夜に駆ける
「数秒の間、目を閉じていなさい。直視すると行動不能状態になるわよ」
「わかりました」
ミサさんは閃光手榴弾を上空に浮かぶリペアドラン目掛けて全力で放り投げた。地上から登り来る飛翔物を捉えたリペアドランがはたき落とそうと爪が触れた瞬間、閃光手榴弾が炸裂。莫大な光量の閃光が竜の視界を一時的に奪い去る。
「ギャォォォォオオオオオオ!?!?」
眩い光を見た事による条件反射で身体が硬直し、空中での姿勢制御を喪失した竜の巨体が地面へと一直線に垂直落下。大地を揺るがす衝撃と共に墜落したリペアドランは、盛大に砂埃を巻き起こしながらしばらくのたうち回ったあと動かなくなった。どうやら落下ダメージを受けて完全に伸び切ってしまってようだ。
いやでもなんかすぐに回復時固有のエフェクト出てきて回復してるっぽいんだが?高層マンションくらいの高さから落下しても問題ないとかどうやって倒すんだこの竜。
……いや倒すように設計されてないのか?ミサさんがやっていたように素材剥ぎ取り専用?
「……今夜はそろそろ潮時かしらね。行動不能が解除される前に此処を離れますわよ」
倒れ伏した状態で絶賛回復中のリペアドラン。
くの字に折れ曲がったまま動かないシュトー。
落雷による痺れ状態を示す帯電エフェクトを纏いながら動けないブッキ。
それぞれを一瞥したミサさんは僅かに溜息を零しながらそう言って駆け出した。
俺も手にしたまま結局一度も使う事のなかったブロンズソードを鞘に収めてその後を追う。
……なんだろう、謎の不完全燃焼感に包まれているのだが『目的は達成出来たからヨシ!』と思って気を紛らわせるしかないなこれ。
俊敏のステータス差でかなりの速度で先を行くミサさんを必死に追いかけながら、夜を駆けるのだった。
道中は終始会話をする事もなく、というより会って間もない『顔なじみ以下知り合い未満』のそれただの『赤の他人』じゃないか、という間柄で共通する話題もなかったので終始無言だった逃避行は、ムルフィームの街へと繋がる街灯が立ち並びはじめた辺りで終わりを迎えた。
「ここまで来れば問題ないでしょう。ご苦労様、巻き込まれて災難だったわね」
「いえ、お陰様で貴重な経験を得られました。クエストも手伝って頂きありがとうございました」
想定外だったプレイヤーキラーの集団とミサさんの交戦は蚊帳の外の出来事であったが、それでも間近で繰り広げられた戦闘はハイレベルすぎた気もするが参考になった。
どうせならステートウォッチの録画機能で戦闘を記録に残しておけばよかったと若干後悔しているが、まあ他人のプレイを勝手に録画するのはマナー的にあまりよろしくないので、今回の一件は俺の記憶の内に留めておくとしよう。ちゃんと学んだ情報をあとで引き出せるかが心配ではあるが……。