ロンド・ロンド
「……チッ!余裕ぶりやがって!!」
盛大な舌打ちを鳴らしたシュトーは、装着しているグローブ型のメリケンサックで両拳を突き合わせて迎撃の構えを取った。
それを見たミサさんは一瞬だけ背後を振り向き、ブッキの姿を捉える。
彼女は大剣を担ぎ上げ、何かしらの溜め攻撃系のスキルを放とうとしているように見えた。
と、同時に周囲の何かが上空へと吸い上げられていくような異様な感触を覚える。
……これは先程洞窟内から放たれる寸前に起きた事象だと気付いたその刹那、雷鳴が炸裂し衝撃が天より駆け落ちる。
「がっ!?」
轟いた雷鳴は動きを止めてスキルを繰り出そうとしていたブッキに直撃。雷は高い場所に落ちるというが、身の丈以上ある大剣が避雷針となって呼び寄せてしまったか。
加えてリペアドランはヘイトが完全にミサさんに集中していたせいか、その落雷は完全に意識外からの一撃であったようで、担ぎ上げていた大剣が手元を離れて地面へと落下した。
「ブッキ!?」
「余所見だなんて、貴方も随分と余裕がありそうね?」
「……チッ!!…………クソが!!『槍伸拳』!!」
距離を詰めてシュトーに接近したミサさんは、異様に早く伸びる右ストレートを容易く躱し、伸び切った右腕を掴んで背負って地面へと叩き付ける。
「ぐはッ!!?」
繰り出された見事な一本背負い投げはスキルではなく、純粋にプレイヤーの卓越した操作技術で繰り出されたモノであった。なんでもありだよこの人。無法がすぎる。
「まだ踊れるかしら?」
「舐め……んなよ…………!!」
背中から叩き付けられて大の字で天を仰ぐシュトーは見下ろすミサさんに対して牙を剥く。
先程ミサさんが繰り出した一本背負い投げ、スキルではない為か見た目ほどダメージは入っていないようで、シュトーはすぐさま起き上がり反撃に出る。
次々と繰り出されるコンビネーション攻撃。右ストレート、左フック、右アッパーカット、ローキック。淀みなく流れる動きが素人目での判断ではあるがキックボクシング選手のそれである。
これもスキルを使用しているのではなく、プレイヤーのリアルの身体に染み付いた動作をゲーム内で再現しているように感じた。
現実世界において現役を退いた元格闘家がVRの格ゲーのランクマッチで無双したという話があったりするなど、人体の動かし方を把握している人間はその理解度に応じて仮想世界でも同様の強さを得られるものだ。
そうなるとミサさんのこの理不尽なまでの実力は、現実世界でも同様の力を持っている事になるわけで。
これだけ自由自在に身体を動かして戦えるのはさぞ楽しいのだろうなぁと思う反面、現実ではその力を存分に発揮出来る相手がいないのはさぞ辛かろうという感想を抱いた。




