闇夜の襲撃者
その後、俺とミサさんはリペアドランが再び目覚める前に洞窟外へと向けて駆け出した。
ミサさん曰く『リペアドランは複数回気絶させると再覚醒時、稀に厄介な形態になる』らしく、それを危惧してとの事。
実際走り出して十数秒後、劈くような咆哮と地面を揺らす衝撃が洞窟内に反響したのでその【稀】を引いたようで間一髪であった。一体どのような形態なのか気にはなったが、並外れた実力者のミサさんが厄介な形態と称するなら余程の事なのだろう。見境なく攻撃する暴走形態とかそんな感じか?
先行するミサさんの後ろを追いかけながら、薄ら明るい坑道を抜けて外へと到達。あとはギルドに戻って納品するだけだな。道中モンスターと遭遇することはなかったし、このまま何も問題なく帰れそうだ。
「ミサさん、今回は改めてありがとうございました」
「……」
「……?ミサさん?」
ミサさんはこちらに背を向けたまま俺の呼びかけに反応せず、ジッと周囲の雑木林を見つめている。……そこはかとない嫌な予感。
「……2、3………5人かしら?」
ミサさんがポツリと茂みに向かい問いかけると闇の中で数人のシルエットが動き、こちらに飛び出してきた。
「――チッ!バレてんならしゃーない!!」
「だから言ったじゃないですか隠れるだけ無駄だって」
見るからに人相も態度も悪そうな徒党を組んだプレイヤー達の頭上には、血のように赤い文字でプレイヤーネームが表示されていた。
LDDにおいてプレイヤーネームは通常黒い文字で表示されるのだが、NPCやプレイヤーを意図的にキル、所謂 PKを行うとその表記が赤文字になる仕様になっている。
つまり闇夜に紛れて現れた彼らはモンスターではないがプレイヤーの命を脅かす存在、いわゆるプレイヤーキラーだ。
「馬鹿野郎オメーらなんで飛び出してんだよ!闇に紛れて奇襲する作戦だっただろうが!!」
「人数までバレてんのに奇襲もクソもあるかいボケェ!!脳みそスヤスヤ寝てんのかぁ!?」
「あ”あ”ん!?まずはオメーから入眠させてやろうかぁ!?」
「あれー?【拳鬼婦人】ってソロじゃないの?なんかもう一人いるんですけどー?」
「……見るからに初期装備だしたまたま居合わせただけだろ。邪魔だし先に片付けとくか」
「ッ!?」
気怠げな雰囲気の長髪プレイヤーが、月明かりを反射し鈍く光ったナイフをこちらへ迷うことなく投擲。俺はそれを回避しようと身体を捩るが、ナイフは俺に届く寸前に眼前から姿を消す。
「……っ、何度見ても冗談みてぇな反射神経してやがる」
「怪我はないわね?」
投擲されたナイフは地面に深くめり込んでいた。どうやら俺に当たりそうになった直前にミサさんが叩き落としたらしい。
「えっと、ハイ。大丈夫です。事情をよく飲み込めてないですけど、もしかしなくても狙われてるんですか?」
「そうね、週末になると決まって現れる私のファンよ。毎回過激なコンタクトを図るから、私も手荒い歓迎で対応しているわ。今日で通算3回目ね」
なにがキッカケなのかは不明だが、とりあえずミサさんはこの5人のPK集団から狙われているらしい。しかも凝りずに3回目とのこと。
ミサさんが毎回難なく返り討ちにしているのは想像に難くないが、それでもよく何度も立ち向かおうとするなこの人達……。