再起
「それで、クエスト達成に必要な個数は採取し終えたのかしら?」
「あと1個の所でリペアドランに遭遇したのでまだですね。まだ食べていない実が残っていれば取りに行こうとは思うんですけど」
「あらそう。けれどそれはやめておいた方がいいわ。そろそろ目覚める頃合いですもの」
ミサさんの発言の直後、倒れ伏していたリペアドランがゆっくりとその巨体を起こし立ち上がる。隕石の如き剛拳が衝突した頭部から生えた剛角はその余波でヒビが入っていたが、その隙間はすぐさま輝きに包まれて跡形も無く消え去った。
「他のモンスターであればあの一撃で立ち上がる事はないのだけれど、このリペアドランは固有の自己回復能力で1分ほどで復活してしまうのよ。まあそれはそれで叩き甲斐があるというものだけれど、動きが単調な大的を叩いて得られる経験に価値などないわ」
「あの、これって逃げた方が……」
「ヘイトは依然として私にのみ向けられていますわ、貴方が攻撃対象になる事はないでしょう。敵意を向けて攻め立てなければ自ら攻撃を仕掛ける事がないのも特徴の一つですわ。まあ何事も例外は付き物なのだけれど」
大翼を広げて起立した極彩色の竜が咆哮する。怒り心頭、といった様相だ。
そりゃいきなり食事していたら鱗剥がされて毛を刈り取られ、踵落としされて頭に隕石みたいな拳骨食らわされたのであれば人間でも怒る。
まあ隕石が頭に落ちた時点で生きていられる人間はいないので怒る怒らない以前の問題ではあるが。
「さて、ここで貴方と巡り会ったのも何かの縁でしょう。私がリペアドランの注意を引き付けてあげます。その隙に貴方は採集に向かいなさい」
少し気の毒さを覚えつつもリペアドランの襲来に身構えていると、ミサさんから思いも寄らない提案がなされる。
「えっと、それはすごく助かる提案なんですけど、そこまでして頂く理由が……」
別に俺とミサさんは知り合いでもなんでもない。俺が一方的に彼女の存在を今日知り、偶々この洞窟内でばったりと会っただけだ。
何度も顔を合わせた顔見知りですらない赤の他人で見ず知らずの野良プレイヤーを助ける理由が俺にはよくわからなかった。




