太腿が喋ってる
「なんや、傘も差さんとどないしたん?」
「そのままだと風邪引いちゃうよ!?」
背後から耳に届いたのは昨日お世話になった二人のNPCの声。振り返ると頭から脚先まですっぽりと覆い隠すレインコートを纏ったリーラライフさんと、巨人族専用の特注品らしき冗談みたいに巨大な傘を差したレベさんが立っていた。
雨音が止んだのはレベさんが差した巨大傘が雨を遮ったからか。いやそれにしてもデカすぎる、傘下に4人は余裕で入れるサイズだ。
「シキ君ほら!雨宿りしていいよ!!」
「すみません、ありがとうございます」
レベさんに手招きされて差し出された傘の下に移動。傘下という限られたスペースかつ身長差の影響で眼前にレベさんの太腿が目に飛び込んでくる。これは流石に眼の毒が過ぎる。いや毒ではないけど精神的に色んな意味で不安にさせるからやっぱり毒だな。……待て待て何をワケのわからないことを思考しているんだ俺、落ち着け落ち着け、冷静になれ俺、キョドるな乱れた心を静めろ明鏡止水明鏡止水……!
「もしかせんでも雨具持ってへんの?」
「……ッ!えーっと、ハイ。お恥ずかしながら」
内心混乱状態だった所にスッっと耳に入ってくるリーラライフさんの問いかけで我を取り戻す。
「ふぅん?ほんなら丁度うちら『シュペルブアルム』に用があるさかい、安くなるよう口利ぃたるからそこで買うたらええよ」
「あれ?でも店の看板には休みって」
「ああそれ、嘘なんよ」
「嘘?」
「店長さん、何かと理由をつけてお休みの看板出してるけど、あれ一見さんお断りの為に出してるって前に聞いたよ!」
太腿が喋ってる……じゃない!そういえば一見さんお断りとかなんとかリーラライフさんが言っていたな。事情を知っている常連は営業していると判断して入店、そうとは知らない一見さんのプレイヤーは掲示内容通りに受け取り引き返すわけか。
「まぁある種の符丁やね。それでも偶に看板読まずに入ってくる一見さんもおるみたいやけど。うちらみたいな常連の為に店の入口は解放されとるさかい、入ろうと思えば入れてしまうんよ」
「そういえばこの前私とリラちゃんが退店したあと、それを見て普通に営業してるんだって入店してすぐ叩き出された人いたっけ」
「防具がっつり傷つけられとったね。粗相を働くと容赦なく攻撃してくる用心棒サマがおるから白髪の兄ちゃんも注意しぃや」




