踊る土人形を知らない
レベさんの開始の号令と共に土人形達が一斉に動き始めた。
見たところすべての土人形は武器を装備していないが、徒手格闘が主体なのか?
「え、えーい!……あ、あれ!?」
「『ダッシュスピア』!――くっ!槍が!?」
周囲ではすでに戦闘が始まっていた。
見るからに戦闘慣れしていない腰の引けたプレイヤーの大振りな攻撃を軽々と回避する土人形。
プレイヤースキルを使った攻撃で繰り出された槍に対し、柄の部分を拳で横殴りして弾く土人形を視界の端に捉えた。
まあ一切動かない案山子なわけないよな。
回避する動きも軽快で立ち振舞に余裕が見てと――
「ッ!――危っ!?」
「――いてぇ!?」
戦闘パターンを分析しつつ、土人形の集団から距離を取りながら駆け回っていると、前方から弓矢が接近してきたのを身を捩り避ける。
だが回避した俺のすぐ傍にいたバンダナのプレイヤーは反応できず、放たれた矢が背中に直撃して苦悶の声を上げた。
「わー!!ご、ごめんなさーい!?」
「ダイ!ボサっとしてんじゃねェぞ!そんくらい気合で避けろや!」
「いや無茶っすよカシさん!?背中に目はついてないっすから!?」
どうやら遠距離攻撃職のプレイヤーが放った攻撃が飛来したようだ。
矢を背後から受けた衝撃で前のめりに倒れ込むバンダナのプレイヤーに、だいぶ理不尽な檄を飛ばす二刀流のプレイヤー。
一人称視点でプレイするのがデフォルトであるVRゲームにおけるプレイヤーの視界は基本的に前方のみであり、背後からの攻撃となると音で判断するか常に首を振り続けて死角となる後方の視野情報を更新し続ける必要がある。
こればかりはVRゲームでの経験が物を言うので、慣れるまではなかなか難しい。
俺も最初はかなり苦労した記憶がある。
要領さえ頭で理解してしまえばあとは身体が覚えて自然と身につくのだけれども、言うは易く行うは難しだ。
「てかカシさん!この土人形の攻撃、思ってたよりしんどいんすけど!どうすりゃいいすか!?」
「カウンターしかしてこねェんだから『パリィ』で弾いて隙作りゃ攻撃通るだろ!もしくは気合で通せ!!でなきゃ道が開かねェ!!」
二刀流のプレイヤーはバンダナのプレイヤーの泣き言に対し、襲い来る土人形の攻撃を二刀で弾きながら連撃を叩き込みつつ再び檄を飛ばす。
攻撃が直撃した土人形はボロボロと崩壊を始め、やがてただの土に戻っていった。
あまり耐久値は高くなさそうだな、強めの攻撃を数回当てれば倒せるくらいのレベルか。
「っしゃぁ!次だ次ィ!!」
かなり戦闘慣れしてるなあの人。
周囲のおっかなびっくりな攻撃だったりひたすら逃げ回っているプレイヤーとは比べものにならないくらい場数を踏んでるのがわかる。
現在、レベさんは土人形とプレイヤーが入り乱れて戦闘を繰り広げられている箇所からやや離れた位置で沈黙を保っていた。
そしてそのレベさんを守るように等間隔で立つ3体の土人形。
少なくともレベさんに一撃を当てるには、あの門番のように立ち塞がる土人形を打ち倒すかすり抜けて突破しなければならない。
「ねぇ攻撃当たらないんだけど!?」
「『パリィ』?ってどうやるの!?」
「攻撃に合わせて武器を置きにいくイメージ!タイミング合えば発動す――ぐはっ!」
「失敗してるじゃん!!?」
……うーん、あの二刀流の人以外かなり不安すぎるぞ?
見たところまともに動けるのがあの二刀流の人とバンダナの人くらいで、あとは戦闘そのものに慣れてない印象だ。
【用語解説】
パリィ
スタミナを消費することで敵の物理攻撃を弾く事が出来る全プレイヤー共通スキル(リキャストタイム3秒)
攻撃を完全に受け流す為、発動が成功すればダメージを受けることはないが、発動タイミングがシビアなので慣れが必要。
プレイヤーに直撃しそうな攻撃に対して20F以内にパリィが成功すると『パーフェクトパリィ』となり、スタミナ消費がなくなりリキャストタイムも1秒に短縮される。
パリィが成功すると白いエフェクトが出るが、パーフェクトパリィ成功時は金色のエフェクトになる。