災禍に生まれた双刀
「お兄さん、どうかしましたかぁ?」
「え?あ、その、上に人が居たもので」
「上?……ああ!エクレちゃんの事ですねー。ウチの店の用心棒さんで、店内で悪さを働く人がいないか見張ってくれてるんですよぉ。悪い事をしなければ命までは取らないので、安心して見て回ってくださいねー」
つまり悪い事をすれば容赦なく命を奪いにくると。いやまあやるつもりは毛頭ないけど、フィーさんの浮かべる微塵も裏のなさそうな朗らかな笑顔が逆に怖い。魔法やアイテムでの蘇生がアリな世界観だから命の価値観が軽いんだよな。
「………………」
天井から圧の感じる視線が降り注ぐが粗相をしなければ問題はないとの事だし、とりあえず店内の装備を見て回るとしよう。
昨夜立ち寄った『フォルジュロン』とは異なり『シュペルブアルム』の店内には量産品感のあるありふれた形状の武器や防具はあまりなく、どれも独特な形状をしていた。
三日月のように大きく孤を描いた曲剣。両刃に棘が付いた剣。刀身がゆらめく炎の様に波打つ大剣。左右に枝刃が付いた刀。刃の両端にノコギリの様に黒曜石が突き刺さった木剣、チャクラム、モーニングスター、鉄扇…………もしかしてこの店、だいぶマニアックというかロマン系を扱う武器屋なのか?
「なにか気になる武器はありますかぁ?」
両手でゴマをすりながらフィーさんが尋ねてくる。
気になるというか別の意味で気になって仕方がないというか、どれも一癖も二癖もありそうな武器で困惑してるんだよな……。が、馬鹿正直にそれを告げるのは憚られた。主に上から刺してくる視線のせいで。
なんとなくだけど批判的な発言したら黒い短剣が飛んできそうな気配がする。確証はないんだけど、本能が警告を鳴らしている。
「そう、ですね……」
ロマン系統じゃない武器はないのかと店内をぐるりと見渡すと、壁に打ち込まれた台で鎮座している二振りの刀が目に飛び込んできた。
重厚な威圧感を漂わせ、どこか妖しげな雰囲気を感じるそれらは柄から鞘まで全体が漆黒と純白で拵えられ、互いの柄頭は鎖で繋がっていた。
………………鎖で繋がっている?どういうこと?
「あの二本の刀について聞いてもいいですか?」
「えーっと、ごめんなさい。それ売り物じゃないんです。お師匠様がかつての大戦時に鍛錬した刀で、名は黒い刀が『無明』、白い刀が『雪月天』って言うんですけどぉ」
「大戦?」
「あ、睡醒者だと知らない方もいるんでしたっけ。そうですね、簡単に説明しますと、この『ムルフィーム』の街が出来る前、亜人族と人族の仲はそれはもう最悪で引き起こされた大戦があったんですよー。始まりが今からだいたい20年くらい前ですかね?終戦したのは10年くらい前で、大戦中に沢山の武具を鍛錬していた当時のお師匠様が大戦末期に拵えたのがその二振りの刀なんです。まあ使う前に大戦はゴルドノア様が調停したので使われる事はなかったみたいなんですけどぉ」




