アイテム屋『ディパート』
『ディパート』という看板を掲げたアイテム屋に入ると数人のプレイヤーが陳列されているアイテムを吟味していた。俺もそれに倣い店内を物色する。
えーっと、体力を30%回復する『ポーション』1個400G、より効果の高い60%回復する『ハイポーション』だと800Gか。
所持金は5000Gしかないのでポーションを5個とハイポーションを1個買うとしよう。綺麗に並べられ瓶に詰められたポーションとハイポーションを掴み、他のプレイヤーが会計をしているカウンターへと向かう。
そういえばLDDではお金はどうなってるんだ?中世風のゲームなら皮製の硬貨袋に金貨や銀貨のスタイルが一般的だが、それらしきアイテムはアバター全身を見渡しても見当たらない。
あるのはこの中世風な世界では異彩を放つステートウォッチのみ。まさか電子決済か?
カウンターには犬耳が頭上に付き右目が前髪で隠れたいわゆるメカクレな黒髪の女性従機士が微動だにせず佇んでいた。
「……、お会計ですか」
「えっと、ポーション5個とハイポーション1個ください」
「……ポーション5点とハイポーション1点、合計6点2800G。決済はステートウォッチをこちらに」
顧客満足度の調査アンケートを取れば星1がつきそうなレベルの無愛想な表情かつ淡々とした声音で会計を促す従機士の店員。店員として配置されているNPCでこういう性格は斬新過ぎるな。
というかやはり電子決済なのかこのゲーム。現実で慣れ親しんでいる電子決済行為とはいえ、中世風の世界観からは浮いてるんだよなと思いつつ、示された端末にステートウォッチをかざすと硬貨がジャラジャラと落ちるような音と共に提示された端末が淡く輝いた。決済完了、でいいのか?
「……まだ何か?」
ジロリと、前髪のかかっていない左目で睨めつけるような視線を向けられる。会計が終わったなら早く帰れとでも言わんとしているかのようだ。
「あ、いえ。特には」
「……会計、次控えてるんで。出口はあちらです」
後ろを振り返ると両手いっぱいにアイテムを抱えた男性アバターのプレイヤーがこちらの様子を伺っていた。会計待ちのプレイヤーがいるから早くどいてほしかったのか。
待っているプレイヤーへ軽く謝罪をするように会釈をし、会計の済んだアイテムを掴んでカウンターを離れた。
「……、またのお越しを」
「ああ、ニュイちゃん!今日も麗しい!そんな君の為に今宵も売上貢献の為に馳せ参じたッ!!」
「……ハァ。……店内ではお静かに願います。ハイポーション10点、ハイマナポーション20点、合計30点で――」
LDDは始めて間もないのにも関わらず、今日1日でやたらと濃いプレイヤーと遭遇するなと思いつつ、俺は購入品を抱えてアイテム屋を出るのだった。
【用語解説】
アイテム屋『ディパート』
ムルフィーム1番街にある冒険者ギルド『レーヴ』のすぐ近くに建つアイテム屋。24時間営業。
冒険に必要なアイテムを各種取り揃えており、基本的にプレイヤーはこの店を利用してクエストの準備を整える。店員の従機士は時間帯で変わるシフト制
5時から12時担当 ルマタン
12時から20時担当 ミディ
20時から5時担当 ニュイ




