セールストーク
「私は小さかったからよく覚えてないけどそっかー、もう10年前になるんだ」
「うちとフィーは大戦末期頃に後方支援で連日てんてこ舞いやったなぁ。あっち行っては解毒、そっち行っては『ヒール』でひっきりなしやったわ」
「あの時と比べたらホント平和になったよねぇ」
「平和になっても変わらず武具の需要はあるもんだよ。呑気に客と世間話とは随分と暇そうにしてるじゃないかい、フィー」
染み染みと仮想世界における仮初の歴史、しかし彼女達には実際に存在していた過去話に花を咲かせていると、いつの間にかヴィレジャスさんが工房から戻ってきていた。
「お師匠様ぁ!? あっ、いやっ!違うんですよ!?これはお兄さんにお師匠様の打った刀の説明を求められてその、流れで……!」
桃色のポニーテールをブンブンと揺らしながら、必死に弁明するフィーさん。
それに対して軽く鼻を鳴らしたヴィレジャスさんは刀の元へと足を運び、座していた二刀一対の得物を掴み取る。
すると密室であるはずの屋内からどこからともなく風が吹き始め、押し付けられた風で壁がガタガタと軋む音を出した。
「……お、お師匠様!?」
「『無明』と『雪月天』これは私が大戦を終わらす為に拵えた刀だよ。一振り振れば大地を裂き、一振り振れば空を断つ。ただ純粋に破壊を求めた武器さ」
ヴィレジャスさんは『無明』を鞘から引き抜くと、吸い込まれるような漆黒の刀身が姿を顕す。
「『無明』には地の奥底で眠っていた『黒帝闇晶』、『雪月天』には天から舞い降りた『白氷光晶』で刀身を成した。我ながら惚れ惚れする出来さね』
ニヒルな笑みを浮かべながらヴィレジャスさんは『無明』の刀身を鞘に収めると、今度は『雪月天』を鞘から引き抜いてみせ、透き通った水晶のような刀身が姿を魅せる。
「ご、ごご御乱心ですかお師匠様ぁ!?嫌ですよわたし!?まだやりたいこと沢山あるんです!?」
「…………なに馬鹿な事を言ってんだいフィー、私はお前さんが説明しないから千聞は一見に如かずでそこの小僧に説明しているだけだよ」
「はぇ!?」
「武器屋で客が武器の説明を求めてるのに、武器にまつわる歴史を話してどうするんだい馬鹿者」
「わたしは説明しようとしてましたよぉー!?でも途中でお師匠様が乱入してくるからぁ……!」
「…………、そうなのかい?」
まさかのヴィレジャスさんからのキラーパス。まあフィーさんの説明途中で口を挟んで話を逸らしてしまった俺も悪いか。
「えっと、まあ……、そうですね。自分がフィーさんの説明してくれてる途中で口を挟んでしまったので、話が逸れました」