戦闘訓練~準備~
【魔法解説】
土魔法:『土人形』
発動者本人のステータスと体格を半減させた自律的行動を行う土人形を召喚する上級土魔法。
見た目は未彩色フィギュアのような色合いだが、戦闘能力は発動者本人のプレイスタイルが色褪せることなく反映される為、発動者が実力者であるとかなり手強い存在となる。
基本的に土人形はオートで戦闘を行うが、発動者が攻撃を受ける際の身代わりにしたりするなどマニュアルで命令を出す事も可能
土人形の稼働時間は5分であり、5分を経過するとただの土塊に戻る。
腰に装備した剣の柄を軽く握りながら、僅かに冷静さを取り戻した思考を加速させていると、レベさんが軽く咳払いをする。
「じゃあリラちゃんの自己紹介も済んだから改めて戦闘訓練を始めるね!」
元気一杯の声でレベさんが宣言すると、彼女は再び指をパチンっと鳴らした。
すると地面からレベさんを半分くらいに縮小したレベさんそっくりの土人形が複数体出現する。
塗装の施されてない無色状態のフィギュアのような見た目をしているが、塗装してフィギュアにしたら爆売れすると思うのだが通販の予定とかないだろうか?
「いま私が土魔法で召喚した『土人形』か私本体、どちらかに一撃当てるか時間制限まで私達の攻撃をすべて回避出来たら戦闘訓練はクリアだよ!一撃入れられなかったり、回避出来なくても失敗とかはないよ、あくまで戦闘訓練だからね!!」
なるほどね、そういう実戦形式の戦闘訓練なのか。
土人形含めてレベさん本人に攻撃するのは気が引けるので時間制限まで回避一択だな。
自称にはなるが観察力には自信がある。攻撃をよく見て行動を分析して回避に徹し続ければ時間制限まで――
「ちなみに私へ一撃入れる事が出来た人にはあとで〝特別なご褒美〟があります!!」
――――回避オンリーだった選択肢が消し飛んだ。ついでに理性も吹き飛んだ。
「「「〝特別なご褒美〟!?!?!?!?」」」
「一撃だけじゃなくて二撃入れたらどうなっちまうんだよ!?」
「落ち着け兄弟、まずはレベちゃんの話を拝聴するんだ」
「どんなご褒美なんですかレベちゃん!?」
周囲にいる同士達が食い気味に声と鼻息を荒げながら質問を飛ばす。
俺は冷静なフリを装いながら一言一句聞き漏らすまいと聞き耳を立てる。
できれば膝枕してもらいたい……!低反発マット並にもっちりと沈みそうなあの魅惑の太ももを枕にして新境地が拝みたい……!
「えーっ、気になる?」
「「「気にならないわけがないっっっっ!!!」」」
「なんか熱量すごいね!?んー、でも残念っ、クリアしてからのお楽しみ!」
「「「うおおおおおおおおおおお!!!!」」」
レベさんの巨大なウインクが飛んだ。彼女の瞳から流星が飛び出したのが見えた気がした。
気がつけば無意識に俺も同士達と共に腹の底から雄叫びを上げていた。
特別なご褒美、正体は不明だが是が非でも手に入れてみせる……!
「〝特別なご褒美〟……死んでもクリアしてやるぜェ!!」
「うちは完全に死んだ者は蘇生できひんよ」
決意と拳を硬く握り締めていると、すぐ近くにいる槍を背負った男のプレイヤーが激しい闘志を燃やしながら叫び、それを聞いたリーラライフさんが淡々とした声音で冷静なツッコミを入れる。
この耳にスッと入ってくる冷徹な声が心を鎮めてくれるのが本当に助かっている。
リーラライフさんがいなかったら俺は今頃正気じゃなかっただろう。
「リーラライフ様からのご褒美は!?リーラライフ様からのご褒美はないのですか!?」
「なんや、うちからも褒美を求める欲しがりさんもおるん?……せやねぇ、うちの手を煩わせぇへんかったら考えてやってもええよ」
「リーラライフ様に盛大な感謝を!!!!」
デカい女に脳が焼かれた者とエルフに脳が焼かれた者達から異様な熱気が迸る。
それを若干引いた眼、というかドン引きしながら眺める今回の癖に当てはまらないであろう一般プレイヤーの方々。
俺もそっち側だったらたぶん恐怖映像でしかなかったんだろうなと思うと冷静さを少しだけ取り戻す。
人の振り見て我が振り直せ。まあ脳に刻まれた傷は治らないけどな。
「なんかいつもより盛り上がってるけど、たまにはこういうのがあってもいいのかなリラちゃん?」
「知らへんよ。うちもここまで賑やかなのは初めて見るさかい」
「んー、じゃあ私も危なくなったらちょっと”本気〟出してもいいかな?」
「あんなぁ、もしもレベが本気でやったら治すうちが困り果ててまうわ。堪忍してや」
「訓練終わったらパフェ奢るから!」
「……、少しだけならええよ」
「やった!」
昂り続ける異様な集団と、血の気が引いていくまともな集団の向こう側で、屈んだレベさんとリーラライフさんが何やら会話をしていた。
距離が離れているので会話の内容までは聞き取れないが、プレイヤーに対して色々と思う事もあるのだろうけど、二人の頭上にプレイヤーであることを示すプレイヤーネームが表示されてないってことはNPCなんだよな。
先程の二人の軽いやり取りもまるで俺達プレイヤーと遜色ないレベルの会話をしていたし、滅茶苦茶高性能なAIが搭載された作品であることを改めて認識する。
まあとりあえず俺の目標はレベさんの〝特別なご褒美〟なので、一撃を入れるのが最低条件。
とはいえ攻撃パターンも何もわからない上に、これがLDDにおける始めての戦闘になる。
まずは回避に重きを置いて行動パターンを見極めて、レベさんの付入る隙を見極めるようにするか。
【LDDにおけるプレイヤーとNPCの判別方法】
睡醒者は頭上にプレイヤーネームが表示されている為、表示されていないキャラはすべてNPCとなります
またプレイヤーが他プレイヤーを意図的にキル、いわゆるPKを行うとプレイヤーネームの表示が赤文字になります
NPCをキルした場合も同様に名前が赤文字になります