お前を見ているぞ
「ところでお前さん、金はあるんだろうね?快福竜を素材に武具を作るなら100万Gが最低ラインだよ」
「ひゃく……!?」
「……その反応だと持ち合わせはなさそうだね。まあ快福竜の素材を私らにいくつか卸してくれるっていうなら話は別だ。お前さん、快福竜の素材はどの程度持っている?」
「えっと、全部で5枚です」
「鱗は1枚50万G。本来武器や防具を鍛造するにはそれ以外の素材も必要なんだが、3枚卸してくれるなら今回は融通してお前さんの求める快福竜の素材を用いた武具を手間賃なしで1点作ってやってもいい。無論、素材を卸すだけにして別の売り物がお望みならそっちでも構わないがね」
リペアドランの鱗は1枚50万Gで買い取りで、3枚売ればリペアドランの素材を使用した好きな武器か防具を1点無料で作るという聞くだけなら破格の提案だが、実際はどうだろうか。
武器か防具、1点だけ揃えるよりは鱗を売って得た大金で装備を一式整えた方がいい気もするが、最低100万Gの加工費用なしは捨て難い。
「……少し、店内を見て回っていいですか?」
「構いやしないよ。ただし、くれぐれも壊すんじゃないよ?どこぞの誰かさんは毎回壊しかけるもんでね」
「うっ」
おそらく指摘されている張本人であろうレベさんが小さな呻き声を上げるのが聞こえた。店内に置かれてる装備のほとんどは人間サイズだし、物珍しさに触って力加減を間違えてついうっかり、みたいな感じだろうか。壁には自分の背丈を優に超える斬馬刀や大剣、大盾やら巨人族向けの装備も見受けられるが無骨すぎるデザインだし、レベさんの好みではなさそうだ。
「詳しい話が聞きたいならフィーに尋ねるこったね」
凄みのある声と鋭い視線で釘を刺したヴィレジャスさんはそう言い残して工房へと戻っていった。
さてと、それじゃあ刺された釘を意識しながら店内を見て回るとするか。少しバツの悪そうな表情を浮かべているレベさんから濡れた全身を拭き取った布を返してもらい、店内をぐるりと見渡す。
そういえば足元に突き刺さった黒の短剣がいつの間にか消えてるんだよな。突き刺さっていた痕跡はあるのに短剣がなくなっている。レベさんに揉みくちゃにされてるタイミングで誰か回収したんだろうか?
入店した直後、突然降ってきたナイフだけどあれ思い返せば真上から飛んできたんだよな。……まさか上に誰か張り付いている?と、天井を見上げた。
「……………………」
「……………………」
なんか居る!!!!??高い天井の隅、全身を漆黒の装束に身を包んで目元だけ覗かせた小柄な体型の人物がこちらを凝視していた。もしかしてリーラライフさんが言っていた件の用心棒だろうか?アサシンとか忍者みたいな隠密系の印象を受ける見た目だ。




