彩色が揺らめくのが見えた。




